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異世界駐留記(不幸で奇妙な物語)  作者: ふじひろ
死地帰えりの男
50/135

自我欠乏、俺はなに?

「ぺローは前方を見てくれ」


まぁ、色々あって冷たい目で見られながら来てやりましたよ。でも俺は悪くないよ?あんな傲慢で上から目線な奴にはちょうどいい教訓になっただろう…


「おい、ユウ?聞いてるのか?」


そう、耳を剃ってやったのもちっとも悪いとは思ってない。けどな、あそこで泣くのはずるいよな。なんか俺が悪いようなイメージが皆についちゃうだろ?泣けば済むと思ってるの?え?

バカなのあんた?バカなの?教会行こ?


「作戦中だぞ!ユウ!」


一緒に懺悔でもなんでもしてやるよこの子がバカでスミマセンてか?無駄にプライドがデカイやつはこれだから困るよ、あ~やだやだ…


「前だ!ユウ!」


「ちと黙ってて…わぁっ!」


ゴブリンが突っ込んできた!でもこんな粗悪な

グレーブじゃ俺は切れないぜ?


なかば狂乱状態のゴブリンが振り回したグレーブは俺には当たらない。無茶苦茶な動きで剣筋は読めないがなんせこれまで幾多の戦闘で養われた俺の戦闘のセンス?(自画自賛)があるからな、こんなの怖くもなんともないぜ!


右手でグラムを抜いてグレーブを防ぎ、左手の紅い義手の硬い装甲で殴る。


バギ!


ゴブリンの顔の半分が俺のパンチでえぐりとられる。そこだけぽっかりと風穴があいた。顔が半分消失したゴブリンは白目をむいて力なく地面に倒れこんだ。


「ちっ!ざっとこんなもんだろ!」


「油断してんじゃねぇ!」


ディロンにどやされる。それも当然だ、戦場で考え事してる俺が悪いんだから言い訳するつもりもないんだが…


「おい、ディロン。敗残兵をなぶり殺しにするのは俺としてしたくないんだが一抜けたはできないのか?」


「お前が戦力に穴あけたくせに文句が言える立場か?もう一回敵が出てきたときにもう一度それを言うつもりか?向こうは間違いなくお前が殺す気がなくても剣を抜くぞ」


そりゃそうなんでしょうけど…


「お~い皆!この先、敵が集結してるよ?」


「よし、よくやったぺロー!行くぞ!」


ぺローの目が闇の中で不気味に光っている。そうだな、俺の仲間が戦っている。見えないけど隣でも戦っている人達がいるんだ。俺だけが甘える訳にはいかないな。


言われた通りに前方にゴブリン、トロールで構成された前衛突撃部隊の生き残りだろうか?防具も強硬でそれもなかなかの数がいる。あれが全部突撃してきたとなると…今の俺達だけでは間違いなく…


「殺されるな」


「ここは援軍なんてこないんだろ?」


「だが無謀にも俺達が突っ込んでなんとかなるもんじゃない」


ディロンのいう通りなんだが…


「俺達しかいないだろ、あんなに一塊になって

この数なら奇襲しても効果がない。向こうは敵がくると思ってるんだから混乱なんてしないだろうな~ましてやこの数だもん」


負け戦…で終わらせないのが俺なんだけどね…

しょうがない…目立つけどこの数を相手にするにはあれしかない。


「騎士みたいに華々しく散るか?」


「バカ言うな、俺達冒険者だぜ?人がやれないことをしてなんぼの職だろ?」


ディロン、ぺロー、見ときな…俺の凄さってやつをな…黙って見てないで応援してもいい。盛大に拍手も可


「右手の炎と」


「左手の風を合わせて~」


「喰らうがいいわ!精霊の二重永奏!ユニさんから教えてもらった精霊の同時召喚と、その合成術だ!塵ものからないくらい焼いてやんよ!えー!!ゴラッ!」


「我、無に生命を宿し、破壊と再生の調和によって存在を許されし力よ!その矛盾の摂理を

従属できぬ魂よ!」


ユニさん直伝…


「踊れ!」


ヒュルルルルルルッ!


ゴブリンとトロールの部隊の左端、奇妙な光が発生した。最初は小さかったその光も次第に大きく膨らんでゴブリンの方に伸びていく。


火の風。それは突如現れたオーロラのようにゴブリン達の背後も全ておおってしまった。

それは後ろの暗い夜空も消してしまう大きさに燃え上がっている。そしてゴブリンの群れの中でそれは舞いはじめる。

炎の波。なにもできず炎の波に飲まれる。


「お、おい!こっちに向かってくるぞ!」


「ふにゃーーーーー…!」


ぺローは一目散に逃げていった。普通そうだろう。こんな炎が迫ってきたらな。


「あの炎は俺が操作してるんだぜ?」


炎は俺達の方へは来なかった。それは、大きく迂回した。渦。炎の渦だ。炎の波が渦を巻き、

ゴブリン達を飲み込んでいく。やがてその炎は竜巻になり、どんどん空へと伸びていった。

ゴブリンとトロールは塵のように、竜巻に巻き上げられた。


「す、すごすぎる…」


「そうだろ?戦闘街の魔術師もびっくりだろうよ!」


炎の竜巻は地面から浮かび上がり、そのまま空を突き上げていた。たがその竜巻もやがて小さくなり、じょじょに見えなくなっていく。ぺローは完全に消えてなくなるまで、ずっと俺の足にしがみついていた。


前は渦巻き状にこげた地面が見える。


「全員殺った可能性なんてないからな偵察に行くぞ。まだ生き残りがいるかも」


「あの炎の中生きてるやつがいるか!」


そんな話は無視してこげついた地面を注意深く歩いていく。俺が足を踏み出すたびに、灰がふわりと舞った。これはやりすぎちゃったかな?


「あ、ありゃ精霊術だったのか?始めてみた…あんなに凄いものなのか…」


ディロンもぺローもさっきまでいた茂みで一歩も動けずにいた。腰を抜かしたんだと思う。


「サラマンダーの力にシルフの力を乗せて放ったんだ」


「二つもって…そんなこと可能なのか?」


「二つの力が同時に作用すること自体難しくない。運動エネルギーと重力、同時に作用すれば放物線を描く。それを使って弓矢になれた人は遠くにある的を直線ではなく斜め上にして射つだろ?引力と斥力…重力と浮力みたいに相反する二つの力が発生することは珍しいことじゃない」


「精霊は霊体、それに近いもの。だったはずだ…現象じゃない」


「そうだな…普通じゃないのは俺だ。エルフだから出来ることを俺は出来てしまった。なにかの偶然か?」


「そのことについてはユニさんもなにも言わなかった。ユニさんは人間じゃない。ユニさんに人間と精霊の交感は体験出来ないからな」


魔法学、神学は知らんが精霊の方は素質がありそうだ。


「………ユウは遠い国の人なんだな」


「いきなりなに言い出すんだよ…」


「すまん、ぺローが言いたいことは俺もわかる

ごめんね♪」


ちくしょう!どいつもこいつも命の恩人に対してこんなこと抜かしておる…どこだ!こいつらの親の顔が見たいわ!出てこい!


「俺はマタタビと女にだらしないお前達のほうが信用できませんな~」


「はん!言ってろ」


そのまま俺はずんずん森の奥に進んで行く。あいつら?もちろんほっとく…


「待てよ!ぺロー無しなら見えないんだろ!おーい!」


敵は恐らくさっきの火柱を恐れてこの近くにはよってこないはず、向こうは無駄な敵との接触を避けたいはずだ。ならあそこでちんたらしてる暇はない、ここに後からくる敵がいたとして

その分の敵が他の場所に集中してしまう。


ここら辺は低い山と森があるだけだ。背の高い木々が立ち並んだ森だから、雑草もあまり生えていない。だからどの方向にも簡単に進める。

だから、敵がどこからくるか予想がつかない。


「敵が歩いた形跡は…」


地面を睨んだ。だが、どの地面もかたくて、足跡なんか残るとも思えない。そのうえ落ち葉がふりつもっているから追跡もな…


バキッ!


「!」


素早く伏せて近くの折れた大木に身を隠す。今の音は枝か何かが折れる音だ。それだけだけど

用心に越したことはないだろう。


ざっざっざっ…


こんどはあからさまだな…近くになにかいる。

敵か?見方か?落ち葉を踏む音だな近づいてくる…俺の位置がバレたか?


シュッ!!


「え?」


いきなり足音が途絶えた、それになんだ今の音は…跳躍?いや違う…これは…


「ここで会えるとは…願ってもいませんでした


俺の顔の横に刀の刃が見える…鈍く光を放つこいつは…


「もう忘れましたか?私はあなたの記憶には残らなかったみたいですね?」


「いい加減刀を退けてくれるか…」


すっと刀が引いていく。ゆっくりとした動作で振り返るとやはり奴がいた。


「ミカサ…幼児退行は治ったのかい?お家に帰るんじゃなかったのかよ」


「一度受けた依頼は最後まで…ここでやり通さないとアオイの代門に傷がつきます」


「ほう…ご立派だね…それで?俺に用事でもあんのか…わざわざ会いに来てくれた理由は?」


まさかここで殺り合おうってのか?勘弁してくれよ~


「そ、それは…その…さっきは負けたから…私とけっ…けっ…」


決闘…


「も、もう一度言…ぞ…けっ…」


もう一度決闘…いやー(涙)


「ごめんなさいーーーーーーーーー!」


あの足の速さだ!直に追い付かれるのはわかってる!でも今は!あの場所から逃げ出さなくては!!


ぴゆぅーーーーーー!


「に、逃げられた…?」


「ご、ごめんなさい!?」


ガーーーーーーーーーン!!


「もうだめ…立ち直れないかも…こんな耳だし

それに…」


「ふられちゃった…」


「……………」


「お父様も言っていた…振り向くまで何度でもぷ、プロポーズするのだと…うん!」


「くじけちゃダメ!何度でもアタック!!」


ぴゆぅーーーーーー!























「に…逃げ切ったか?」


がさがさ…


「!」


ひょえーーー!もう追い付いて来やがった?化け物め!いよーし!こっちから出会い様吹っ飛ばす!!見てろよえー!ゴラッ!奇跡の神嵐もう一度見せたらぁ!


木の枝で見えなくなってる…この枝め!おら!


グラムで枝を切った先にいたのは…


カタカタカタカタ…


怯えてるまだ幼く見えるサキュバスとその子を守るように抱きしめてこちらを睨むラミアだ。

長い蛇の胴体をサキュバスに巻き付け守っているようだ。こいつらも敗走してきた連中だろうか?それともこの森にもともといる奴らかな?


「サキュバスにラミア…」


後ろにはいつの間にいたのかミカサが…


「私の二人きりの舞台には邪魔です。消えなさい…」


ゆっくりと刀を抜くあの動き!


キンッ!


「また私の前に立ちふさがるのですか?」


「俺とお前は水と油だ、相容れない仲なのさ」


キリキリキリキリ!


ちっ…なんて力だよ…アイサさん程ではないけどあの勢いあるミカサの斬撃が耐えれるか?


答えはNOだろう…勝てない…


「せめて、このサキュバスの子だけでも助けてあげてください…」


「はいはい!!わかったから少し黙っててくれないかな!!この状況わかんないかな!!」


「退いてください…これ以上私を怒らせないでください」


「彼女達に敵意はない!殺気なんて全然感じない、殺す気か!?」


「なら逃がしますか?命令違反です。今放っといたら何をしだすかわかりませんよ?人間に恨みを抱いてるから報復もありえます。ここで殺すのが妥当です」


「それにはどうも協力できませんね!」


ここでこの二人が切られるのはどうも我慢出来ない!美人で得したな…いや!決してやましい気持ちがあった訳じゃないよ!!


「あなたも人の子ですね、哀れなサキュバスとラミアに欲情ですか?いいご身分ですね。二人も囲って英雄気取りの王子様ですか?」


「彼女達に敵意はないっていってるだろ!最初から戦意がないのに切るのか!」


「はぁ~…昔、ああやって保護欲や色欲に目がくらみ死んだ冒険者はざらにいます。今ここで殺すべきてす」


こいつめ…


「今度は耳だけじゃ済まないぞ…」


「よかった♪決闘…ですね?」


ミカサの口角がにやりと上がる。それよりさっきからきになってたが…


「なんだ!この大げさな包帯は!怪我人気取りか!なんだ?悲劇のヒロインのつもりか!」


耳がはげたところ、さっきからさも自分は大怪我してると言わんばかりに頭をぐるぐる巻いていた包帯を引きちぎる!


「鶏肉みたいな肌しやがって!!出直してこい!!」


「ま、また耳が~(ガボガボガボ…)」


包帯を引きちぎられたのが余程ショックだったのか泡を吹いて倒れてしまった。


「ほら、もう大丈夫だ。出てこいよ」


「あなたは人間?」


「今からお前らを仲間のところまで案内する、

変なことはするな?したら丸焼きだぞ?」


バカは置いておき、きた道を戻りディロンと合流する。さっき戦った火柱の近くにいたからすぐ発見できた。


「なんだこの女ども!捕虜なんていらんぞ!」


「いいかた悪いな…」


「嫁にでもするつもりか!あのな…魔物との性交なんてしたら生きたまま天国行きだぞ?人間にしとけ!帰ったら紹介してやるから♪」


「嫁はいらん!俺にはそんなやましい気持ちは全くない!」


これだけははっきりと言える。


「ディロンはここでサキュバスとラミアを見張ってくれ。もう抵抗の意思なんでないだろうから」


捕まえた二人はと言えばまだ殺されると思ってるのか表情はまだ暗い。


「俺とぺローで前衛に行く。もう少し進めば聖都の騎士団と冒険者に会えるはずだ」


「わかった…気を付けて行け」


「おい、くれぐれも手を出すなよ」


「わかってますがな~♪」


心配だ…


「ぺローは前方、俺は後方を見るいいな?」


「よしきた!」


そしてまた来た道を戻る。


「あっそっちは!」


ミカサが倒れてる方向…


「どうした?」


「ぺロー、そっちはさっき確認したから大丈夫だ。次はこの道を行こう」


あっぶねー!また大喧嘩なるかと思ったぜ…けどなんで俺がこんな余計なことを…あー手がかかるな~も~!


少し谷を降りて登って少し進んで…全然敵がいないんですけど?てか見方もいないんですけど?どうするの?


「もう皆倒して魔方陣のとこまで帰ったのかな~?」


「かも知れないな」


「なら帰る?」


「いや、もう少し進もう」


その時だった!


「誰かいるのか!」


と同時に刃が俺達よりも大きい斧が飛んできた!お、斧か!デカイ!


「ぺロー避けろ!」


「誰に言ってる!」


その時隣から周りの木を凪ぎ払って鉄の塊が迫る!


「うぉー今度はなんだ!」


巨大ハンマーが俺の胴体をかする。


「も~し~か~し~て~戦闘街の子ぉ?危なかったわねぇ♪」


「あ、あぶねー…」


出てきたのは俺と歳も変わらないような女が二人、一人は黒い神官服のようなものを着ている。戦闘用なのか動きやすいように工夫がしてあるようだ。もう一人がハードレザーを着ている。俺の着ているレザーアーマーのようにただの皮の鎧ではなく、レザーアーマーのうち、特定の部位を鉄の装甲で教化された重い皮の鎧を着ている。

だが問題は武器の方にあった。二人の体には合わないデカイ斧とハンマー。


「しかしぃ…二人の攻撃を全てよけるなんてねぇ…初めてよぉ~こんなこと♪」


「私のぉ、断罪の錘(斧の名前)とデルドレの魔浄鎚ミョルニルをかわすなんてぇ~流石は戦闘街で生きている人間なだけはあるわねぇ~♪

デルドレ?聞いてる?」


「ユ、ユウさん?」


ビクッ…


「私ですよ?」


「どうしたのよぉ?デルドレ?」


あ、頭が?ナンダコレ?


「デルドレ~!イルリム~!誰かいたのかにゃ~?」


そこに新たに猫の獣人が現れる。見事なプレートアーマーを来た騎士、ヘルムは被っておらず素顔がよく見えた。右手にバスタード・ソードを左手にはカイトシールドで武装している。


「にゃ!?旦那さんにゃ!?どうしてここに!人間界に帰ってたのかにゃ!?」


頭が…割れる…い、痛い!!


「あ…あぐぁ~!誰だよ!!クソッ!」


「ユウさん?」


ピク…


最後に聖職者なのかローブを羽織り、聖職者の紋章が入ったローブ着た人が…フードを上げて現れたその顔は…


「ユウさん?ですよね?ユウさん?」


目に涙を浮かべてこちらにくる…


「く、来るな!」


「ユウさん!どうしたんです!?まさか怪我を!」


走りよってくる。なんだ?誰だ!誰なんだよ!

俺はお前なんか知らねぇんだよ!!


「ぎ、ぐぐ…」


「ユウ?大丈夫か?まさか記憶が戻りそうなのか?」


俺の手を引いて行く…やめろぺロー…


「くそっ」


ぺローを小脇に抱え上げ、一目散に逃げる。


「な!?ユウさん!ユウさーん!私ですよ!ナウシカアです!待って…待ってください!もう…

置いてかないで…」


段々と小さくなっていく…そして泣き崩れるように座り込んでいる。知るか…誰なんだよ!ナウシカアって誰だ!何で俺の名前を…名前を…


おい、何で俺の名前を知ってる?記憶…俺はお前なんか知らない!記憶が…始めましてだバカ野郎!俺の記憶が…おいおい、なんの冗談だよ面白くないぞ!俺の記憶がない?


「え?」


「あいつらは俺のなんだ?」


「おい!いい加減離せよユウ!おいユウ?」


「………」


「まさか心がもう…」


「ユウ…」


その名で呼ぶな…混乱する。


「あれは昔のお前の仲間じゃないのか?」


仲間?あいつらが?


何で俺は亡者の森で一人でいたんだ?なんで魔物がいない森で一人怪我してたんだ?俺はあいつらの仲間なのか?じゃあなんで俺は一人だったんだ?一人ぼっち…記憶もなく、瀕死であそこに?裏切りか?それともなんか理由が他にあるのか?仲間がいたならなんで俺は一人で怪我して記憶を失って倒れてたんだ?


「…」


「…俺はなんだ?」


「おい!ユウ確りしろ!まだ倒れるな!今ディロンを呼んでくるからな!!ユウ!ユウ!ユウ!」


「頼むからその名で呼ばないでくれ…」


その内俺は考えるのをやめた。

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