初依頼はやっぱこんなもん
緑豊な森の中にひっそりと存在する農村。
村の中は小川も流れており小さな川魚が時々跳ねた雫が日光に反射して綺麗に空を舞う。
森を抜けてきた風が心を洗い流すようにそっと体の熱を運んでくれる、その風には微かな木の安らぐ優しい香りがした。森の匂いだ。
所でそんな農村で俺が何をしてるかって?
それはね…………ノーコメントOKですか?
「おーい、手が止まってるぞ~力入れろよ。早くしないと日がくれちまうぞ」
「うっせー!ちゃんとやってるよ!てか何で収穫の手伝いしてんだよ!しかもデカイんだよこの野菜!」
そう、何故か収穫のお手伝い。しかもなんかデカイんだよな。なんの品種?と言うか見たことない植物なんだよ、大きなカブの話のようになかなか抜けない。うんとこしょ、どっこいしょまだまだこいつは抜けません(涙)
「冒険者ギルドだろ!何処が冒険だ!これじゃあただの農民だろが!」
「失敬ーな、給料いいから文句言うなよな。感謝されても文句言われる筋合いはない!それになまだ駆け出しのひよっ子がいきなり剣振り回す仕事貰えると思うのか?最初のうちだけだよ」
冒険者ギルドとは名ばかりで実際仕事の多くはおよそ冒険とはまったく関係ないものも少なからずある。その多くは駆け出しの人用です。
冒険者ギルドは仕事幅が広く基本何でも屋みたいなもんかなと思っています。
「しっかりロープ結んだか?今度こそ引っこ抜くぞ!」
「大丈夫いけるぞ」
根元にロープをくくりつけたぺローが手でサインをだす。
「よし!行くぞー!!」
「あ、忘れてたちょいちょい待て!待て!」
引っこ抜くためロープを握って引っ張ってたが急に止められる。
「おいごら!!やるのかやらねぇのかどっちなんだ!!もうそろそろブチッといくぞ!!」
ゴソゴソ…
「はい、コレ」
渡されたのは変わった模様の耳栓…耳栓?
「いやーコレしとかないと絶叫で聞いた人全員死んじゃうんだった♪」
いや~何か知らんけどボコッちまえ。
「説明して無かったっけ?」
「してなかったよ、な?ぺロー」
「してなかったな。もう一回ぶちこんどくか」
この植物、見たことないはずだわ。これはマンドレイク。地下にある塊根が人体の姿に似ており、地上の葉茎部分はちょうど髪の毛の部分。
様々な魔法を実行する触媒や魔法薬、錬金術の原材料とされ、媚薬や不老不死の薬の元とも言われている。これ程価値の高いマンドレイクだがマンドレイクは引き抜かれる瞬間絶叫を放ち、それを聞いた人間は即死してしまう。声の凄まじさは耳栓程度では防げるようなレベルではない。
「気になって腕輪で調べたら耳栓程度では防げないって書いてますが~?俺達殺すつもりなんですか~?」
「それは魔法がかかった耳栓だ!このマンドレイクを栽培者で依頼者でもある人から聞いてこれ貸してくれたから間違いない!てか早くこのロープ解いてくれ!血が滲んできた!」
「どうする?」
「えー?このままここに置いとくのは?」
「コラー!なにえげつない計画たててんだ!」
結局は助けちゃう。俺達いいやつ。
「行くぞー!!」
「えー?」
「行くぞー!!」
「えー?」
「行くぞー!!」
「えー?」
「何回言わせんだよ!また巻くぞ!」
「えー?」
耳栓とって血祭り、ま、当然かな。
「俺が軽くロープを二回引っ張るからそれに続いて引っ張れ…いいな…」
「ひゃい…ひゃひゃりふぁしふぁ(はい、わかりました)」
いらないんだよこの下り!
「行くぞー!!」
今度は軽く抜けました。三人とも勢い余って後ろに向かって転がっていく。
「はやぐどけ、潰れる…」
哀れ一番後ろだったぺローは二人の男の下敷きになってしまった。
「痛てて…所でマンドレイクは?」
そこで俺は驚愕の物を目撃する。軽くトラウマ
になりそうだ。人の顔した根っこが立ってる!
「あ…あれがマンドレイク?」
そして根っこは俺達に背を向けいきなり走り去る。確かに足のようなものはあるが…
「え?」
「何ぼさっとしてる!追いかけるぞ!」
そして畑の中の鬼ごっこが始まった。てかあいつ足速い…
「マンドレイクって動くの!?」
「ここのマンドレイクは勢がいいな!」
そして日がくれるまでに無事?マンドレイクを
収穫してやりました。逃げるんだよ、このマンドレイク。でもぺローがいたおかげで逃がしはしなかったがな!
「はぁ…はぁ、なんで収穫が冒険者ギルドの依頼かわかったよ…」
「ん?」
「これ、命懸けだ…絶叫聞いたら死んじまう」
「死が目の前にあってでも無事にやりきれて、
仕事したって感じするだろ?これぞ冒険者だって!確かにここはダンジョンじゃない、でもこうやって冒険者ギルドはいつも危険と隣り合わせだって覚えて、いついかなる時でも油断してはいけない注意力、危機察知能力が身に付くんだ!そのための準備である。生き残るのは力のあるやつじゃない、どんな環境でも適応でき、なおかつ、危機察知能力が優れてる奴が生き残る。力なんてもんは後から一緒についてくるもんだ」
流石ギルドマスター、深いお言葉ありがとうございます。ですかマスター?
「耳栓を忘れるとはどんな神経してんだ?その時点であんたはどんな深いお言葉でも見に染みない」
その通りですぺロー。言いたいこと言ってくれてありがとうございます。
そのあと依頼者に達成を報告していったん戦闘街に戻る。達成報告を戦闘街に到着するまえに
腕輪で報告してあったので楽に手続きが終わり報酬を受け取る。
「どうだ?これから飲みに行くか?」
「遠慮しとくぜ、俺達には帰らなくてはならない理由がある」
コクッ…
コクッ…
俺とぺローの間に謎の意思疏通が出来ていた。
「そんか、まぁ宴会はまた今度にすっか、では今日は歓楽街でムフフフフフフフフ♪」
「あ、嫌な大人の顔だ」
そして奴は夜の戦闘街の闇に消えていった。でも不吉な笑い声は闇の奥から風の音に混じり聞こえてくる。
「さて、帰りますか?」
「もう腹ペコだ…」
その場にへたりこむぺロー。しょうがない。
「捕まってろよ」
そのまま頭の上にのせてゆっくりではあるが一歩ずつ確りと歩いて帰った。
「来て三日位か?しか経ってないけどわが家って感じするわ~」
「飯…」
「わかってるよ」
酒場の前まで来て立ち止まってしみじみ思う。
前の俺はこんな素敵なわが家があったのかなって、ちゃんと待っててくれる人がいたのかなって。その人はまだ待っててくれてるのかって。
「ユウさん…」
ズキッ…
「おい、どうした?」
「いや?何でもない。お腹すきすぎて頭が痛くなったのかもな」
「腹じゃなくて?」
なんてくだらないこと言いながら酒場の中に入る。人の笑い声とぶつかるジョッキの音、全てが心地いい。
「初仕事どうだった?怪我してない?」
「いえ、怪我してないですけど死にかけましたね。(ディロンのせいでな)」
「それは、でも怪我してないってとこは流石ユウくんね♪よし!今度はお姉さんが腕を見せるところね!」
そんで調理にかかる。
「おい、いいのか?」
隣で自分専用のイスに座って…相変わらず目線は調理の様子を見ているが、話しかけてくる。
「なんのことだ?何か俺、忘れてる?」
「名前…名前聞くじゃなかったのか?昨日はまぁ…色々あったし明日のこと考えて早く寝たからだけど今日聞かなくていいのか?」
う…そうだった。ここは互いの信頼度を上げる為にも是非お名前を~
「はい♪おまたせ~」
料理が無事お揃いしたところで…
「お姉さん名前何て言うの?」
隣で早速がっついていたぺローが先に聞いた。
あ~きっかけが~(涙)
「ん?お姉さん?お姉さんの名前はね~ユニファー・ウル・セレドール、長いから前の二文字でユニって呼ばれてたわ。別に好きに呼んで構わないわ」
感動です…初めてお名前をお聞きして…(泣)
「おいおい泣いてんのか?頭痛いって言ってたけどそんなになのか?」
「いや…これは目にゴミが入ったのさ~」
そして客が沢山入ってきて俺達は邪魔にならないようにご飯を食べるとそそくさと二回に上がった。それがいつもの日課になってきた。
だからこの店の常連、特に依頼終わりの人より早く帰ってるので出会したことはないのだ。
「明日も昨日みたいな時間かな?」
「そうかもしれないな、特にすることないし早く寝ようぜ」
部屋の蝋燭を全て消す。今日は月明かりも入らず真っ暗だ。ただ恐怖はないよ?下から聞こえる賑やかな声で俺は安心できた。帰ってくる前に聞こえた俺を呼ぶ声…確かに俺の名前だった
はず…誰の声だったんだろ…綺麗な声だった…
また聞けるかな…
こうして幸せいっぱいな気持ちで眠りにつく。
「何故ですかオーディン様!?ユウくんに!息子に会わせてください!一目遠くからでも見るだけでいいんです!水晶からでもかまいません!
ですからどうか…」
「何度ワシに頼み込もうが答えは同じじゃ
ぞ…帰るんだエクシア、ユリネル、エクシアを連れていけ…」
「ぐすっ(泣)ユリネル?何やってるの?」
「…………」
「祈ってるんです…」
「届くのかわかりませんがまたユウさんの元気なお顔を見るために私は祈ります。今の私にはそれしか出来ませんから」
「きっと向こうの世界でも苦労してると思うんです。無茶してると思うんです!ですから私は無事を信じて祈ります」
ユウさん…こっちの世界は今寂しいです。早くお会いしたいです…ユウさんは世界を守るため戦っているんですよね?自分のことしか考えていない私はわがままでしょうか?でも私は…
自分の気持ちに嘘はつけそうにないです。どうかご無事で…神のご加護を、私はこの地でいつまでもあなたの帰りをお待ちします。どうか…
どうか…届いて。




