記憶、新たに
人間界との国境付近亡者の森
「おい!人が倒れてるぞ!」
「なんて傷だ…どうすればこうなる…」
「この腕輪、冒険者だな。魔物にやられたか、ここら辺の魔物は狩り尽くしたと思ってたが…違うダンジョンから瀕死の体で逃げてきたか」
「息がある!まだ生きてます!」
「ありったけのヒーリング・ポーション傷にぶっかけろ!ぐずぐずすんな!」
「とりあえず応急処置だが…一端このダンジョンから脱出して街に戻るぞ!教会まで運ぶ。全員手を貸せ」
真っ白な天井、昔もあったような気がする。思い出せないけど。う~ん…やっぱり思い出せない…
「お~気がつきましたか」
向こうから杖をつきながらヨボヨボなジジイが歩いてくる。
「一晩中祈祷しても目が覚めないのでひやひやしましたぞ」
辺りを見渡すがなぜ自分がここにいるのか全然思い出せない。記憶に無いんだが?
「ここは…」
「亡者の森で倒れていたのを狩人ギルドのチームが
発見してここまで運んでくれたのじゃ」
亡者の森?いやいや知らんよ何処だよ!
「話に聞くと瀕死の傷と言っておったがどうしたんじゃ?あの辺は危険な魔物は全て追い払ったと思っておったが違うダンジョンから逃げてきたのか?」
「覚えてない」
「そうか…余程の恐怖で混乱してたのかの~」
「いや、そうじゃない」
「丸々記憶が無いんだ」
何も思い出せない。自分の名前すら…
「記憶喪失か!?ワシの力では記憶までは治せん…すまんなお若いの、行くあてが見つかるまでここで暮らしなさい。面倒を見よう」
ん~どうしよう、記憶がないのにこれからどうやって生きていこう…ずっと世話になるわけにもいかないし…
「その…亡者の森って何処にあるの?もしかしたら何か思い出せるかもしれない」
希望はまだある!俺が最初にいたところらしいからな!何かわかるかも♪
「やめときなさい、亡者の森まで行けたところを見ると相当な冒険者じゃろうが記憶が戻ってない今、行くのは危険じゃ…そうじゃ!お前の手荷物がある、もしかしたら何か思い出すヒントになるかもしれん」
おー!俺の名前とかこれでわかるかもしれないな!
出てきたのは…
皮の鎧、高価そうな剣、ポーチ、だけ。
「こうして見るとよくこんな装備で亡者の森までたどり着いたな…その時点で奇跡じゃな」
「そうなの?昔の俺はマヌケか凄腕だな」
誉めていいのか駄目なのかわからんな…
皮の鎧、これはそこら辺の鍛冶屋でも扱ってそうな品物なのでこれはパス。次に剣だが有名な職人の剣のようだが名前がないから特定出来ないと言う理由でこれもパス。残るは一番希望の持てるポーチ、これなら何か掴めるかもしれない。
「ひっくり返すぞ」
まず出てきたのは黒いリュックサック、中には教科書と漫画、あと弁当箱が大事そうに入っている。
「伊丹ユウ、これが俺の名前…」
横で見ていたジジイが珍しそうにポーチに入ってた物を物色しはじめた。
「お前はどこの出身じゃ?この国の技術力を遥かに越えておる。この植物も見たことがない!!」
「思い出したいのはやまやまだけどわかんね」
それだけ言うとおとなしく引き下がった。
「う~ん…そうじゃな…記憶が戻ったらゆっくり話を聞きたいもんじゃ」
「おう、約束するよ」
そしてジジイに息抜きをしてきては?との提案をうけ外に散歩に出ることにした。記憶喪失の割には頭の中は混乱していない。でも色々と思う所はあったからスッキリするために丁度いい。
ここは教会の中でも低クラスなんだって堂々とジジイが言ってた。聖職者もジジイ一人だけしかいない
し大きさも他の教会比べて小さいらしい…しかも聖職者は自分の教会に聖人の遺骸を保管するらしいがあのジジイはなんでか興味ないとかそんな理由で置くことを拒否。聖人の遺骸や聖遺物は特殊な能力がありそれを守ることは聖職者の使命なのだがそれを放棄、そのせいか信者すら来ないという有り様。
「聖人の遺骸や聖遺物には強力な力を持っておる。
その力欲しさに聖職者通し争ったりするのは我慢ならん!それに泥棒とかに入られるのも困るしな♪」
…とか言ってニヤッて笑ってた。カッコいいのかただ単に面倒事が嫌いなのかわからなかったがとりあえず良い人だけと言っておこう。
「あっちが魔界…なんだろう懐かしい」
目指せ亡者の森ってか?俺なら行けるさ…なんかそんな気がするんだ。自分にはその力があるんじゃないかと…
そこから数週間自分を磨く為に素振りしたり教会以外周りは森しかないが散歩したり三食楽しくジジイと一緒に食べるという。どう見てもジジイを介護してる一人息子といった感じだ。
「まずは腕を磨くことから始めるんじゃ。そしてある程度実力をつけて人間界の最前線に向かうんじゃ
、そこには沢山のギルドがある。お前は冒険者ギルドの腕輪をしてる所を見ると凄腕の冒険者じゃったようじゃ。冒険者ギルドに行けば知り合いもおるかもしれんし、何にしてもお前がいた亡者の森に行くことができる。まぁ最初は簡単な依頼からするがよい。だがある程度実力がつくまで行くな…でなければダンジョンに入るまでに最前線の街に入っただけで殺されるぞ…」
夕食食ってる時に急にジジイが喋りだした。
「(ゴクッ)何だよ急に…」
「一言言っておくぞ…力のない者は前線ではじき死ぬ…それだけ覚えておけ」
そして平和な日常は突如として崩れた…
「今日のメーシはなんじゃらほい♪」
ん?燃えてるな…山火事か?
いつもと同じように剣の修行の帰り、山道を歩いて教会に帰る時だった。
「あの方向は……まさか!?」
正直嫌な予感しかしなかった。さっきから悪寒が止まらない。然程暑くもないのに尋常じゃないほど汗が噴き出す。息も絶え絶え転がるように教会へ走った。
「ジジイ…どうか無事でいて!」
それだけしか願わずにはいられなかった。しかし、
現実はいつも残酷だ。多分記憶を失う前から俺の幸せが続いた事なんてないと思えるほどついてないと思った。記憶を失ってそれでもまた失うのか…いつになったら救われる?受け入れられない現実にただただ絶望するしか出来なかった。
「何だよこれ…」
燃え盛る教会、そこには狭くても居心地の良い、いつもの教会の姿は無かった。ただ、全てを焼き尽くす炎だけがゴウゴウと勢いよく天に向かって燃え広がっていた。
「おうおう、よう燃えとる。俺がこんな仕事せなあかんのも兄貴が寝ぼけとるせいや…ほんまかなわんで~」
目の前に全身から火が出てる男が立っている。顔は見えない、でもそんは事はどうでもいい。ジジイは?まさかあの火の海に…
「テメェーー!この塵屑野郎が!」
自分でも考える前に剣を抜いて背を向けている男に切りかかった。
しかし、切る前に目の前の男はそれに気付きひらりとかわして空に逃げる。空に?逃げる?浮いてるだと?魔物か!
「なんや~?このけったいなガキは?この教会にはあの死にかけの老いぼれ一人やと聞いとったが、間違いやったんか?かー!ちゃんと調べとけよな~!
報告書とか書くこっちの身にもなれっちゅうねん」
「おい、魔物風情が人間界になんの用だよ…さっさと言えよ。これ以上イラつかせんな…」
もうプッツンしそうだぜ。ジジイがあの炎の中この男せいで死んだと頭で考えたらそれだけで気が狂いそうだ。
「お前が大人しゅうしとればそれでええ、ワイもあんさんを殺したりせんから。ワイも余計な仕事増やしたりしとうないからな。そこで大人しゅうじっと教会が燃えんの眺めとき~」
ジジイは?
「おい、ジジイは?」
「ん?もっぺん言ってみ?」
「ジジイは?」
「あ~アイツ?アイツはあかん、殺さな。聖人の遺骸潰しにきたのにここには無いゆーやん?無駄足やったんやけど教会おる聖職者は皆殺しちゅ~命令でとんやわ。悪いけど死んでもろたわ」
そうか…
「もういい…」
「はぁ?」
「もういい黙れ」
怒りがこみ上げる。
「死ねー!!この塵屑野郎ーーーーー!」
剣を思いっきりぶん投げようとしたときだった。
「あーん、結局来るんかいな…しゃーない、消し炭や。恨まんといてや」
「よせーー!やめるんじゃ!」
「ジジイ!」
「生きてやがったのか…と言っても虫の息やな。トドメさす必要もないわ」
「ジジイ!」
すぐに走りよるが体のあちこちが炭になっている。
もう死んでいくのが目に見えてわかった。
「ほ~流石聖職者ちゅ~ところか?消し炭にしたつもりやったけど生きとったんかい」
「ううう…」
「ジジイ!しっかりしろ!!」
駄目だ…もうもちそうにない…
「ほな、あとはお二人だけにしとくわな。ワイはこの辺で失礼すんで~」
「待て!おい!」
「よせ!追うんじゃない!」
「でも…」
「ほっとくんじゃ…」
体がいきなり鳥のようになりそいつは去っていく。
炎を纏う鳥…お前はいつかぶっ飛ばす!
「お前にこれを…」
焦げたローブに手を入れて出したのはしわしわのミイラのような左腕だった。
「これは?」
「聖人の遺骸…聖ニコラウスの左腕じゃ…」
聖人の遺骸!?そんなのはこの教会にはないと…
「魔物達に感づかれないよう隠しとったがついバレてしまった。いいか!絶対にこれを魔物に渡すな!じゃないとアイツを倒せなくなる!」
「アイツって誰だよ!?」
何言ってんだよジジイ?
「聖ニコラウスの左腕を始め聖人の遺骸や聖遺物には特別な力があるのは知っておるな?この左腕にも特殊な能力が隠されておる…お前の左腕の義手を外して遺骸をめてみよ」
言われた通りすると見事にくっつき、みるみるうちに右腕と同じ大きさになる。しかも自由に動かせられる。何だこれは…
「左腕に義手を押しあててみよ」
すると吸い込まれるように義手が左腕に消えた。
「義手を出したいと心で願え」
すると今度は吸い込まれた義手の形に左腕が変化する。
「それが聖ニコラウスの左腕の能力じゃ…吸収した物に変化させることができる。しかも取り込んで無限に進化し続ける」
こんなのがこの教会にあったなんて…
「お前は戦う運命なのか…それもしょうがなかろう。ありのまま受け入れろ」
戦うってなんだ?
「戦うってなんだ?前に言ってた魔界にいる魔王のことなのか?」
「違う…でもいつか出会うだろう…その時にお前を守ってくれる…」
「おい!しっかりしろ!!まだお迎えに来るには早いぞ!起きろ!」
「もう少しお前と一緒に暮らしたかったが…魔物に見つかる前にお前と過ごした日はワシにとって最高の宝物じゃ…それは聖人の遺骸より大切なワシの…た…か…ら…」
「こんの…クソジジイ…」
夜が明け、教会を燃やしていた火が消えるまで、俺はずっとジジイの体を抱いていた。だが依然、俺の頬をつたう涙は消える気配をみせない。それと同じように心の傷も消える気がしない。ずっと鈍い傷みを引きずっている。




