失う覚悟
「メイビスちゃ~ん♪」
「勇者隠れろ!」
「ぐぇっ!」
いきなり机の下に放り込まれる。てかなんだあのマヌケな声は…
「おい…いきなりなんだ!」
「静かにしてろ、殺されるぞ…」
おいおい、そいつは物騒だな。いつでも死がつきまとう…なんて世界だ!家に帰りたい!
「お~愛しの花嫁よ、なぜ会議に出席されなかったのです?お会いするのを楽しみに待ってたのに」
ほぅ、魔王って既婚者なの?若そうに見えるのに。
「戦争の話なんてもう聞きあきたのです。やるだけ時間の無駄でしょう」
「そうか?人間達の血で大陸を染める。そしてそこ上で結婚式なんていいんじゃないか?」
「結婚なんてまだ心の準備ができておりません…」
下からため息ついて疲れた顔の魔王が見えた。もうちょっとだけ足ずらしてくれないかな…ヒールが顔に刺さってる…
「そうかい?君がその気ならいつでもいいんだけどね、焦らす君も可愛いよ♪」
そしてまた魔王が大きなため息…嫌なのか?
「まさか結婚の破棄をしようだなんて思ってはないだろうね?君がどんなに嫌がってもこれは互いの家が決めた事なんだ。強き魔物の血を絶やさないためには仕方のない事なのだ。不死鳥と魔王の子ども…
きっと次期魔王の座に継ぐ者になるだろう♪」
「そう…でしたわね…」
「そうそう、僕の部下に聖都進攻を命じた。不意をついて王の首を討ち取る。頭を失えば人間なんて容易いもんだ。ちょびちょび同族を増やすのはもう飽き飽きだ聖都を攻め滅ぼせば部下の指揮も上がるだろう?こっちは勝手にやらせてもらう」
「そ、そんな!なんて事をしてくれたんだ!」
「もう進攻は始まってる…これで親交派の連中が騒ぎ出すが人間に臆する魔物なんていらん、必要なら殺すか…」
「なにいってる!魔王は私だ!勝手は許さんぞ!」
「勝つのは魔物、人間踏み潰して殺すだけの存在、
この世界に人間は必要ない。あんな貧弱な奴等すぐに絶滅させてやるわ」
不吉なことを言ってそいつは背を向ける。
「待て!今すぐ連れ戻せ!チクショー!」
不気味に笑いながら階段を下りていく。
もぞもぞ
「ふー、緊張した」
「すまない勇者…止められなかった…」
下を向いてうなだれてる。このままじゃ人間界が危ない…止められるのは俺だけだ!
「聖都進攻か…うまくいくかな?」
そして俺は出口に向かって歩き出す。
「やめろ勇者!奴を止めるつもりだろう!奴は不死鳥、フェニックスだ!攻撃はきかん、すぐに回復してしまう、殺されるだけだ!」
ピタッと止まる。振り返らない。
「聞き間違いだと思ってたがやっぱり不死鳥なのか…厄介だな」
「厄介!?厄介なんてもんじゃないだろ!考え直せ!
ここは留まるんだ!」
はぁ~やれやれだぜ…
「聖都には罪のない市民が沢山いる。言ったよな、互いが血を見ない道を歩いていきたいと」
やっぱり現実は巧くいかないや。
「そっちがそうでるならこっちも対応させてもらうからな、恨むなよ魔王」
「違う!お前はそんなこと言うやつじゃないだろ!
冷静になれ勇者!」
冷静になるのは魔王の方かもしれないぞ。
「さっきの不死鳥と軍隊、できるだけ殺さないように努力するが最悪の事態も考えてくれ」
「行くのか…お前もジスターのようだな…」
「ん?ジスター?誰だそれ?」
「不死鳥の奴のことだ、昔から大っ嫌いな奴でな、
顔も見るのも嫌だ」
「政略結婚か?」
許嫁と言うやつかな?羨ましいとか昔は思ってたけど、実際どんなブスとかと結婚するかもしれないしな。深く考えると嫌なものだな。
「力のある種族が人間との戦争で次々絶滅してな…
戦争するたびに魔物達が消えていく、それを止めたかった。私の家系はさほど強い種族ではないのだが
魔王の素質と言うのは特別な魔力を持つもの、それは前の魔王が死んだ後に産まれてきた選ばれた胎児一人に宿っている。素質は遺伝せず魔王が産まれてくる条件はわからない。でも魔王の血筋を守るため他の強い種族と結婚せねばならん。遺伝もしない、私も強くないのにな…可笑しいだろ?」
「ああ、そうだな」
何かの迷信に取り憑かれるてるみたいだ。
「魔王なら改革位しろよ、何のための魔王だよ」
「古い法律は魔王でも破れん、できんのだ」
魔王のお仕事って何?
「出発の前に色々お願いが…」
「行くのか…一つ約束しろ、ジスターとは戦うな、
勇者は人間界に行って危機を知らせるだけにしろ。
聖都を捨てて逃げるんだ。ジスターは殺せない。逃げるしかないんだ。逃げ延びてくれ…」
「いいよー(嘘です)」
「胸の魔力の栓なんとかならない?それが最初のお願い」
答えはすぐさま返ってくる。
「無理だなこれは失われた魔法の一つで私にも解除法がわからない」
一生魔法使えず終い?どれだけ覚えるの苦労したと思ってんだ!フィーリアめー!
「そっか…じゃあ次、このペンダントとれないか?どうしても俺には外せない…」
憎っくきブリーシンガル!最初はハーレム?ラッキーとか思ってけどこれは災いしか運ばない事がわかった。外そうとしたがどういうわけか俺には外せない。やっとこの呪縛から開放される!
「それならば簡単だ、ほら」
意図も容易くとってくれた。こんなにあっさり?どんだけ苦労したと思ってんだ!
「後さ魔王…」
「まだあるのか?」
「これで最後さ」
「なんだ?」
「ごめん…」
無限ポーチから天界産マヒタケの胞子をかける。
「うっ!?勇者…」
力なくその場に崩れ落ちる。
「何をする!」
本の山を崩して魔王の体を埋める。
「アバヨ~魔王~そのペンダントはネフトにやっといて!もう必要ないから!」
そして勢いよく階段を下りていく。後ろから魔王が呼ぶ声が聞こえるが無視して下りる。
塔から出るとゆっくり息を吐く。
「盗み聞きとは趣味が悪いなジスターだっけ?」
塔のてっぺん、屋根の上に確かに人影がある。体から炎がでてそれを纏ってる感じ?
「僕の花嫁にちょっかい出しやがって…万死に値する!人間ごときが!」
塔から飛び降りて襲ってくる!それを紙一重でかわす!
「遅いな人間~!」
「そっくりそのまま返すぞ」
「なに!?」
手の甲が切れるがすぐに炎が覆って傷が消える。本当に不死鳥なのか…
「スレ違いざまに切ったんだよのろま」
「無駄だぞ人間?僕は殺せない!僕は不死鳥なんだぞ!マヌケが泣きわめいて死ね!」
炎が迫るが炎が俺の周りを囲むより早く間合いを詰める。使いたくなかったがこれしか思いつかない。
「短い戦いだったがこの魔法でトドメだ」
ジスターの顎にアッパーかまして空中にぶっ飛ばす。そして勢いつけて跳躍する。
「バカだろ!なぁ!お前やっぱりバカだろ!不死鳥相手に空中戦?人間が?嘗めんなよ!」
その傲りが敗因だよ。
「メモリー・ブラインド」
義手のクリスタルが光出す。溜めに溜めた俺の魔力!一気に放出するぜ!
「魔法も効くかよ!」
「物理的な魔法ならだろ?」
「な!」
この魔法は状態異常魔法、相手の記憶を消して人格も破壊すると言う恐ろしい魔法なのだ。
「き、消える!そんな!」
「不死鳥だからって安心したか?これからは生きた屍として生きるんだな永遠に。どうやら死ねないらしいし?」
「ふざけんな!誰にも負けなかった俺が…俺は最強だ!人間なんぞに人間なんぞに!!」
「負けんだよ…ほぼ五分五分って感じかな」
この魔法は禁術、この魔法を使えば俺も記憶に魔法がかかり記憶が封印される。魔力の次は左腕、その次は記憶かい!踏んだり蹴ったりだな!
そのまま地面に落ちていく。
「ユウ様!!」
下に人がいる女が三人いや塔からもう一人、えーと見たことあるよな、どんな名前だっけ?
「俺が負けるかー!!」
最後に魔法を使ったのか特大の魔力の弾が下の四人組に向かって飛んでいく!混乱しているせいか狙いを誤ったようだ。
「誰だかしらんが無関係な奴を巻き込むか!」
自分から弾に突進する!
ドバァーーーン!
弾が炸裂して魔力の破片が体中に突き刺さる。
「ぐっ!」
空間が歪む。そういえば最初は弾を魔法で消そうとして何かの魔法を発動したが何の魔法をなのかわからなかったが何か転送系の魔法みたいだな。体が空間に出来た渦に吸い込まれていく。
「ウガァーーー!!」
何か体から火が出てる空飛ぶ人が強烈な光を放って地面に落ちていくのが見える。勝った?何で俺は戦ってたんだっけ?段々と景色が変わっていく。
「まぁいいや…大事な何かを守れた気がするしまだな気もする…待ってろよ全員助けてやるからな…」
そこで俺の体は完全に渦に吸い込まれた。
魔界とはこれでさようならです。




