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異世界駐留記(不幸で奇妙な物語)  作者: ふじひろ
ジリジりまるカジリ!
133/135

極寒の豚箱

「ユウ殿!前です、前!」


「わかってらい!気にせず走れぇ!」


イフリートの炎はいとも容易く進行方向を塞ぐ雪の塊を溶かす。どうもきな臭い、人為的に誘導されている痕跡がある。通路を雪や氷で塞いでいる後が何ヵ所か先ほどから続いている。どれも反響定位で氷の先に道があるのをこっちは知ってるので破壊して押しとおるわけだが。


「次に迷宮が変化する前にどうしても合流しないとな!」


「はい!急ぎ足、急いでますよぉ!」


セントーレの速度がヴァルキリアを凌ぐ速さだとしてもミーメイとヴァルキリアの距離が近い。間違いなく遭遇してしまう。そうなったときいつまで持ちこたえられるか?冷や汗が止まらない。


「セントーレ前方に動きがある!いったん止まれ!」


「しっしかし!急がないと…」


いきなり通路を塞ぐ形で氷の壁がある。これ以上進ませたくない理由でもあるのか?向こうも切羽詰まってるらしく誘導から足止めへとシフトチェンジしているらしい。


セントーレから降りて氷の壁に手を触れてみる。罠と言うわけでは無いらしく魔力は感じるが魔方陣などのトラップがある訳じゃない。そして壁の向こう側に魔力を帯びた動くものが、動きから生物的にも思えるが魔力しか感じない。生物ではなくあくまでゴーレムのような魔力を持った無機物が魔物となったもの、予想ではスノーマンとかが群れてそう。


スノーマンの知能は高くないし1つの命令を忠実にこなすが進路の誘導はしてもそこから閉鎖みたいな急にやり方を変えたりはしないと思うが。


「…セントーレ、離れてろ。とりあえず魔法で向こうの敵ごと吹き飛ばす。魔王軍ってこともあり得るからな」


詠唱破棄の炎熱系魔法を見舞う。敵がなんであれこちらは急がなければならんのだ。


「ファイアー・ボール!」


壁に穴が空いた瞬間イフリートの炎を叩き込む。氷が水になり瞬時に蒸発、辺りに水蒸気が発生し湯気が、熱い!


「さぁ、道を開けてもらおうか?」





















ユウ「え?」
















「諦めないで、きっとユウならすぐに助けに来てくれるから!」


「もう無理だよぉ…」


セルキーを庇った時に負傷した右足を引きずりながら壁づたいにとりあえず前に進む。セルキーはミーメイの肩を持ちながら側で弱音を吐いた。心が折れて怯えるのも当然かもしれない。でも今はそれでも勇気を振り絞って前に進むべきだとミーメイは直感した。悠長に捉えるべきではないでもユウなら…とどこかで信頼とも甘えにも似た感情が頭を巡っていた。強がりでもとりあえず諦めないためには甘えでも十分に活力になり得た。


「グギギギ!グギャッ!」


「ひっ!」


ウルクハイの集団、運悪く魔王軍と鉢合わせてしまった。二人にも嫌な汗が額を流れ背筋がゾッとする。ミーメイも最早覚悟を決めセルキーを背に構えをとった。半狂乱したウルクハイには容赦などなく目の前の敵に槍を携え迫り来る。


「グワッグワッグググギギ!」


20はいるだろうか?ミーメイは手負いの身でいくら耐えしのげるか、思案する。どうにかセルキーだけは逃がさないとしかしセルキーは足がすくで動けないでいた。


「早くっ早く逃げて!」


先頭の一匹の槍をすり抜け群れの中に入る。リーチの長い得物も懐に入れれば恐ろしくはない。まず1人を蹴り飛ばす。すると何匹か巻き込んで倒れていく。


「(よし!なんとかなりそう)」


しかし膝に力が入らない、その場に崩れる。ミーメイの誤算は自分が思っていることより深手だったこと。


「(嘘!?)」


目の前のウルクハイの胸から槍が突き出てきた。

咄嗟のことに避けきれず深々と横腹に突き刺さるり鮮血が吹き出る。ミーメイは同士討ちを避けるだろうと考えたが敵には連携など考えずただがむしゃらに攻撃してきた。予想外の攻撃に体が反応仕切れなかった。


「(傷、深い!)」


ウルクハイが力強く槍を引き抜く。傷口から大量の出血、口の中がじわりと鉄の味が広がる。内臓を大分損傷したようだ。目の前が白くなりボヤけてみえる。とっさに傷口を押さえたが湧水のように暖かい血が流れ出ていた冷たく冷えた手には特に暖かく感じただろう。でも体は冷えた手と同じように冷えていく。ひどく寒かった。


よろよろと2、3歩下がると何かに当たった。セルキーだった。そのままずりずりとセルキーに体を預けて力なくその場に倒れた。口から血の泡が出る呼吸もしたくても出来ない。目をつぶる、あけることそのものが辛い。耐える、耐える。痛みに対してではない。痛みもなくただ身体を覆うこの寒さと失う感覚に抗う、ために耐えることしかできそうになかった。


「あふぅー…ぶぶぶっ…」


「血っ血が、あっああ出てでで出てうっうう」


ウルクハイはただ動けるもう1人に狙いを付けたセルキーはただその時が来るまで震えながらミーメイを強く抱き締めた。すがる者がもはや傷病人だろうと関係はなかった。


ピュインッ!


静寂を裂く雷鳴のように二人の後ろから閃光が走った。一匹、ウルクハイは目的を達することなく倒れた、ようやく他のウルクハイも今倒れたこいつが死んでいると理解した。セルキーはゆっくりと振り返った。


「ひっ!」


バサッバサッ…


暗闇から何かが歩いてくる。透明な空間から火花が散り金属の大きな女性が現れる。肩に付いた雪を手で払いそして視線を肩からじっと前を見た。通路の端を獣人『保護対象』そしてそれを庇うように抱き抱えた魔物『排除対象』そして前にはまた魔物『排除対象』内1体の所持する槍から血痕が付着しており前方の魔物に対し獣人が致命傷を受けたとシステムは判断した。


歩いていく、プラズマショルダーキャノンの照準はセルキーに向けられていた。怪しい動きをすればすぐに撃ち抜くためだ。魔物は全て『排除対象』に設定されているがそれと同時に人、亜人も含め『保護対象』はどんなことがあっても守らなければならない。危険度の低いと思われるアザラシ型は後に排除。刺激せず重傷者の獣人を保護するに辺り人質にされる危険も考えあのアザラシ型が油断した瞬間を狙うしかない。


なのでまずは一番害の及ぼす恐れのある前方のゴブリン型亜種の排除を優先する。先にヴァルキリアは仕掛けた、プラズマショルダーキャノンはセルキーを照準したまま残った武装でウルクハイに攻撃を始めた。


ウルクハイは弓矢など遠距離武器は無いと見て判断し距離を詰め怪我人より前に立ちはだかる。一匹も通さないように先頭の敵から順に倒しす。まずは二段伸縮式スピア(投擲用の槍)を先頭のウルクハイを貫く。そのまま槍がささったウルクハイは床を滑りながらヴァルキリアの横を抜けていく。セルキーのすぐ側に鬼の形相で絶命した死体が横たわる。悲鳴も出ずまたヴァルキリアの殺戮に目が離せないでいた。


刃渡り50cmほどのリストブレイドでまだ10以上いるウルクハイの進行を止めている。しかし圧倒的防御力を誇るヴァルキリアの装甲はウルクハイの槍ごときでは破壊できない。数で勝るともヴァルキリアの前に次々と肉塊へと成り果てた。しかしそんな中、ウルクハイの一匹がヴァルキリアの攻撃の隙をみて突破した。


「こっこないで!」


セルキーが必死に声を上げるもウルクハイは止まる気配はない。どんどん加速しこのままではミーメイに迫る勢いだった。セルキーは戦闘なんてしたことがないし相手を殺す心構えもない。しかしミーメイを守るため隣の死体のスピアに手をかけた。硬直してなかなか抜けなかった。そうこうしてる間に敵が迫ってくる。セルキーはどうしたらいいかわからなかった、ただ柄を握り貫通した刃先を敵に向けた。抜くのは諦めてさきほどミーメイが受けた攻撃のように間にいる死体ごと敵を貫くためなんとか相手に刃先を向けた。持ち上がらないしそもそも当たらないかもしれない。柄を地面につけ串刺しにすべく敵を待った。


ヴァルキリアは一連の行動をもって思案した。あのアザラシ型はスピアをこちらに投げ返す可能性が少なくともあったからだ。先にあのアザラシを排除すべきか?そうするとあの怪我人はウルクハイに殺されてしまうだろう。ではウルクハイを撃つか?そうすれば背後からスピアを投げ返され破壊されないにしてもなんらかの計器に不具合が出る可能性もある。自らの武器ならこの金属の身体も破壊可能だからだ。どうするか?迷いが生じた信じるか否か?少なくともアザラシ型は引き抜くのを諦めそのまま槍を死体ごと突きだした。あんなものは当たらない。ではどうする?


「私だって!私だって!アアアアァァァ!」


「グワッグワッグググギギ!」


涙を浮かべ方向を上げる。後がない決死の両者。

ヴァルキリアはレーザーで「ウルクハイ」を撃ち抜いた。


「あっあああっうっぐっ!」


槍に重い衝撃、セルキーにはウルクハイが槍に突き刺さっさと思った。離しそうになるのを必死に抑え唇を血がにじむほど噛んでいた。掌の皮が破れ血が出る、それでも槍だけははなさなかった。


やがて強い衝撃がなくなり。振動が消える、槍にはウルクハイが二匹串刺しになっている。


「ううう…やった…やってやったぞ!ううう…」


泣きながらようやっと槍を手放した。倒したウルクハイはレーザーで頭を撃ち抜かれていた。そのままよたよたと歩いてきたところセルキーの槍に突き刺ささったのだ。本人はそれに気づいていない。


ヴァルキリアは手っ取り早くレーザーを乱射、敵わないと知り逃走するウルクハイもプラズマショルダーキャノンで急所を撃ち抜く。体温が下がっていくこと、鼓動が小さくなるのを確認してヴァルキリアは振り返った。後ろにはウルクハイの死体が2つ、それにまだ立っている魔物と瀕死の獣人だ。セルキーははっと我に返りさっきの怯えて泣くことしかできなかったセルキーとはうってかわり乱暴に足で死体を踏みつけながら死体からスピを抜き取ろうと引っ張る。当然非力な彼女には抜けない。


「なんで!なんで抜けないのよ!?」


ヴァルキリアは未だ苦戦するセルキーにゆっくりとでも確実に照準を合わせた。


「くそくそ!んぐぐ…きゃあっ!」


偶然にも伸縮スイッチに触れ刃が折り畳まれる。

突然に死体の抵抗がなくなり軽くなって勢いよく後ろに転がった。打ち付けた頭を擦りながら痛そうな顔して立ち上がり手に持ったスピアを歩いてくるヴァルキリアに差し出した。手に持ったスピアとセルキーの顔を交互に見つめる。


「とっても助かりました!あっありがとうございます。かっ返します」


小さな幼い少女が3倍4倍もあるヴァルキリアにスピアを手渡した。ヴァルキリアはセルキーの目の前で伸縮スイッチを押す。折り畳まれた刃が突き出る。さっきまでウルクハイを貫いていた槍だ

それをセルキーに向ける。


ドキドキと心臓が止まらない。ヴァルキリアは興が冷めたか、少し脅してやったが毛ほども警戒心のないアザラシ型に敵性を認められず伸縮スイッチをまた押す。そしてセルキーに差し出した。恐る恐る手を伸ばすセルキーに確りと握らせる。そしてボタンを押すんだと使い方を教える、喋ったりはしないが身ぶり手振りで言いたいことは伝わるしこちらの言葉はヴァルキリアに通じる。


一先ず害はないと判断しヴァルキリアは色々「友だちが怪我してる助けて」とかしゃべってくるアザラシ型を無視して獣人の怪我をみる。虫の息でこのままだと死は免れない。ヴァルキリアは自分の太腿付近を軽く撫でると急にそこが割れ蒸気とともに箱のようなものがせりあがる。メディコンプと箱に記載された応急処置キットが搭載されている(反対側は自己修復キット、工具搭載)。外科用品といくつかの薬品で構成されている。麻酔針を射す。指先の爪が割れ極細の小さなアームが伸びてミーメイの体の中に入っていく。


「うっあぐっ…」


全身麻酔ではないようでボヤけてもまだ感覚がある。意識はないが自然と体は痛みに反応する。苦悶の表情のミーメイを心配そうにみつめ血まみれの手を強く握った。


「大丈夫だよ…大丈夫だからね。ごめんなさい私ずっと怖くて…本当にごめんなさい…」


内臓を正しい位置に戻し出血を抑え槍が突き刺さったときに体内に入った空気中のゴミや衣服の破片などを取り除く。ウルクハイの死体から肉片をえぐり謎の薬品で固めるそれで傷口を埋めていく。人造肉で欠損部位を補う(これは自己修復にも用いられる)のだ、後は手首から管を伸ばしてミーメイの腕に突き刺す。失った血の代わりに人工血液を輸血する。


蒼白だった顔色も血色が良くなっていく。とりあえず危機は脱したようだ。あまり怪我人を移動させるのは危ないが安全が確保できる場所まで移動させることにした。背中の大きな羽を広げミーメイの体を包み込み持ち上げると繭のようにヴァルキリアの背中に収まった。金属の柔らかい羽を発熱させ保温性を高める。できるだけミーメイの体を温めた。


「私たち迷子で、他にも友だちがいるの。探してくれない?」


ヴァルキリアはあといた人間(勇者ユウ)のことだと判断、馬型を『保護対象』に変更し背負ったミーメイとセルキーを小脇に抱えてルート検索に入り熱を発する場所を探す。ミーメイとセルキーの後を追ったときは足跡(熱を関知して)追えたが今回は大分あやふやな痕跡をたどることになるしかも魔物だらけのこの迷宮から探しだせと言うのだが感情のない機械なので特に何も思うこともなく移動を始めた。















「…ユウ殿!この先ですか!?」


「ああ…死体だが…な」


大きさから察するに二人ではないがウルクハイなのは間違いなく。戦闘があったのか、問題は二人が殺ったのかそれとも


「ヴァルキリアが殺ったのか…だが」


セントーレの後ろに色白の肌の女性とスノーマンと呼ばれる大小様々な雪だるまがところ狭しとついてくる。


「もうすぐ着きます、戦闘が合ったみたいなんですけどここら辺に誰かいたとかあります?つららさん!」


つららさんと呼ばれた女性は顔をあげた。着物姿、水色の髪を揺らし白い雪のような肌が特徴の美女。魔力はあるが身体は氷でできている。グラキエスの亜種とも言えるかな?日本人の俺にとっては馴染み深い…


「いいえ、城までたどり着けないように工作を任されたのは私だけなので…他にはいません。お連れ様かもしくは教えていただいた『ヴァルキリア?』ではないでしょうか?それにこの子達(スノーマン)は他人を殺すようなことはいたしませんので」


悲しそうにそう言った。そうです、彼女は雪女と呼ばれる魔物。日本では妖怪と言われる魔物の一種でさっき俺が誤って溶かしそうになったのを助けて事情を説明してミーメイ探しに協力してもらっている。やはり俺が睨んだ通りグラキエス(氷の女王)は穏健派で魔王に攻撃されているらしい

俺が勇者なのはまだ伏せておこう。少なくとも人間は敵じゃないと思っても勇者だと知ると何されるかわからんからな。


たまにある分かれ道には分裂したスノーマンが枝分かれしていきさっきヴァルキリアを雪崩で押し出したように強制的に外に排出している。ミーメイもセルキーもまだ外に排出されてないとなるとまだこの迷宮にいるんだろう。残りのヴァルキリアもそうだが…


「到着しました…」


「そうだな…とりあえず二人がここにいた訳じゃ無さそうだ」


殺されたウルクハイは全て切り傷や刺し傷があの二人は刃物なんか持っていないそれに特徴的なヴァルキリアによるレーザーの焼き傷だ。ここにいてウルクハイを皆殺しにしたのはヴァルキリアと見ていいだろう。


「魔王軍同士潰し合いか…正気じゃないな」


この先にヴァルキリアがいるのか…二人はまだ無事ってことだろう。迷宮が形を変える前に二人を探さなければ!


「つららさん、1つお願いがあります」


「なんでしょうか?」


やんわりとした落ち着く声で返してくる。


「雪や氷の壁は迷宮の端から中心にかけて張り巡らされているんですよね?」


「ええ、まずは城に繋がる抜け穴へのルートを最初に全て遮断いたしました。次に侵入してきた方達を外へ逃がすように誘導していましたので覆う→閉じ込める→移動させる、ように動いております」


つまりはつららさんはもう全体を掌握(最優先事項の抜け道の遮断)している、そして細部(次に侵入の追い出し)を潰してる段階なわけか。それなら…


「つららさん、この迷宮の中心に案内してください。そこで待ちましょう」


一点に集めて二点に分ける。すくなくとも一点に集めて一点に逃がせる。

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