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異世界駐留記(不幸で奇妙な物語)  作者: ふじひろ
ジリジりまるカジリ!
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天使達の日常パートその1

「オーディン様?嘘ですよね、だって」


「天使が地上の人間に干渉するからこうなったのだ。元をたどればお前が悪いのだ」


エクシアさんとオーディン二人だけしかいない。オーディンはあきれるように、エクシアさんは絶望的な表情で現実を受け入れられないでいた。大切な我が子を知らず知らずの内に自らの手で死に追いやった、そんな罪悪感がエクシアさんの中にはあった。


「殺さなかったのはせめてもの慈悲だ」


そんなのは嘘で有効活用するために放ったのだ。勇者だと祭り上げて2度と戻ってこれないゴミ箱に歴代の勇者たちは何も知らず秘めた願いを叶えるために魔王に支配された土地を平定しに神によって送られる。


勇者は力がある、神を脅かす力が。あるものは神を恨み挑む危険分子、何者も区別しない広い心の持ち主、そしてある者は「天使に愛された人」とか。神に仇なすとみなされ邪神復活を阻止させるために送り込む、そんなやつらを。死んでも神が得する消耗品、それが勇者の神が思う評価だ。


「おっしゃったではないですか!なぜ反古されるのですか!?彼はただこの地でユリネルと添い遂げたいだけで危険分子では…」


「神によって作られた分際で付け上がったあの男には大事な天使はやれんだろ。なに、向こうの世界で幸せに暮らしているだろう。一度は事故で失った命だ、今生きてられるだけで幸せだろう」


エクシアさんはただ膝から崩れ落ちた、オーディンの足下にすがり付き必死になってユウを返してくださいと泣きつくもオーディンは聞き入れない勇者はこれまで通り利用だけして勝手に死んでもらいたかった。


オーディンはエクシアさんを無理やり引き剥がし早々とその場を去った。すると回りの空間が歪み周りの景色は雨の野原に変わっていた。エクシアの心に反応して景色が変化したようだ。曇天の空でただ1人この野原に置き去りにされたように周りは何もなくエクシアさん1人だけ。


今ユウくんはどうしているのかな、ひとりぼっちで泣いてないかしら…いえ、未知の世界に置き去りにされて…怖い目にあってるに違いない。魔王が放った魔物に…


殺されてるかもしれない!?傷つき戻ることを夢みて苦悶のまま魔物に殺されているかもしれないなんてこと!あぁ!!


「ごめんなさい…許して…」


頭に浮かぶのは我が子のように愛しいユウくんが苦しんで自分の名を叫ぶ様子だけが頭の中に、目の前に惨劇が広がっていく。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も目の前で!苦しいって痛いって怖いって助けてって叫んでるのに止められないこの声が聞こえる。


「ママー!助けて!」


「もう止めて…」


何度もあの死んだ目でこちらを見つめる。壊れた人形のように助けてとか細く喋る変わり果てた我が子。臓物ぶちまけて千切れる身体。

















ブゥーンン…キキーッ!


鉄の塊、自動車と言うやつだ。通学途中だったかな、トラックの運転手の思考を麻痺させた。その時付きっきりだった肝心のエクシアを呼び出しておく。もう守ってくれる者はいない。誰の加護もなくその人間はあっけなく死んだ。悲惨だな、いきなり身体をバラバラに引き裂かれ死んだことに気づかず即死だったろう。


地獄に落とされ混じり合う魂、そんな中どこぞの神の思惑を否定するように他の魂を取り込み冥府の魔魂となったユウ。


エクシアの前にはまた救えなかったユウの姿が何度も繰り返し再生される。オーディンに呼び出されたあの日、トラックに轢かれ無惨に死んだユウの姿が重なり何度も助けてと言う。


「お願い許して…」


その時頭上をディナメスが通りかかった。草原にしゃがみこむエクシアを発見した。


「ユリネル!クリュネル!いたぞ!エクシア様だ一人、草原にいるぞ?」


まず下りて具合が悪いのかエクシアを覗き込む、泣いて独り言をずっと言っていてディナメスは危険な空気を察知して逃げたくなったがエクシアがユウの名前をしきりに言ってることだけは理解できた。


「旦那がどうしたのかよ!エクシア様?」


「ディナメス様ー!」


「おう!こっちだ!なんか様子が変なんだとにかく早く来てくれ!」


急かすディナメス、到着したユリネルとクリュネルだがすぐにディナメスが言ってた通り異変を感じた。何かを責め続けるような…


「どうされました?こんなとこにいては風邪をひいてしまいます。戻りましょう」


ユリネルの差し伸べた手を払いのける。そして謝り続ける。ごめんなさい許してごめんなさい許してごめんなさい許してごめんなさい許してごめんなさい許してごめんなさい許してごめんなさい許してごめんなさい許してと誰かに謝り続けていたクリュネルは誰に何を謝ってるのか訪ねる。


冷静に呼吸を整えるエクシア、伏せてた顔をあげユリネル、ディナメス、クリュネルの顔を見渡しそして答えた。


「騙されていたのよ…ずっと戻らない人の帰りを待っていたのね…」


「なんの話をしているのですか?」


震えた声でディナメスは言った。クリュネルは静かに目を閉じユリネルは唖然となって開いてふさがらない口を手で覆い隠す。


「もう2度と会えないのよ…」


飛びかかろうとしたディナメスをクリュネルは抑えた。察しがついたのだ、全員。なんのことなのか、何を謝ってるのか。


「もう会えない、生きてるのか死んでいるのか。ただ苦しんでいるのは確かなこと…ユウは…」


真実を知らずにまだ戦っているならこれほど残酷なことはないだろう。まだ知らずに逝ったならそれが幸せだろう、なぜなら全てが終わっても何の願いも叶わない。約束など最初からなかった。希望なんて最初からなかった。また幸せな未来が訪れるなんて最初からなかった。


「もう…」


ユリネルは肩を震わして泣いた。

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