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異世界駐留記(不幸で奇妙な物語)  作者: ふじひろ
反撃の英雄たち
102/135

砂漠の勇者

正午に近づくにつれ、太陽は高く登り容赦なく頭上に日光を浴びせる。気温は異常なほどに上がっていた。周囲はからからに干上がり土壌の水分なんて吸い付くされた後だ。


腰のグラムはやけに重く感じた、暑い…


乾燥したこの土地での行動は体力を借金取りのように根こそぎ持っていく。俺はこんな過酷な自然での移動は生まれて初めてだ。しかも水も食料もない。

食用の植物の種もこの環境では芽をだすまい、非常事態になればこの残されたお弁当を食べることもできるが食べ物は消化するのにも水分を使う。だからここはあえて何も食べないのが得策だ。


「まだ着かねーのかよ…」


キグミントとカイドロは作戦実行のため王家の谷まで下がらせた。あそこがゲートなら援軍も望めるはずだ…


自分の背後には迫り来るアポピス軍の姿があった。

























北壁に展開しているファラオ軍が一斉に攻撃を開始した。ファラオ軍は戦意はなくアポピス軍はそれとは逆に武器弾薬が豊富な上に決死の覚悟戦う。


一方俺たちは南東の角にから侵入路を探していた。長年雨風にさらされた日干しレンガはぼろぼろでよじ登るのはさほどに難しくはない。俺たちは難なく壁を乗り越えすぐにアポピス軍が密集する城塞内部に侵入した。アポピス軍はファラオ軍との戦闘に気をとられ俺たちの存在に気がつかない。


「敵が遊んでる間に捜し出すぞ」


建物の影を縫うようにして目的地に到達する。中は簡素な作りで部屋の数は少なく広い、一回はおらず続いて二階に上がる…


「いない…どうしてだ?話ではここのはずだろ?まさか敵に見つかったとか…」


「可能性もあるな…アヌビスにまだ応答はあるか生存確認してもらおう」


俺が携帯型連絡用水晶を取りだしアヌビスにかけたときだった。頭上で弾けるような…爆発音、それとともに崩壊する建物…瓦礫が頭上に降り注ぐ…


「なっなんだ!?」


足場が崩れ瓦礫の上に叩きつけられる。まだ俺たちが中にいる。まだ救助の途中だ、この爆発はアヌビスの別動隊の遠距離攻撃魔法で間違いない。


「オイ!アポピス軍の野郎が城外に待避してやがるぞ!?はめられた!アヌビスはアポピスとグルだ!」


頭上の俺が落っこちた穴から声が流れる。カイドロはどうやら無事のようだ…いやそれより!


「なに言ってる!?そんなはずは…」


王家の谷、救難要請があったというならそこでアヌビスは何をしてたのか、ある考えが過った。俺達が転送されたあの迷宮、魔王軍をアヌビスが待ってたのでは?生け贄を使ってゲートをあける、アヌビスの裏切りはまだファラオには知られてはいなくて魔王軍とアポピス軍、それにアヌビスでスフィンクスを罠にかけるつもりだったとか?


「ファラオ軍も城塞にいたアポピス軍とアヌビスの隊で全滅すんぜー?やつらここに俺らを誘い出して生き埋めにする算段なんだろ?ついでにスフィンクスの部隊の頭数まで減らす、合理的で損失の少ない作戦だ。誉めてやんよ敵ながらよくやったな」


頭上でカイドロがぶつくさ文句垂れてるが…さてどうするかね~?


「アヌビスにしては抜けてるなとは思ったんだよ。

使われてない武器があるかもしれないのにこのニィーナ・シャギ監獄に連れてくるわけないもん。ニィーナ?ニィーナだって?ふん!クソが!!」


俺はすぐさま魔法を発動させる、カイドロとキグミントを俺達が転送されたゲートまで戻す。そして口早く作戦を伝える。


「お前らは一旦帰れ!シュラのやつと前線から兵士借りてこい!!俺は残りのファラオ軍に接触してどうにか食い止める!頼んだぞ二人とも!!」


「へいへい了解!ちょっと待ってろや!終われば八つ裂き祭りにしてやるぜあいつら!!」


何とか魔法は間に合い建物が全壊する…俺はぷぎゅっと潰されてるが…まぁ大丈夫だ。液状化でなんなく瓦礫から這い出てくる。


「さて…これからどうするかね、うまく逃げ出せるか?もう魔力尽きたし…」


やけに眩しいなと思って頭上を見上げたら…魔弾が降ってくる…おいおい嘘だろ。泣きっ面に蜂、止めと言わんばかりの迎撃…俺もう泣きそう。いや、もう涙が出てきた。


「ひいいぃ!なに?な、なにすんだよ!ちょっと…もう、やめて~」


声も届かない遠距離からボコスカ撃ち込んできてるんだ。もう少しね、俺に優しくできないの?それともなにか?俺が人間だからか?勇者だからか!この国のモンスターは人を勇者かどうかで判断して攻撃してくるのか!!なんて血も涙もない人たちなんでしょ

そうか、人じゃなかったなミイラや獣耳だったな。


チキショウ!!(号泣)


ゴキブリのようにカサカサと音をたてながら弾を避けつつ出口を探す。そして気づいた、あちらこちらに罠が張り巡らされ髪の毛が焦げる。罠が発動した=そこに俺がいる。そして正確に弾が飛んでくる。

ああ…もうやだ(涙)


ゆっくり手をのばせばカチッていやな音…、罠だな確実に…ボンッて音たてて爆発そして火炎が襲いかかる…汚物は消毒だ~!ゴキブリは消毒だ~!


「けほけほ…」


……………、どこの北斗の拳の舞台でしょうか?配役間違ってません?俺はマッド・マックスのみたいな荒廃した世界でいていい人間じゃないの。そこんとこわかる?げげっ!砂が目に入った。ちょっとタンマ、待てって…


「目が見えねーんだよ!容赦ねーな!!キャー!!冗談じゃない!!お止めになって~」


数分に及ぶこの攻撃で城塞自体が崩落する。もちろん巻き込まれる「俺」、頭から真っ逆さま。


「いーやー(涙)覚えてろよアヌビスめ~!!」


叫んでたゆえに位置ばれ、的確にアヌビスから放たれた魔弾は放物線を描き落下する俺に命中させる。


ボンッ


お尻に火をつけられさらに吹っ飛ぶ俺の体…どれほど飛ばされたかわからない…砂漠に頭から突っ込んだ。だから助かったが…大将…俺、砂まみれだ。


そこから俺の追っかけから逃避する生活が始まったのだ。も~皆~俺のこと大好きなんだから♪けっ、

人間死んで酒が飲めるか!!(号泣)殺したけりゃ魔王の奴でも呼んでこい!!


そんなこと言ってたらろくなことない…アポピス軍の大半を逃走しながら沈めなんとか砂漠の大蠍を食べて食い繋いでいたある日、魔王に出くわした。いやー参ったね、ニコニコ笑いながら横を素通りしたつもりだったのにね♪


「………」


「どもー」


ぺこぺこー頭下げながら通り過ぎたその時だ。


「お前か、やはり計画を邪魔するために現れたか」


「計画ぅ~?なんのことでしょう?」


「そうか、しらを切るならしょうがないやれ。取って置きのやつだ」


魔王軍の群衆から何かが飛び出した。魔物化した人間、元人間たち。巨人のようにな巨体の間から猫耳おったてて出てきたのは…


「人間界最強の兵器、ミカサ・アオイだ。元々は仲間だったらしいがー元仲間を切る気分はどうかな」


「がふっ…」


ものの1秒で結果は出た。泡を出してぶっ倒れた俺なんとも呆気ない最後であった。ミカサが洗脳されて敵となったらそれこそ勝ち目はない。白旗振りましょう皆さん、チートは敵に寝返りました。


「おい、え?まさか終わりか?」


「ぶくぶくぶく…」


「はっはっはっ!?勇者~ミカサが我が軍勢に入ったのがよほどショックとみえるな…よし、この死に損ないの首を持って帰るぞ!ファラオの首はお前らが持ってこい!!」


意気揚々と首がオサラバするすんでてのところでだ援軍到着…


「終わったと思うなよミカサ~!?」


ゲートの出入り口で蜂会わせた二人…結果はシュラの敗北だったがリベンジのため重傷の体で単身乗り込んできたのだ…


その喧騒の中…なんとか俺はキグミントの中に入り込みカイドロとともにその場を脱出することができたのだった…


「ああ、私はこのまま蟲の餌にされてしまうのでしょうか?」


「どんどん自分が自分でなくなって。自分が今何をしているのかわからなくなって、そんなふうに死ぬのなんて嫌なんです…」


「そうなる前に…まだ私がここにいるうちに…お願いします。お願いします…殺してくださいぃー

私として死ねないのなら、愛する人をこの手にかけるくらいならここで殺されたほうがましです。

お姉様、お願いします。殺してぇぇぇ………?」


「は や く た す ケ て く ら ざ い」


「勝負の最中に喚くな、おとなしく敵でいろ、おとなしく切られてろ。囚われの姫気取った哀れな妹よ

一生涯お前は魔王の傀儡だ。呪われた獣だ。操られてろ、その方がユウも喜ぶ」


「ははははは…」
























「まだ昔を思い出して倒れるのか、つくづく純粋なやつだなお前も」


枯木の欠片を枕に死人のように固まる俺、壊れた心でどこまで生きられるのか、心配だ。


「ストレスが体にくるんだよ!昔を思い出して?イライラするなぁ!!思い出すどころか消えていってんだよ!!進行性の記憶喪失だ、ストレスでもう前も後ろもわかんねーよ!!」


意味もなく叫ぶ、もう辺りは真っ暗で明かりは隣の焚き火だけだ。反対側にはシュラが座って傷口を縫い付けている。それで消毒液と薬草の匂いがずっとしてたのか。


「敵が捜し回ってるのに焚き火なんてして大丈夫か?見つかるぞ」


「心配するな、敵は深追いしてこないさ。シュラがミカサの隙をついて魔王のやつに一発入れてきたからよ~敵さん、慌てて逃げていったぜ」


俺は首だけ動かしてシュラの方をみる。


「本当か?」


「そのお陰でこの様だ…くっ…!腹へったなぁ~大蠍三匹じゃ余計に腹が減る。食べたのに空腹とは不幸だ」


「ねぇ、聴いて」


シュラはこっちをじっと見つめたあと視線を刀に落とす。素人目ではわからないだろうがそうとう振り回したようだ。懐から布を取り出すと包まれていた砥石を取りだし二三度刃を磨いだ。お次は布を口にくわえ刃の表面を拭き取る。


「口が塞がってるから言えないか」


全てやり終えた後、刀を鞘に納めた後、パチンと音がした後にようやく口を開いた。


「恥ずかしいことは言えない、だから行動で見えるんだ。獣耳は口ほどにものを言う。さぁ何を恥ずかしがることがある、言いなせぇ…」


シュラの顔は真顔だがさっきから耳を恥ずかしそうにクネクネさせている。シュラは「何を根拠に…」とまたもやしらを切るがカイドロに限ってはもう吐き出す寸前だ。

ついにシュラは降参してため息をついた。


「人生の前半は妹に台無しにされ、今はお前によって台無しにされる。極めつけに今度はお前らの子供に私の人生は終止符を打たれるんだろう な」


「どこまでもお前らのお膳立てのために私はここまで頑張ってるんだ少しだけ報われても良いはずだ。

幻聴でもいい聞かせてくれ」


「ミカサとは付き合ってないし子どもは遺骸の能力で発現しただけだ。付き合う可能性なんて0%だ!」


「好きだと言え」


「好きだ」


間髪入れずに言ってやった。考える間もなく言ってしまった。だからじわじわキテる。後悔とは先にたたないとはよく言ったものだ。シュラはもう少しモジモジして照れると思ってたが普通だな。


「………初めてだ。感情を感じない言葉を感じたのは、それともあれか?頭では理解できても必死に私の脳は補整してしまったのか?嬉しさも一瞬で改竄されたか、ふふん。余計なことを、わかってる。投げ掛けられる言葉は「殺してやる」だけでいい、夢をみすぎた。忘れてくれ構わん、許可する」


「知らなかったか、初めて体験するそれは動揺だ。

厄介なことに恋愛感情が絡まってややこしくなってるだけだ。お前の頭は優秀じゃない、感情に忠実なポンコツだ」


「期待していてもいざ言われれば脳は麻痺して考えることをやめる。何度も頭の中で想像していたんだろうが…乙女さん、良かったな」


男二人はさして興味無さそうに言いくるめる。シュラからしてみればプライドを捨てた一大決意だったろう。思わず愚痴と一緒にこぼしたんならこんな目に合うなんて…と今では激しく悔し泣きしてることだろう。


「ウーワウー!!シャー!!」


毛を逆立てて怒る、尻尾も箒のようにボサッと膨れ上がる。狸の尻尾みたい。


「照れ隠しか、それも初めてだろう」


「キャー!!シュラちゃん感激ー!!」


二人して囃し立てる。シュラは顔を真っ赤にして猫が顔を洗うように手で何度も鼻を擦る。恥ずかしくてたまらないようだ。


「ニャウー!!ニャウー!!」


しまいには逃げ出す始末、可哀想に否定することなく逃げ去ったシュラ、カイドロが言うようにやつも乙女だったのだな。想像もしてなかった、イメージとしてはそう、オークを初めて食べた知的生命体くらいにしか俺は認識していなかった。


「奴の頭が冷えたとき…」


「そう、冷静になったとき、俺たちは殺される」


互いに肩を叩き、笑い合うと競うようにキグミントの中を目指す。安全地帯獲得のため血で血を洗う争いが勃発した。


























毒蛇5匹、大蠍を2匹平らげ落ち着きを取り戻したシュラはあの空気を誤魔化すため更に大蠍を捕獲し10メートルはあろう個体をズルズルと引きずり現場に戻る。なぜかユウがキグミントに泣きついているのだが…カイドロもなぜかいないし。


「ニャオー!!入れてニャオー!!シバかれる~(涙)」


「誰がだ」


「いやー!!食われる~」


「大丈夫だ、食ってきた」


大蠍を炙る中、俺はキグミントにしがみつき何がなんでも離さない覚悟を決めていた。


「なあユウ」


「食べないで~」


「うん、これがあるだろ。魔王についてだが少しわかったことがある」


「なに?食べない?」


シュラはうざそうーにこちらを睨むと話を続けた。


「魔王は完全に行動を支配できないらしいな、洗脳ではなくどちらかと言えば乗っ取りに近い。直接脳に作用してはいるが操らないといけない、操るために受信機になるものが操られた人についている」


「受信機?」


「ああ、蟲だ。寄生虫のようなものだ。条件だが魔力を吸って生きてるようで魔力のない人間には寄生はできない。人間を操る場合は魔物に変える必要がある。そのためのヴァルキリアだろう。蟲が命令を受信するまで動かない。そんな仕組みだ」


「……」


俺も寄生虫には覚えがある。中枢神経を乗っ取るくそ蟲…俺はスライムタイプと芋虫タイプだったが…


「クロアは蟲に乗っ取られた上に誰かに洗脳されてた…魔王メイビスが豹変したのはもう一人の洗脳する能力を持った敵に操られてるのか…」


ようするにムキムキマッチョは蟲を媒介して操る能力、最上級の寄生虫型の魔物か、寄生虫を操るとはな…それとは別にまだ洗脳なんて厄介な能力の敵がいるわけか。


「可能性としてシュラと同じだな」


「なんだと?」


「シュラが持ってるその邪神の遺骸、それの能力らしいな。昔出会ったフェニックス、聖人の遺骸を破壊して回ってたが…そいつがなにか知ってるだろうシュラが邪神の胃袋を持ってるなら敵はきっと…」


「邪神の脳とかか?ついでに今度は私が胃袋を持ってるとわかると敵は私を狙ってくるわけだ。どうだ?誘き寄せるためにわざわざ相手に教えてやろうか?」


「やめとこう、危険が大きい。洗脳されても厄介だしな。ありがとう、いい情報だ」


「ニャウ~誉めても胃液しか出ないぞ」


ボタボタ涎だと思ってたけどこりゃ…溶けてる胃液だしてるのか…


「大蠍…全部やるよ」





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