ニィーナ・シャギ監獄の暴動
敵の第一波は瀬戸際で食い止めアポピスの軍は撤退したかにみえたが背後に魔王軍がつき、その援助もあってアポピス軍は各地でファラオ軍を撃破しつつもオアシスは落とせずにいた。
ファラオ軍は直ぐ様体勢を整えて魔王軍と合流する前に追撃すべきだったがすぐ行動に移せなかった。最初の戦いでアポピス軍の兵の捕虜が多く、その扱いに追撃まで手が回らなかったのだ。
■逃げ場を失ったファラオ親衛隊隊員
戦場の熱砂砂漠から撤退したアポピス軍は当初スフィンクス率いるファラオ親衛隊指揮の下、遠距離魔法による爆撃とアヌビスによる心理作戦によって雲散霧消し、ほとんどがファラオ軍に降伏した。その数は700名に上る。ファラオ軍が2000名であることからとても捕虜の数が多く手を焼いた。ファラオ親衛隊の隊員はどこかに捕虜を収容する場所と管理してくれる部隊を派遣するようにオアシスにある司令部に要請する。
2日後、返信で前線の臨時作戦基地から後方になる南に20キロの地点に「ニィーナ・シャギ」という昔のファラオが人間と戦ったいたころに使用していた城塞があり、そこへ捕虜を収容せよとアヌビスは命令を出したが後の混乱を招くことになった。
司令部のあるオアシスからはファラオ親衛隊隊員2名と捕虜に医療活動を行うための民間人数名をニィーナ・シャギ監獄に向かうこととなった。ファラオ親衛隊隊員はアヌビスに面会し護衛要員も欲しいと伝えた。この要請にアヌビスのルーは人手が足りないのに余計な人員を割けるか!!と明らか不機嫌な顔をしたが確かに言ってることは正しいと判断し余計な事務処理が増えることに徹夜を覚悟しながら涙を飲んで10人ほど兵士をつけてくれた。
ファラオ軍は予定された通りに捕虜をニィーナ・シャギ監獄に収容したが捕虜は意外なほどあっさりたった10人の監視兵に逆らうことなく監獄に入った。
捕虜が収容された日の遅くにファラオ親衛隊隊員の人間であるナッコとディンクの2名はアポピス軍の作戦行動を知るために派遣された。それに同伴して民間人の医療員(全員人間)も派遣された。
捕虜の尋問が始まる前、捕虜達を監獄の広間に集めだした。一人一人別室で尋問を始めようとした時監視兵に止められた。ちょうど食事と時間が重なっていたのだ。仕方なくナッコとディンクは終わるまで尋問は待つことにした。アポピス軍は捕虜になったことを喜んでいるようで監視兵と談笑するまでになった。アポピス軍の兵の扱いは厳しかったようで食事もファラオのようにオアシスを持ってなかったアポピスは砂漠の土地ならではで節約を余儀なくされ満足な食事も与えられなかったようだ。
おそらくアポピス軍の穏やかな態度に騙されてしまったのだろう。ナッコとディンクは捕虜を個別に尋問しないことを決めた。しかし、この決定は裏目に出てしまう。ファラオ親衛隊隊員のナッコは捕虜が満ちている広間の真ん中に立ち捕虜に質問を開始した。
「なぜ急にファラオ領に進行してきたのか?」
ナッコの問いかけに捕虜の一人が反応する。
「人間を殺すためだ」
人型だった魔物は異形へと変わり他の魔物も一斉にナッコに襲いかかり、バラバラに引き裂いた。あっという間の出来事だった。さっきまで談笑していた監視兵もナッコと同じように殺害された。たった10人では暴動が鎮圧できないことはわかっていたことだった。無惨にナッコと監視兵は亡くなった。
「ニィーナ・シャギ監獄で暴動が起き、監獄は捕虜に占拠された。救援部隊を頼みます」
ディンクは無線用の水晶で救援を求めると医療員らを率いて監獄内の建物に籠り、安全な部屋を探して隠れた。
「それで?王家の谷にいた理由は?」
「私も今知らされたのだ。まさか捕虜の反乱が起こるなんて夢にも思ってなかったんだ」
砂漠の土地に旨みはない。他国の侵略がなかったからこそ今まで平和に来れたがいざ攻められればどうすることもできない。異常事態馴れをしてないから
どこに重点置くかもわかってない。
「それで救援に出発するところか、なら急がないとな。俺の役割は?」
「とっておきがある…作戦の成功は伊丹、お前の働きで決まってくる。自信がないなら別の策を考えるが…」
「時間もないし…無理矢理にでも形にするさ。人命救助なんて久しぶりに胸踊るじゃないか」
久しぶりにやる気を見せる俺。敵の殲滅ばかりしているとどうも気が滅入ってくる。俺は少し嬉しくなった。アヌビスは懐から小さな水晶を取り出して素早く連絡する。
捕虜を監獄へ引き渡し身軽になった前線の臨時基地は攻撃に備えて陣地を形成していた。そんな中一人だけ日陰の席でのんびり居眠りしている獣人、ぐーぐー寝音をたて、鼻提灯の間抜け顔だがこの基地の司令官のスフィンクス…猫の獣人ヘム・ヘイムバン好きあらば居眠りしている自称暇人だ。しかしアヌビスいわく仕事は山積みのはず。サボりの天才だからアヌビスの仕事が終わらない。そんな性格が災いして前線の指揮のため快適なオアシスから放り出された可哀想な人でもある。面倒事は済ませたし仕事は部下に任せている。サボっても文句言うアヌビスはここにいないから堂々と居眠りも許されるのである。その時隣の足の折れそうな机の上にある通信用水晶が緊急信号を受信した。アヌビスからだ。
「そっそんにゃー!?サボってるのがバレるはずが…ヒエエエエエエ~!?」
さっきまで快適だった空間を破るけたたましい音量で流れる緊急信号の受信音。ズボラな性格から机の上には物が散乱…大事な書類を掻き分けて埋まってた通信用水晶を掘り出す。
「わっ私だー!!寝てませんよぉぉぉ!?」
「アヌビスだ。捕虜を収容した監獄で暴動が発生した。ファラオ親衛隊隊員と医療員が人質に取られているようだ。前線基地から数人選抜して至急救出作戦を開始してくれ。作戦内容は…」
聞いてられずその場に崩れ落ちた。これでまた火の車…暇な時間なんて訪れないだろう。膝から地面に落ちた。
「おい、聞いてるのかヘムヘム?応答は?」
「オオオオオオオォォォォォォ…(涙)」
今ごろになって膝がガクガク震えだした。
魔法で転送された3人、転送されてから付近の安全を確認してニィーナ・シャギに近い高台から監獄の様子を探っていた。3人の内2人はアヌビスから支給されたデザートカラーの砂漠用軽装革鎧を着て武器は自前の剣、神に鍛えられた長剣グラムとファラオ軍の軍用ナイフの多機能コンバットナイフ。建物内での近接戦闘、出会い頭の戦闘が多いため取り回しがキツいグラムより使用頻度が多くなりそうなナイフを携帯していた。もう一人はダガーを手に持ってお手玉のようにして遊んでいる。最後の寡黙…てか鎧だけの白騎士…砂漠ではよく目立つ…背中のデカイ大剣も問題だし…
「それにしても暑いな~キグミントは肉体がないからいいよなーなぁユウ?」
「さーてどっから侵入すっかね~」
「無視か?」
「プレートメイルが熱で火傷しそうだけどな。背中のプレートを取ってるとはいえ重いし暑い」
「だろ?だよな、こんなときは涼しいミストラルが欲しいよな~キグミント?」
「バカめ、一瞬で霧なんて蒸発する」
「あ~思考力が低下する」
砂漠の暑さにやられはじめる…作戦は速さが命の救出作戦だけに水筒など各種装備品は置いてきた。そもそも用意もされなかった。俺に関しては無限ポーチがあるから荷物というものは背負ってないがいつも革の鎧、軽いレザーアーマー装備だけにプレートメイル(レザーアーマーやチェーンメイルの上から要所を鉄板で覆うもの)の重さと乾燥した空気と直射日光はこたえた…兜から汗がこぼれる。ファラオ軍の兜はヘルメットのようでフリッツ型のヘルメットによく似ている。兜は直接か布1枚挟むだけで蒸れて暑いのだが引っ付かなくて意外とこのヘルメットは暑くない。着用時の安定もいいし外部音を聞こえやすいように側面と後部が浅くなっている。
ファラオ軍の装備が異世界らしくなく現代社会らしいのは俺の戦闘での知識とミリタリー(ゲームの)知識をアヌビスが吸収した結果だと思う。アヌビスは戦闘の経験がないなりにこうやって勉強してはいるようだ。
「おっかしいな…敵の装備がやけに重装備だ…一人一つは武器がある。監視は10人、やけに装備が整いすぎてる。どうしてだ?」
俺が気になったのは監獄の城壁に立つアポピス軍の兵士があまりにも重装備であることだ。カイドロは
覗き込んでアヌビスから聞いてたことをそのまま伝えた。想像を越えてた、抜かってたなんてレベルの話じゃない。
「アヌビスからもしかしたらと言ってたことだがニィーナ・シャギ監獄は、単なる廃墟じゃなくてだな
元はファラオ軍の武器・装備保管庫があったんだったってよ。見たところ武器・装備はそのままだったようだな?敵は倉庫の鍵をこじ開けて武器を手に入れたようだな。なんで武器があるのか知ってたのかだが…それは見当がつかんだと。迎撃体勢せずにさっさと自軍に逃げ帰ればよかったものを…」
「さて、どうやって人質を救出し暴動を鎮圧するか腕のみせどころだが…」
監獄の城壁を眺めなからぶつぶつボヤく。ディンクと医療員はどこにいるのか?救出作戦を立てる上で重要な情報、それは幸いディンクたちが通信用水晶を持っていることだ。そして作戦を成功させるために知りたい情報はそこからくる。敵は城塞の南東角に集中しているらしい。そこにでかい魔法で攻撃してくれたら多少は潜入が楽になるか?潜入は楽になるが今度は脱出はどうするのか?色々問題は残っている。俺はアヌビスの作戦に穴がないかもう一度確認することにした。
ニィーナ・シャギ監獄
ニィーナ・シャギ監獄はいびつな八角形をした城郭である。一見しては死角がない難攻不落の城だ。
かなり古い時期に建てられた城だ、何世代前の勇者の時代だ。司令部から200キロの地点あり内部の幅は400メートル程度。俺が魔法や精霊術を使う範囲としてはかなり狭い(城壁内は建物が密接しており建物の崩壊で自分達に被害が出る)。使用するなら救出した後にすることになる。東側の大きく突き出た堡塁があり、入り口もそこにある。その他各頂点に堡塁が築かれいるが北側は防御が厚く南側は薄くなっている。城壁の途中途中にバリスタや投擲機が設置されているが壊れているようで修理しているがとても間に合わないだろう。
作戦の概容はこうだ
1.城塞北側の分厚い城壁の向こうから前線選抜のファラオ軍が進行を開始する。もちろん突破できないのはわかってる。この進行は陽動であり積極的に攻撃はしない。敵を北側にくぎ付けにするのが目的の陽動作戦だ。
2.アポピス軍の捕虜が気を取られている間に俺たち3人が城内に侵入し、出会った敵は無力化、増援を呼ばれないように注意する。でないとこの作戦が失敗するのは確実だ。
3.ディンクたちを救助、すぐさま脱出。ファラオ軍を後退させ別動隊のアヌビスが魔法を北側に集中した敵に浴びせる。
4.城内に残った敵を東側の入り口から突入したファラオ軍が掃討する…なんて上手いこといけば無血で敵を殲滅できる旨い話だ。
「キーマンは俺らだ。一番重要なとこ3人とかふざけているがしょうがない」
連繋がとれてないぶん逆に危険になる。戦闘経験のない素人はこういった作戦では足を引っ張るだけだこうなるならシュラやエルたちの力が欲しいところだが…いない人を頼ってもしょうがない…
「ここからは建物内の捜索するために別行動をとるかもしれないから携帯ミニ通信用水晶で連絡を取り合う。コードネームは俺はKバーだ。コンバットナイフの意味だ。カイドロはダガー!キグミントはソード!もし見つけたら水晶ですぐ連絡して脱出するんだ。絶対怪我も死ぬことも許さん。死ぬくらいならいい、怪我して作戦が遅れるのだけは絶対に避けたい。わかったな?」
「りょーかい、てか不死身の勇者と実体がない幽霊騎士じゃー死ぬとしたら俺だけか?」
勝ち誇ったようにニヤける。おたく結婚なさってお子さんが生まれるそうね?死亡フラグじゃないの?フハハハハハハハ!!そうよ、そうに決まってる!!
その時捕虜とファラオ軍が接触したのか派手な爆音が聞こえてくる。こちらも始めるか、レスキュー部隊の出撃~!?
「敵中に孤立したファラオ親衛隊隊員を救出せよ!
GO!」
敵に見つからないようにニィーナ・シャギ監獄に向かって突進していく。




