熱砂接戦
「この霧だー不用心に近づけんぜ」
「んなことはわかってるよ。だから先行して俺たちが来てるんだろ」
「お前のことだ、俺たちを信用してないな?保険に霧の王の奴連れてきてるな?この霧だ、シュラの野郎も気ぃーついてる。どこに隠してる」
「ナンノコトデショウ?」
「もし暴走、裏切りがあればキグミントに俺たちを殺させる。そんな算段だろ」
魔力を帯びた霧ってのは珍しくはない。この霧は仲間の術だ。俺が旅でスカウトした将来勇者パーティーに欲しい人物だが良いところは全部もう一人の勇者が引き抜いて今は連繋を強固にしている。残りの癖のある連中を俺は率いている。俺だってナウシカアちゃんやダンのいるパーティーの方がいい。
「お前って変に勘が鋭いよな」
「この野郎、マジで背後に処刑人配置してやがったか!?あんな不気味な野郎…」
「お前らよりは扱いやすい、確かに不気味ではあるがな」
「今の俺に何ができる?俺の愛剣へし折りやがってなにもできねーからな」
「ふふふ…」
地面を這いながら前へ進む。シュラとエル率いている騎馬隊は目立つし偵察は俺たちが引き受けた。俺ならともかくカイドロは体格が…俺がベルセルク化してマッチョになったときくらいある大男なので俺は見つからないか心配だ…まぁ?いざとなれば霧の王がついてるし?問題はないわけで。
「オイ!キグミントの野郎どこに隠してやがる!!どうも落ち着かねぇ!喉元に刃があるみたいでよ!せめてこの霧を消させろ!あいつの能力だろこれは!」
「キグミントの素顔みたことある?」
「いや?なんでその話になる。あいつが人前で鎧とったことなんてあったか?」
「ならキグミントの正体も知らないわけだ。正体が知ってたらこの霧の能力も納得するぞ」
「いや、だから消してくれって。敵が見辛い」
お話が進むにつれ馬車が見える…馬が見えるが腐ってやがる…ゾンビ馬ってところか、間違いなくそんなもの使うのは魔物しかあり得ない。
「見張りを捜せ…気を付けろよ、情報通りなら幹部が潜んでいる…こっからは少し距離を明けつつも敵を無力化していく」
「面倒だな、てか一旦引いて呼んでこなくて大丈夫か?」
「シュラが来たら捕虜まで殺しそうだから…それにお前と俺だけなら並みの幹部なんて敵じゃない、危なくなればキグミントに戦わせて俺たちは下がればいいんだし」
「切り刻めるならそれでも構わないけどな、これでもお前の迷惑がかからないようにだな…」
「気い使うとからしくねーな」
「うるせー!?さっさといこーぜ!!」
巨人がデレても心がときめかない…しかも男だし…
照れ隠しやめてくれ。俺たちは身体中に草を付けてカモフラージュしていたがそれも取っ払いゆっくりと進んでいく…不思議なことに見張りもいない…ゾンビ馬だけがその場に置き去りにされたなんて怪しすぎる現場…
カイドロと俺は馬車を挟んで最後尾から先頭まで目指していくもこの隊列…ゾンビ馬はいるが見張りも噂の幹部もいやしない…やけに静かで俺たちは罠を疑った。不意に隣を見るとカイドロと目線が合う。向こうも俺と同じように怪しくなったきたようだ。
「変だ、敵がいない」
「荷台…開けてみるか、どうも怪しい気がしてきたんだが…俺が開ける、カイドロは踏み込め」
俺が荷台の扉の取っ手に手をかけたとき、ますます不安になってくる。錠がない、つまり鍵がかかっていないのだ。
「おい…こりゃー罠以外の何物でもないぞ」
「一応開けてみるか、警戒しろ!!」
カイドロはナイフをくわえ馬車の下に潜り込む、俺は荷台の扉を開けると同時に後ろに宙返りして飛び退く…あれ?空だ…
「これは…スカだったみたいだな…してやられたな
だが不思議だよな」
「おーそうだな、敵の襲撃がなければ罠も仕掛けてないなんて…ゾンビ馬だ、敵が確かにここにはいたんだろうけど…どこにいった?」
素早く他の馬車も確認するも無人となっている。忽然と敵が姿を消した。
「出し抜かれたか?敵がいて、敵は今頃前線を襲っているとか」
「と、思うだろ。キグミントに確認にいかせたけど何もない、エルとシュラの方も敵影無しだ…荷台になにつんでたか知らないが…何かを積んでたんじゃないのか?」
俺たちは暫く考えると何も思い浮かばない…何を乗せてたんだ…何を…
その時、地面が光った…浮かび上がった模様からこれが魔方陣であることは明らか…罠か?
「おい!やっぱり罠じゃねーか!!逃げんぞ!こればっかりは切れねー!!」
「範囲がでかい…それにこれは攻撃魔法じゃなくて転送魔法…を?」
どこかに転送される…迷宮…どこかの遺跡か?良かった~辺り一面吹き飛ばすような魔法じゃなくて!
真っ暗だが石を積み上げて作った通路…とりあえず進んでみるか、何があるかわかんないけど。
「おい、進むなんて言うんじゃーないよな?」
「カイドロ、敵の気配だ。どうやらキグミントもこの遺跡のどこかに迷い込んだようだ。捜しにいくぞなんでここに転送されたのか、それも知りたいし」
「おいおい…参ったな、嫁に夕方までには戻るって言ってあんだぞ!!」
「あれ?結婚してたっけ?」
「ほら、前にあったろ」
「ん?フェアリーか?妖精…だよな?手のひらサイズの…」
「籍入れた…」
俺は動けなくなった…性格に難ありで生涯独身を貫いてそうな…そんな男だったはずだ。いつからリア充に成り上がった!!この裏切り者!一緒に誓い合ったじゃないか!!浮気者~!
「カイドロ、見下げた根性だ。裏切り者め」
「素直にお前に従って稼がないと嫁が怒る。それに今は稼ぎ時だ」
「生きて出られると思うなよ♪」
「子どもが産まれるんだ、これまで以上に稼がないと、心配されるのも無理ないが安定した収入を得るためには…」
「ん?もっぺん言ってみ」
「身重の嫁を置いていくのは気が引け…おっ!明かりだぞ、外に通じているかも知れん」
見よ次々と先を越されるこの感じ…婚期逃したみたいになるだろ俺、この世界で童貞は希少価値だ、ステータスだ!なのにモテぬ!!チキショーこんな切り刻むことしか頭にない気違いが一児のパパだと!?ふざけおって…こんなんだから精神に異常をきたしてミカサをと子作りなんて始めるんだ。周りの環境が悪いな、俺に優しくない。この世界は残酷だ。
角からヒョッコリ顔を出す…門の前には台座が合ってそこに人だかりが…台座には死体が重なっているどうやら何かしらの儀式を行ったようだ。
「捕虜は皆殺し…オークが20にトロールが2それに操ってるのはダークエルフか、服装から魔法使いか魔法に秀でた奴のようだな。あの魔方陣は奴の仕業とみて間違いないか」
「生け贄で開ける門か、さて遠慮はいらないな…突撃血祭りだ~」
「策もなしに切り刻みか、それもよし!」
角から雄叫びあげて突っ込む二人、俺はダークエルフを狙う…勿論邪魔して来るけどなトロールが二匹か…再生能力があるが再生するより早く息の根を止めてやる!!
カイドロはナイフをオークの頭に突き立てる三匹が体に群がるも動きが止まることはない…トロールと素手でタイマン張っても勝てるんじゃなかろうか?
カイドロは素早く何かを唱える。カイドロの体から出た黒いオーラ、それに触れたオークは血を噴き出して死んだ。カイドロの能力とも言うもの、呪いに近い言葉で操ることができる毒を体外に放出する能力、触れれば窒死性の毒で確実にしに至る。俺はトロールをなぎ倒す…暴れられるが切断系に対して高い再生能力を発揮しやがるので燃やすことにした。
「精霊召喚イフリート、焦がしちゃえ」
炎の魔神を召喚、トロールは俺の予想とは違い苦しむ前に蒸発して消えた…石の床も溶けたんだ…そりゃ溶けるでしょ。残ったダークエルフも何が起こったのか訳がわからなくなっていた。
「ビビってるとこ悪いが何のようでこの遺跡に入った?それも捕虜をこんなにもまぁー生け贄にしちゃって…」
「言えるか…」
「ならしょうがない、カイドロ~刻んでくれていいよ~やっちまえ」
「えっ?まて…待って…!」
言ってから行動が早いカイドロ…ナイフを振り上げ悲鳴が出る前に頭を潰す。なんて怪力と言うか…残虐性においては魔物と同類…躊躇なんてしない。死体損壊を続けるカイドロ、あぁ…笑いながらナイフを降り下ろすのはやめてくれ…夢に出てきそうだ…
カイドロは玩具で遊んでる内に門を調べる…似たような遺跡に入ったことがあるので開けられるとは思う。犠牲になった捕虜と始末した敵で数は揃っているはずだから門は開くはず…俺は門に手をかけていない…なのに門がひとりでに開く…そんな仕様なのかと思ったら中から包帯ぐるぐるの…マミーとかミイラとか言うの?がぞろぞろと湧いて出てくる…流石に数が多い…精霊でなんとかなるか?
「おっ?次はスカスカの死体か?」
スイッチが入ったカイドロだが通路から流れる霧に我に返る。鎧が擦れ合う音に俺はほっと胸を撫で下ろした。捜しに行かなくても自分からやって来たとは…
「迷ってたか霧の王」
白い騎士、白装の鎧が目を引く。背中には背丈程の大剣、霧を纏って現れる。どこかの国の英雄…幻霧の英霊、濃霧の悪夢、霧を引き連れてどこからともなく現れる伝説の騎士…で俺に使えてくれてる…
こいつは喋らない…時々目元が光るくらい。青く光るのがだいたいだが時々色が変わる。
「何だよ…取り分が減るじゃないかよ」
カイドロはナイフをキグミントにぶん投げる。前から気に入らないとか言ってたからな…鎧の隙間、喉元にナイフを投げるもピクリとも動かない。
「なんだ~お前も化け物だったか」
衝撃で冑が飛ばされるが中身がない、空っぽだ。ただただ中には霧が詰まっている。キグミントに実体はない。鎧が本体みたいなもんだな。首もとからもくもくと霧が立ち込める…視界が悪い…
「無口な野郎だとは思ってたが霧が詰まった鎧だったとはなー?知ってたか?」
「知ってるきまってんだろ!ほら戦闘準備!」
律儀に持ってくれているミイラたち…待つだって?ミイラってそれほどまで知能があるとは侮っていたな…そしたらミイラの群れから変な効果音が近づいてくる…なんか来る…
ポムポムポムポム
なにか柔らかいものが跳ねて来るような…しばらく待っていると何やら黒い物体が…
黒いケモ耳…ピンと尖って…褐色の肌、ところどころ紋章やら何かを身体中に書いているようだ。それが絵のようにも見える。布地の少ない服、乾燥地帯で見たことのある服装だ。目のやり場に困る服装に手は獣…猫の手のようでにくきゅうも確り見える。
それで金の杖、オシリスの杖と呼ばれる魔法の杖を手にし、足も猫のような足でモフモフした毛に覆われている。腰には黄金の剣、魔法の剣だ。ジャッカルの獣人…墓守りの…
「アヌビスか?」
「伊丹か?なぜこんな抜け道からでてくるのだ?堂々と正面から入れば良かろう?連絡もなしに…侵入者かと思ったぞ?」
「(しっ知り合いか…?)」
「大丈夫だカイドロ、キグミントも落ち着け。知り合いだ、まさかこんなとこまで飛ばされるとは…王家の谷か?」
「そうだが大丈夫か伊丹?そこらに転がってる死体はなんだ?」
ふぅ~現在地が判明…人間界だがかなり辺境まで飛ばされたな…砂漠のど真ん中だ。
「砂漠の地ジャイファンの…新緑魔界だここは、すまんアヌビス…オアシスの宮殿まで送ってくれないか?まだ転送用の魔方陣はあるよな?」
「勿論構わないが…不思議なとこで不思議な男と会うものだな、驚いた」
「キグミント、霧をしまえ…カイドロ、良かったな帰れるぞ…俺が遺跡巡りしてたときに出会ったジャッカルの獣人、ここの墓守りのアヌビスだ」
「15代目アヌビスのルー・ルカだ、朝と昼はここで警備を担当している」
「それにしても敵はなんでここを目指してた?アヌビスは見に覚えあるか?魔王に狙われる理由」
「その事なんだが…伊丹がこの遺跡訪れて去ってから気づいたのだが姫様が気になることを言っておられた。もしかしたらそれを捜しに来たのかもな」
「捜しているのだろ?ヴァルキリアがもしかしたらあるかもしれない。確証はないが…」
アヌビスの肩を掴んで激しく揺する。アヌビスも首をかくかくさせながら答える。
「ヴァルキリアだって!?あるのか!!ここに!」
「もしかしたらだ!!それに魔王の手下が入り込んだと言ったな!?向こうもここを嗅ぎ付けたか…」
「どうかしたか?」
「ヴァルキリアを捜しにか…タイミングが悪いな…アポピスが魔王と結託して攻めてきている…ファラオ様を守るため…今はそちらを優先しなくてはならん、伊丹。悪いがもの探しは後に…今は」
「アポピスの進行を阻止しろ、いいだろう。やってやる。戦力差は向こうが優勢なんだろ?いつもなら「お客人はココナッツミルクでも飲んでゆっくりとくつろいでください」って言うもんな」
「お見通しか、では存分に働いて貰う。報酬はヴァルキリアだ。勇者とそのお仲間様、どうかお力添え願います」
「さーて…戦争だ」
グラムの柄にゆっくり手をかけた。




