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地雷掃除人  作者: 東京輔
第5話 Durchbruch ~突破~
50/140

5-12 見栄っ張り

 オズと時間を共有する時は、大抵ゲームをしている事が多い。あまり言葉は交わさなかったし、そうする必要もなかった。対戦ゲームの中で、オズがどんな事を考えているのかがわかったからだ。勉強ではまるで駄目な俺も、やり慣れているゲームならばオズと渡り合えた。


「ふ~、相変わらずゲームは上手いね、兄さん」

「うっせ、ゲームくらい勝たせろ」


 フフ、とオズは笑いをこぼし、またコントローラーを操作した。オズのプレイスタイルは上品な立ち回り方だ。なるべく危険度の低い行動を選択して相手のミスを誘う、何とも彼の性格が出た()()()スタイルとも言える。だがそれ故、行動が受動的になりやすく立ち止まってしまう事が多い。余程の達人でもない限り、相手の攻撃の手を読み切る事は難しい。リスクを度外視し、最大限のリターンを得ようとする俺の強引な攻めに対して、オズはまだ対処しきれていないようだった。

 また俺が勝利し、画面上のキャラクターが雄叫びを上げているところで、風を切り裂く音が室内に響いた。窓の外を見ると、木々が全て同方向に大きくしなっていた。


「すごい風……。兄さん、本当に行ってくれるの?」

「行くっきゃないだろ。発売日当日に行かないと、絶対売り切れちまうよ。それに、これはお前との約束だろ?」


 俺とオズが今やっているゲームの新作が、実は今日発売される。オズの誕生日が丁度重なったというのも兼ねて、俺が買ってくるよう頼まれているのだ。オズは一人用のゲームはあまり好まず、逆に複数でプレイできるものをいたく気に入っていた。対人戦の読み合いは、チェスやポーカーなどにも通じるものがあるから、とか何とか言っていたが、まあオズが言うのなら間違いないのだろう。

 ただ、ゲームというメディアはなかなか大人には理解されないもので、うちの口うるさい両親、特に母親がそれを毛嫌いしていた。だから、オズがゲームを買いに行くのは許されない出来事だった。ネット通販も駄目、店頭で予約するにもゲームショップに近づく事さえ許可されていない。となれば当然、弟より暇な俺が行く事になる。予約するのを忘れたのは御愛嬌という事で。


「そうだけど……。さすがにこの天気じゃ、バスも電車も来てくれるかどうかわかんないよ」

「だったらチャリで行くまでだ」

「本気で言ってるの? せっかく兄さんがやる気を出してくれてるから、それに水を差したくないんだけどさ」

「わかってるなら、それ以上何も言うな。心配しなくてもちゃんと買ってきてやる」


 融通が利かない俺の頑固なところを知っているため、オズはそれ以上何も言わなかった。だが、素直な弟とは対照的に、天気は悪くなるどころか激しさを増す一方だった。風が強すぎて、この立派な家が振動するなんてのは初めての事だった。そのうえ雨も降りだしてきたようで、窓の外から猛烈な勢いで雨が吹き荒れているのが見えた。これはちょっとばかし、ヤバいかもしれない。

 そうこうしているうちに、テレビの画面がぶつりと消え、同時にあらゆる家電の電源が落ちた。停電だ。まだ午後の五時を回っていないとはいえ、停電となると一気に不安になるものだ。おちおちトイレにも行けやしない。普段滅多に聞かないラジオを聞いてみると、公共の交通機関は全て運転を見合わせているとの事だ。それを伝えたアナウンサーは、外に出歩かないでくださいというコメントを最後に残した。俺に対する当て付けか。

 今日の事は親にばれると面倒くさい事になるので、俺がどこかに出かけたというのも知られてはならない。念のために予備の靴を準備しておいてよかった。これで一階の俺の部屋から外に出られる。夜飯の時に俺がいなくたって、あの親は気にも留めないだろう。むしろ邪魔者が消えたとばかりに、いつもより上機嫌でいる様子が目に浮かぶ。うかうかしている時間はない。これ以上天気が荒れたら出発する事もできない。どうせ濡れまくってえらい事になるだろうが、気休めとばかりにレインコートを着用して、窓の取っ手に手をかけた。


 部屋の窓を開けようとすると、幾許の力も必要のないその動作に待ったがかかる。強く吹く風に窓が押し付けられ、力を込めないと開ける事ができなかった。下半身に力を込めて無理矢理開けると、吹き上がる強風と共に外からほぼ真横に雨粒が飛んできた。凄まじい風の音が部屋に鳴り響く。こんな状況で外出しようなんざ、我ながら無謀もいいところだ。

 頭の中で一瞬、冷静な自分が問いかけてくる。今日行くのはあまりにもナンセンスすぎる。オズの誕生日に間に合わないのはしょうがない、後日渡す事だってオズなら喜んでくれるはずだ。――そう。頭の中では納得がいっている。だが、交わした約束を破る事はどうしてもできなかった。出来損ないの俺が唯一、出来る弟にしてやれる事をしてあげたかった。良く言えば意地を張りたい、悪く言えば見栄を張りたかったのだ。


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