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地雷掃除人  作者: 東京輔
第3話 Rookie ~新人~
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3-10 新人の誤解

「……それで、結局のところ、どなたが一番撤去されたのですか?」


 事の一部始終を聞き終えたルゥは、乱すことなくいつもの調子で話した。オヤジ共は一斉にほくほく顔のジョウを指差す。


「いや~、改良したポロロッカ二世が予想以上に()()()で、一九一個も撤去できたッス!」

「そのポロロッカ二世を限界まで使って、跡形もなく吹き飛ばしちまったのはどこのどいつだい? えぇ、ジョウさんよぉ?」

「うぐっ、サコンは意地悪ッス……」


 ジョウはすぐに泣きそうな顔をした。


「ジョウ殿、まさかとは思うが、そのポロロッカ二世の改良データのバックアップを取っていないなどということは……」


 ケイスケの追撃に、ジョウはさらに肩をすぼめた。擁護するつもりはなかったが、ジョウの様子を見るに擁護のしようがなかった。かといって、彼を責めたところで何にも得られないのはわかりきっていたが、()()()()()とやらにお熱だったオヤジ共は、その憂さ晴らしをどうしてやろうかといったような面持ちで、ジョウを妬むような視線で見ていた。


 そんな状況を知ってか知らないでか、しょんぼりしているジョウの背後から、褐色の長い手が忍び寄った。


「はいはい。いつまで私のジョウをいじめるつもり?」

「ヒエッ!」


 ズィーゼはジョウの作った氷玉を、彼の首筋に当ててリアクションを楽しんだ。それが予想通りのもので満足したのか、ズィーゼはさらに彼に体を引き寄せて俺たちに一瞥をくれた。


「これでわかったでしょ? 結局、私の相手が務まるのはこの子だけって事。あんたらは門前払いがお似合いよ」


 至る所に氷玉を当てられ、その度に体をよじらせ奇声を上げるジョウを、オヤジ共は羨望の眼差しで見つめた。


「そ、そんなぁ……」

「ミセスズィーゼ、わしらにお慈悲は……」

「ない。あんたらのようなブ男がこの世に存在しているだけ、ありがたく思いなさい」


 オヤジ共はうなだれ、仕事前に見た、あの死んだ魚のような眼に戻っていた。始まる前から、ズィーゼが理由をこじつけてはぐらかすのは予想できていたが、彼女自身も予想だにしなかった嬉しい誤算にご満悦のようだった。手中のジョウは口から魂が出そうなほどに放心していた。


「なぁによ、見世物じゃないんだからさっさと消え失せなさい。シッシッ」


 その言葉を最後に、オヤジ共はルゥに半ば強制的に部屋から追い出された。最後に部屋を出た俺が背後から聞いたものは、ジョウの「レンさんたすけっもが……」という彼の最後の悪あがきだった。


                *


「まったく、今日は散々だったぜ」

「何かと騒がしい一日でしたわね」


 オヤジ共にヤケ酒に連れて行かれそうになるのを必死に抗い、何とか無事に反対方向の自分の部屋に落ち着ける算段がついたところで、俺は隣にいるルゥに不躾な文句を言った。


「他人事みたいに言いやがって。ルゥ、そもそもあんたがあの女に仕事を頼まなきゃ、こんな事にはならなかったんだ。おかげで俺の下半身はズタボロだよ」

「責任転嫁は醜いですわよ。それに貴方、今日はポォムゥを置いていったでしょう? 私がどれだけあの子の誤解を解こうと努力したか、おわかりになりまして?」


 軽やかに歩くルゥの横顔は、照明が暗いせいもあってか少々疲れ気味のようだった。いや待て、騙されちゃいけない。本当に疲弊しきっているのは、今日だけで二度も金的をくらい、オカマに言い寄られ、地雷をたくさん撤去してきた俺の方に決まっている。


「誤解? おい、そりゃあ何のはな――」


 嫌味の一つでも言ってやろうかと階段を上ろうとしたところで、紺色の髪の人物とふよんふよんと間抜けな足音を出すロボットに遭遇した。


「あ」

「あ゛」

「んお! レン!」


 ポォムゥは俺を見て顔を明るくしたが、その隣の新人(ルーキー)は俺の顔を見るや否や、表情を鬼の形相に変え、敵意むき出しで俺を睨んだ。


「出たわね! この最低ホモ野郎!」


 新人はそう言うと同時に、階段を蹴って飛び蹴りを繰り出してきやがった。進入角度からいって、丁度俺の股間に直撃しそうなその一撃を、俺は寸でのところでダイブしてかわした。


「うおお! あっぶねぇ!」

「近寄るな変態! あっち行け!」


 新人は壁に隠れながらも、廊下に不器用に倒れた俺に敵意を示した。謂れのない文句をぶつけられた俺は、後ずさるような体勢で新人に問う。


「変態? ホモ野郎!? 一体何の話だよ!?」

「しらばっくれるのもいい加減して! まったく、有名な地雷掃除人がこんな奴だとは思いもしなかったわよ!」


 新人は吐き捨てるようにそう言い、再び俺を親の仇とでもいうような感じで強く睨んだ。 何を言っても否定されそうな勢いだったので、俺はルゥの方を向いて彼女に話しかけた。


「おいルゥ。お前、またある事ない事吹き込んだんじゃないだろうな?」

「あら、その台詞、そっくりそのまま貴方にお返ししますわよ」

「はぁ? 一体何の事だ?」


 ルゥはポォムゥに近づき耳打ちした。ポォムゥは「んお!」と一言叫んで瞳を緑色に変えた。その口から聞き慣れた声が届く。


『――だけど俺だったら男にするかな』

『あ~ら、どうして?』

『女はほら、何かと面倒だろ? それに比べて男は最高だね。いろんな手間が省ける』

『いろんな手間?』

『女は下準備に時間がかかるだろ? 俺はせっかちだから性に合わないんだろうな。でも男だったらそういう心配をせずに、色々ヤれる。事にもよると思うがな』

『んもうレンちゃんったら、女の子もいいものよ?』

『い~や、俺は一生男がいい。生まれ変わっても絶対男だね』


「……この発言を証拠と言わずして、何と言えばよろしいのかしら?」


 ルゥは伏し目がちに俺を見つめ、呆れた声で問いただした。ポォムゥの口から聞こえた声の主は紛れもなく俺自身で、相槌を打つオカマのエリーの声のキモさも相まって、完全に俺が同性愛者宣言をぶっぱなしているようにしか聞こえなかった。


「待て待て待て! これはそういう意味で言ったんじゃねぇ! つーか、録音始まるタイミング良すぎだろ!」

「おぉー、レンは男の人がいいのか」

「お前もそういう紛らわしい事を言うな! 頼む! 一分でいいから俺に時間を――!」


 必死に弁明しようとする俺の懇願も、食い気味に放たれた新人の叫びによって無惨にもかき消された。


「知らない! 初対面からその後まで、印象最悪だった奴はあんたが初めてよ!」

何の事を言っているかわからない方は、3-6も一緒に読んでくださると理解できると思います。


それと、3-3で登場人物がレンの名前を一言も発していない事にも注目していただけたら幸いです。


長かった第3話もこれで終わりです。書いていて楽しかったー!

次回から第4話が始まりますが、ぜひそちらも期待していてくださいね。

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