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地雷掃除人  作者: 東京輔
第3話 Rookie ~新人~
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3-7 男だらけのブリーフィング

3-7にして、ようやく地雷の話っぽくなるのはどういう事なの……。


ともかく、今回も区切る所が微妙だったので多少長いかもしれませんが、

楽しんで読んでいただけたら幸いです。


感想とかもお待ちしてますよ~。

「ね~ぇ、ジョウちゃん。私の夢って何だと思う?」

「ゆ、夢ッスか? え~と、か、かっこいい男に囲まれたハーレムを作るとかッスか?」


 俺たちを乗せた極東製の大型車は、もうすぐ目的地にたどり着こうとしていた。車内では、ジョウが人柱として捧げられたまま、緊迫した空気が流れている。


「あ~ら、それも素敵じゃない♪ その時はあなたもそれに加わるのよ?」

「ひぇっ!? ぼ、僕は穏やかで平和な日常を望むッスよ! そんな、エリーさんと一緒だったら毎日が過激すぎて早死にするッス!」

「もう、ジョウちゃんったらいけずねぇ。でもそういうところも私、好きよ?」

「ひいぃぃ~……」


 ただ、そんな普通ではないやりとりも、喉元過ぎれば熱さを忘れるというやつで、俺はすっかり自分が巻き添えを食らうことはないと油断していた。小刻みの振動にさえ心地良さを感じて、うつらうつらとしていたのだ。


「ん~ふふ♪ じゃあ教えてあげるわ。私の夢はねぇ、女の子になること!」

「お、おお女になって何をするッスか?」

「も~う、ジョウちゃんそれ聞いちゃう? あのね、男を襲うの♪」

「お、襲う!?」

「そう♪ この世の法律はかよわき乙女の味方なのよぉ。だからぁ、身も心も乙女になってしまえば、世界中の男を襲っても私が罰せられる事はないの! ちょっとぉ、素敵なプランだと思わない?」

「あ、あははは……。叶うといいッスね……」

「あ~あ、女に生まれていれば、こんなに遠回りする事はなかったのに。人生ってうまくいかないものよね。そう思わない? レンちゃん♪」


 そう耳元で囁かれたと同時に、エリーのフライパンみたいにごつごつした掌が俺の太股を覆った。


「っ……!」


 弛緩した状態から一気に硬直してしまった体を制御できるはずもなく、俺は至近距離でにんまりと微笑むエリーの顔のキモさを、この目にまじまじと焼き付けるしかなかった。

 だが、目的地までは目と鼻の先だ。俺は一か八か、エリーとのピロートークに付き合うことにした。何とも分の悪い賭けではあるが。


「だけどね、私夢が叶わなくてもいいの。来世は女に生まれてくるって予約してあるから」

「へ、へぇ。予約制だとは知らなかった。だけど俺だったら男にするかな」

「あ~ら、どうして?」


 エリーが胸(というか胸筋)を押し付けてきた。俺の横にいるのがオカマじゃなくて美女だったらどんなに嬉しかったであろうか。筋肉と車体にぎゅうぎゅうに詰められ、身動きが取れない状態では、そんな夢見心地はままならなかった。


「ぐぎぎ……。お、女はほら、何かと面倒だろ? それに比べて男は最高だね。いろんな手間が省ける」

「いろんな手間?」

「女は下準備に時間がかかるだろ? 俺はせっかちだから性に合わないんだろうな。でも男だったらそういう心配をせずに、色々やれる。事にもよると思うがな」

「んもうレンちゃんったら、女の子もいいものよ?」

「い~や、俺は一生男がいい。生まれ変わっても絶対男だね」

「あ~ら、じゃあお互いに生まれ変わったら婚姻の儀を交わしましょうか♪」

「そ、それは遠慮しておくよ。ほら、もう着いたし」


 エリーの熱いハグを華麗にかわし、俺は逃げるように外へ飛び出た。突き刺すほどに痛い陽射しだったが、オカマの猛烈アタックに比べたらぬるま湯みたいなものだった。


「ん~ふふ、私はいつでもOKだからね。待ってるわよ♪」


 その言葉を最後に、エリーは車の中に姿を消した。俺たちが仕事している間、あいつが車の中にこもって何をしでかしているのかは知らないが、詮索するような勇敢な者は誰一人としていなかった。

 そんなわけで、俺たちは直射日光を遮るだけの簡易テントを設置した。気休め程度ではあったが、ないよりマシだ。プラスチック製の玩具のようなテーブルの周囲に椅子を並べて、ようやく今日の仕事のミーティングが始まろうとしていた。


 と、そこにジョウが俺の隣に陣取った。心なしか、数時間前に比べて頬がこけているように見える。俺のなけなしの良心が少し痛んだ。


「あれあれ、レンさん、ポムちゃんはどうしたッスか?」

「あぁ、車の中で騒がれるのもいやだし、置いてきた」

「置いてきたって、レンさん大丈夫なんスか?」

「おいおい、あいつが来る前から、俺はしっかり掃除していただろうが。お前が1番よく知っているはずだろ? なにせずーっと俺の後ろつけ回していたんだからな」

「うぐ、それは言わないお約束ッス……」


 ついさっきまで、非道なオペレーターやら粗暴な新人やら、屈強なオカマやらに主導権を握られていた俺たちだが、仕事場に来てしまえば誰も茶茶を入れるやつはいない。ジョウを軽く皮肉った俺はそれを再確認した。


「お~い、レン君とジョウ君。そろそろ始めるよ~」


 ちょうど向かいに座っていたコンラッドが、ゆる~い話し方でミーティングを仕切る。本腰を入れるため、少し前のめりになろうとしたところで、サコンが俺に話しかけてきた。


「ありゃ、お前さんあのピンクのロボットはどうした?」


 聞いてなかったのかよ、と言うのも面倒なので、俺は最小限の言葉でぶっきらぼうに答えた。


「置いてきた」

「ちっ、使えねーな」

「あ? 何か言ったか?」

「おいおい、俺ぁ聞こえるように言ったんだがね。俺より先に耳が遠くなっちまったのかい、えぇ? レンさんよぉ」

「こんの……!」


 踏ん反り返りながら椅子に浅く腰掛け、聞けば聞くほど耳障りな声を発するだけならまだしも、悪意しか感じられないサコンの言葉は、俺の頭を沸騰させるには充分すぎるほどだった。


「は~いはいはい! 喧嘩はあとで2人きりで頼むよ。それとも、今すぐここにエリーさんを呼んでほしいのかな?」


 俺は勢いよく立ち上がったが、それを制するようにコンラッドがサコンに釘を刺した。当然、むしゃくしゃとした気分が晴れるはずもない。


「ったく……。コンラッド、今のはこいつからふっかけてきたんだからな。俺は悪くない」

「挑発に乗る奴が悪いのさ。青いのはケツだけで充分、オツムまでガキのまんまじゃあ、子守だけで日が暮れちまうよ」


 憂さ晴らしに言葉の殴り合いに差し掛かろうした矢先、今度は腕組みをしていたケイスケが俺を制した。


「サコン殿、挑発する方もそれに乗る方も、第三者の視点からでは双方共に愚者でしかないですぞ。我々は、今日だけは競い合う者同士であっても、相手を陥れる道義は皆無。伊達や酔狂で本来の目的を忘れる事なきよう、心してくだされ……」

「けっ、わかっとるよ。紳士的にいきましょうや」


 サコンはばつが悪そうにそっぽを向いた。


 場に悪い空気が流れようとしていたが、絶妙なタイミングでコンラッドが割り込んだ。


「それじゃあ紳士的に、まずはこれを見てくれ」


 コンラッドはテーブルに紙媒体の地図を広げた。


「ここの印が、僕らが今いる場所だね」


 そう言いながらコンラッドは地図の東北にあるバツ印を指差した。日焼けして全体的に黄ばんだ紙に、大雑把に現在地を指し示すバツ印は、ありきたりな宝地図を彷彿とさせた。


「そしてこのルドルー川を境に、東西に仕切られているのがヘルダムとヴテナラだ。ズィーゼの情報だと、僕らは東側のヘルダムにある地雷を掃除することになっている」

「つまり、ここから見える川の向こう側は、掃除しなくていいってことッスね」


 ジョウが後方に広がる閑散とした平野を見渡した。俺もそちらに目を移すと、確かにうまいこと、いびつな横線を引っ張ったように川で区切られている。


 ……に、してもだ。


「……広くね?」

「広いよ~? ざっと見て五km、いや七kmはあるかな」


 コンラッドは微笑して答えたが、笑い事ではなかった。もちろん、広いと言っても世界地図だったらゴマ一粒に満たない広さだ。だが、サヘランの東側の国境から一〇〇kmほどしか進んでいない事を考えると、今日一日で七kmという距離を稼げるかどうかはかなりあやしい。

 しかも今回はタイムリミットがある。日が暮れるまでに終わらなかったら、五万五千ドルもの大金が、あのズィーゼのせいで通帳から消えてしまうのだ。


「……間に合わなくね?」

「チッチッチ、ところがどっこいってやつさ。皆の衆、これを見たまえ!」


 コンラッドが自慢げにそう言うと、地図の上に赤い斑点が無数に広がった。いわゆる地雷地図(マインマップ)という代物だ。それ自体は特に珍しくもないのだが、地図に浮かぶ赤い斑点は、次第に地図全体を血のような赤で染まっていき、最終的に川の西側は血の海状態になり、地雷地図(マインマップ)の意味を成していなかった。


「「!!?」」

「びっくりした!? ねぇしたでしょ!?」


 仰天する俺たちをよそに、コンラッドは一人だけテンションが上がっていた。


「な、何だよ、『必死地帯(デス・ベルト)』は向こう側じゃねぇか。驚かしやがって……」

「そういう事! ヴテナラにある地雷はこの通り、無数にあって子猫一匹歩けたもんじゃないけど、今回の仕事の範囲外だからね。死んでもルドルー川は渡らないこと! 特にジョウ君!」

「言われなくてもッスよ~。にしても、向こう側はものすごいことになってるッスね。真っ赤っ赤ッスよ真っ赤っ赤」

「ふむ、どうやら先の掃除人らは、土地の面積を確認しただけで早々に切り上げたらしいな。地雷の設置密度は驚くほどでもなかろう。……向こう側は地獄だがな」

「……『必死地帯(デス・ベルト)』か」


 必死地帯。それは、地雷原と呼ぶにはあまりにも不適切で、地上に足をつけるいかなる動物の進行をも妨げる、地雷にまみれた区域一帯のことを指す。厳密な定義はないが、『三歩歩けば五度死ぬ』程度の密度で地雷が敷かれていれば、そう呼称するのが通説である。


 サヘランは自国の至る所にこの必死地帯を設け、俺たち地雷掃除人の進行――彼らにしてみれば、あるいは侵略か――を阻止しようとしているのだ。塞ぎこむ気持ちはわからなくもないが、それを国単位でやり通すのには無理がある。そのおかげで、国民までもが農作物を作れずに飢饉に苦しんでいるのだから、手におえない。

 状況はどうあれ、俺たちがこの必死地帯を突破しなきゃ話にならない。今日ではない近い未来の俺は、果たして無事にあの地雷の海を越えられるのか……。


「へ、どうせあれも、俺らが片づけなきゃならん羽目になるんだ。当分、休日(バケーション)はお預けだわな」

「先を見過ぎではいけないよ、サコン。目標は目の前の一歩、できれば二歩先を見据えて行動するのがベストさ。何事もね」

「お前さんに言われるまでもないわ、この若造が」

「それならOK」


 俺と同じような事を思っていたのか、サコンとコンラッドは覇気のない会話をしていたが、視線だけは2人とも地平線のさらにその先を見据えていた。


「コンラッド……。 これ……でた……」

「あぁ、サンクス、リヴァイア。は~い、じゃあ地雷の数を発表しま~す!」


 滅多にしゃべらないリヴァイアから受け取ったA4サイズほどの紙を片手に、コンラッドは彼特有のゆるい仕切り方で再び話し始めた。


「地雷総数……二一七七八基!」

「「!!?」」


 予想以外の桁の多さに、全員がリアクションをとらざるをえなかった。コンラッドがすかさずフォローを入れる。


「おっと、ごめ~ん。川の向こう側の地雷もカウントしちゃってるね、この数値は」


 コンラッドはわかってて言ったような感じだった。ただ俺たちのリアクションを楽しむために、わざと言い間違えたのかこの眼鏡はっ……!


「じょ、冗談と言えど心臓にくるもんがあるな……」

「全くだぜ。女の前でもそれくらい堂々としてりゃあいいものを」


 珍しくサコンと意見が合致したが、全く嬉しくはなかった。


「今度こそ出ました! 発表しま~す! 地雷総数……六二五基!」

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