淋しいというくらいなら
ぎちぎちと肉に突き刺さる音と、痛みと苦しみに嘆く叫びがこの空間の全ての音だった。
夜も探け、人の入りが少ない小さなスナックも店を閉めた頃。街の路地裏には、紺のブレザーを着た少女と薄汚れたスーツを着た青年が影を成していた。
関係性のなさそうな二人だが、少女は長い黒髪を揺らしてただ男を眺めているのに対し、男は倒れ込み、もがくように地面に手を食い込ませながら、言葉にならない叫びを上げている。
「反省、しましたか」
何度も繰り返した少女の問いに、男は答えられない。
「安達さんが反省してくれないと、私、雪さんに怒られるんですけど」
今もぎちぎちと、小さいながら肉に入る音が響き続ける。
「反省、しましたか」
男から叫び以外の返事が聞き取れないのを察し、少女はブレザーのポケットから黒い髪ピンをいくつか取り出した。
それを見た男が怯え、訴えるかのように手を横に振るが遅く。
少女が持っているピンを空中に投げ、指を中にいれ握った手を男の方に向け、人差し指を地面に指した。
くるくると空中で回転していたピンが突然止まり、指した地面に向かって迅速に飛んでいく。
刺さった瞬間にまた、喉が擦り切れるのではないかという叫び声が路地裏に響いた。
「反省、しましたよね」
開かなくなった目から血の涙を流す男が見たのは、あまりに非情な世界だった。
淋しいというくらいなら
飼われているゲージから出てはいけないよ