朝から戯れ事
今日はとても寒い。
吐く息が消えていく空は、今まさに朝日が昇ろうとしている。
「…寒い」
呟いて手を擦り合わせ暖を求めるが、差ほど効果なく。
呼んだくせに姿を現さない戸坂に、心の中で愚痴を吐いた。
深夜、寝ようとした私の携帯にタイミングを図ったように連絡してきて、
「朝、族から帰るから車よろしくねえ」
通訳すると朝帰りするから送れ、と。
何故に朝。そして何故に私。
父に笑顔で送られてから早二時間、寒空の下に立ち続けるのは心が折れそうだ。
数少なく横を通っていく車を眺めながら、青髪の青年を探す。
「あ、おはよう」
向こうからのんびりした足取りで歩いて来る姿を見たときは、久々に殺意が湧いた。
この男と行動を共にしてから苛立つことはきりがないが、悪気を感じない精神に殴り掛かってやりたくなる。できないけど。
「おはよう」
「まだ待ってたんだー。お疲れさん」
お前が迎えに来いって言ったんだろ。
「初めまして、鳴川さん」
戸坂の後ろから同じ足取りで来たのは、随分爽やかなイケメンの青年だった。
「…初めまして」
「孝の友達の彼方っていいます」
「どうも」
人の良さそうな笑顔で握手を求められ、返す。
だがしかし、戸坂の仲間である為、腐っても直ぐに信用してはいけない。
「鳴川さんって美人ですね」
握手した手を離さないまま、顔をじっとり、と眺められる。
「そんなことありません」
「いえ、絶対美人ですよ。俺タイプだな」
「…どうも」
受け答えが面倒になって、適当に相打ちをうつ。
朝から戯れ事
…どうでもいいから、早く幸せな夢を見させて。