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アイアム プア トーイ

僕はあなたのオモチャでいい だから お願い ちゃんと僕で 遊んでよ。

時間って、いろんな意味で残酷だ。


帰ることも出来ない。


電車賃がないのを言い訳に小夜子さんの家に泊まろう。

明日、学校は創立記念日で休みとか言って、休もう。日曜出勤したなら振り替え休日があってもおかしくないはずだ。


僕は忍耐力を駆使して日暮れを待っているところだ。


真夜はいつも訳が分からない。

小夜子さんのことを考えながら、いつのまにか真夜の事まで考えてる。

トーコさんとうまくいってないからって僕にちょっかいだすなんて信じられない奴だ。

どうせトーコさんと仲直りしたら、僕に見向きもしなくなるだろうけど。

だいたい今更なんであんなことを………。

僕は真夜に偏ってしまう思考を一時停止させ、目の前に意識をやった。

さすがオフィス街だけあってスーツ姿の人がたくさん行き交っている。


くたびれたおっさんや、アブラギッシュなおっさん、束の間の休息にお喋りに夢中になるOLたち。僕よりスーツをスマートに着こなしたリーマン。

あと二年もしないうちに僕も当たり前のようにスーツを着ているんだろうなぁ。今は着慣れないから浮かれてるけど、毎日だと飽きるよな。


やっぱり退屈なので、僕は小夜子さんのオフィス近くのコンビニで、立ち読みしていることにした。


そうとうねばってやっと四時になった。

ここまでくればあと一、二時間くらいあそこの木陰のベンチで待っていよう。



そこは出入口から見える場所で、距離はあるものの、僕が小夜子さんを見落とすはずがない。

小夜子さんが分からなくても、こちらから声をかける。


キャッチの真似をするか、ナンパの真似をするか、僕は登場の仕方を必死に考えた。


よぅし、“アナタハぁ、神ぅヲ、信ジマスカァ〜?”にしよっと。

笑ってくれるかな。

それとも呆れて無視かな?


こみあげてくる笑いを押し殺しながら、僕は小夜子さんがくるのを待った。


日が暮れていく。

僕のココロはこの国と反対に期待の兆しが、射してくる。


早く逢いたいな。


小夜子さんとキスがしたい。


キスをしたら、小夜子さんのスーツを脱がせて、僕のスーツも脱がしてもらうんだ。


アウトドアのランチはもういいや。

外は飽きたし、少し身体も冷えたから、暖かな小夜子さんに抱いてもらいたい。


一緒にお風呂に入りたい。『お疲れさま』って言って僕の手で彼女を丁寧に洗ってあげるんだ。


まぁ、その後、結局、もっと疲れさせちゃうんだろうけど。


本当、僕は忠犬だ。

ヤキトリの為じゃなく、ご主人さま本体を待ってるんだからね。


すこしの妄想の合間に、携帯が気になる。


もしかしたらなにか返信が着てたかもしれない。


小夜子さんはなかなか返信してくれないけど、僕はいつもすぐに返信するから、心配してるかもしれない。


溜息を吐いてふと顔をあげると、まとめ髪の女性がビルから出てきた。


僕が見落とすはずがない。あれは確かに小夜子さん。普段は髪をおろしているけど、まとめ髪もいいな。


そう思ってよくよく見ていると隣にスーツの男がいた。

背が高くて、僕から見てもカッコイイと思えるし、僕よりスーツが板に付いている。

しかも、小夜子さんは楽しそうな笑顔を見せた。


僕の胸の中が凍りつく。


あんな笑顔見たことない。


立ち上がろうとしても、身体が動かない。

もしかしたら、僕はただの彼女のおもちゃなのかもしれない。


やっぱり、大人同士が、しっくりきてる。


あきらめに似た感情がよぎってすぐに、隣の男を殴りたくなった。


なんでお前が隣なんだ。

なんでお前が小夜子さんを笑わせてるんだ。


僕は拳を握ってこみあげてくる安価な憎しみを押さえた。


たまたま……だよな。


早とちりだ。


そう自分にいい聞かせてみるが、一度感じた怒りが拭えない。


小夜子さん、僕はあなたのおもちゃでいい。

だから、僕にも、笑顔をください。

そしてちゃんと僕で遊んで。


祈るような気持ちで、彼女を見つめた。


あぁ、僕はなんて惨めなおもちゃなんだろう。

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