アイ・ドンノウ・ティスト・キャラメリゼ オン ザ パンケイクス……
岡倉小夜子さんは僕の大切な女性。
恋人と呼んでもいいと思う。
恋しい人だから。
愛しい人なら、愛人?
でも愛人って影っぽい。
陰気臭くてイヤらしい。
でも、結局、僕は小夜子さんの愛人なのかもしれない。
逢うときはいつも小夜子さんの部屋。
することは続かないお喋り、デリバリーの食事、僕だけが狂ったセックス。
愛人どころか室内犬あるいは家猫?
家のなかの小夜子さんしか知らない。
外で何をしているか僕は知らない。
知っていることは……、
岡倉小夜子、二十七歳、会社員、性感帯は首筋、胸、横腹、内腿、××××。
いっぱい探して見つけた。あと香水を集める事が好き。
……充分のような気もするけれど、やはり足りない。一緒にいるときの小夜子さんは笑うのも怒るのも呆れるのも半分くらい。
でも、素肌を重ねればその時だけは、全てを見せてくれるような気がして、僕はいつも必死になって彼女をこじ開けようとする。
ねぇ、僕のことスキ?
いつもの僕の質問に彼女は少し困ったように笑って、答えてくれる。
大好きよ?
食べちゃいたいくらいに。
その台詞に僕は溶けてしまい、脳みそ、頬、口元に締まりがなくなる。
けれど、時計の針が一周する前に不安が首をもたげてくる。
もしかしたら、僕がうるさいから仕方なく言ってくれているのかもしれない。
そんなのはイヤだ。
そう思って、気づけば、彼女のシルクの裾をひっぱっている。
そんなとき決まったように彼女は少し笑って冷凍庫から、英語でレディなんたらと書いてある大きなカップに入ったアイスクリームを持ってくる。
僕はシチューをすくう大きなスプーンでそれを食べる。
食べている間は静かだから。
半分近く食べてると濃厚なヴァニラに胸焼けがしてくる。
僕はフローリングの上にそれを置き去りにして、彼女の膝を枕に寝転がる。
暖かな陽だまりの中で僕はやはり猫のように怠けている。
だけど、僕は彼女が外でどんな顔をしているのか知りたい。
僕のいないところでも、彼女は生きているはずだ。
僕は彼女がいなければ、生きながらに死んでいる。みたいになるけど。
夜の七時半。小夜子さんが入浴している間に、僕はバックの中を探った。
机の上にあった割り箸の袋に会社名と住所を控えた。夜八時に僕を家に帰らせる。明日は日曜日だけど、小夜子さんは出勤だから。
学生は勉強もしないとダメよっていいながら僕の背中を押して部屋を追い出す。
僕の肩書きは高校生兼小夜子さんの家猫。
チャリを漕ぎながら、小夜子さんの体温を思い出して途方に暮れる。
少し肌寒くなった今時期、余計に恋しくなる。
明日、僕はジェイムス・ボンドよろしくイカしたスパイになって、あるいは、工藤ちゃんのようにクールなハットをかぶった間抜けな探偵になって、彼女の素行調査をする。
そして、お昼時になったら予告状を携帯に送る。
“あなたとあなたのお昼休みをいただく。”
次元も石川もいないルパンだけど、フジコちゃんはいるから充分。
高級フレンチやイタリアンのランチなんて難しいかもしれないけれど、ちょっと小洒落たカフェで甘いものくらい、ご馳走するんだ。
いや、待てよ?
帰りに待ち伏せしてサプライズなんてものも楽しいかもしれない。
僕はいろんな想像をする。
小夜子さんは満面の笑みで自分は得意気。
冠婚葬祭用に買ってもらったポール・スミスのスーツを着たら、僕だって高校生には見えないと思う。
小夜子さんが喜ぶだろうとしか考えていない僕は、自分に都合のいいよう想像ばかりして、一人でニヤニヤしているだった。
鷹臣編担当、M本です。T先生に無理言ってしまいました。激謝。