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潜り戸

作者: 安室_仁
掲載日:2026/01/28

 山の中腹に建物がある。

人々は中で静かに何かを待っている。

その中に嫁いだ妹の顔も見える。

一心にこっちを凝視している。


 部屋の中央に細長い木の箱がある。

母が寝ている。

穏やかに目を瞑っている。

でも、もう息はしていないのだろう。


 三人の幼い弟は青ざめた顔で硬くなっている。

私と弟たちはどうしても身を始末しないといけないらしい。

でも、とても嬉しい。

潜り戸を抜ければ、行けると知っているから。


 しかし、潜り戸が見当たらない。

目の前に木の盥が四つ並んでいる。

丁度顔を洗えるくらいの手頃な大きさ。

不意に可笑しくなって、笑みが溢れる。


 弟たちは見開いた目で縋ってくる。

「盥に顔を付けて、目を開けると向こうに行けるのよ」

小さい弟は、必死の眼差しで頷く。

私は身をくねらせて狭い穴から抜けるような仕草をする。

小さい弟はクスクスッと笑う、上の二人も少し笑顔を見せる。

「先に少し水を飲むとすぐに行けるわ」


 杯を乗せた三宝が四つ置いてある。

「さあ、盥の前に座りなさい」

上の二人はまだ少し不安そうに見上げてくる。

「大丈夫ですよ。私もすぐに行きます」と心から微笑む。

三人は安心したようで、盥の前に正座をする。


 三人は目を瞑って、杯の水を一気に飲み込んだ。

杯の落ちる音が鈍く小さく三回重なって響いた。

周囲の人たちの息を呑む声が聞こえた。

弟たちは盥に顔を突っ伏すと、そのままになった。


 見苦しい姿を見せてはいけないと自然に思った。

身仕舞いを正して盥の前に正座した。

三宝から杯を両手でそっと取り上げた。

杯の中の水はねっとりと蠢く。

杯を一気に空けた。

手から杯が離れていくのがうっすらと分かった。

顔が盥に落ちていくのをぼんやりと感じた。

水は肌にふんわりと当たったようだ。

とても遠くで妹の小さい悲鳴が聞こえたような気がした。


 顔がさっぱりしたので、目を開けた。

ああ、見えた。

さあ、あそこへ。


おわり

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