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目標と想い

本編2章1話です

ちょい、急いだ……

2章1話


石段は、見た目よりもずっと長い。

背中には汗がにじみ、日差しが肌を刺す。

冷夏は日傘を差しながら、俺の半歩後ろを歩いていた。


「くそ……まさか異世界でも日差しは容赦ねぇとはな」


「日差しはどの世界でも女の敵なんだよ。日傘は生命線!」


軽口を叩く余裕があるのは、彼女が強いからか、ただの鈍感か。

どちらにしても、そんな冷夏の姿に俺は少しだけ救われていた。


やがて階段を登り切ると、視界が一気に開けた。

丘の上から見下ろす街は、まるで絵画のように広がっている。


赤茶の屋根が連なり、通りには露店や人混み。

人間だけでなく、獣人や角を持つ者、髭をたくわえた小柄な者――

さまざまな種族が自然に混ざり合っていた。


ここでは、それが“当たり前”なのだ。

もはや歴史の比較なんて意味を持たない。

――この世界は、俺たちの知る世界じゃない。


冷夏は小さく息をのむ。

風が彼女の白銀の髪をなびかせ、日傘の影が頬をやわらかく包んだ。


「……すごいね。こんな世界、本当にあるんだ」


「夢じゃない、ってことだな」


「不安になっちゃった?」


「正直な……だが、お前がいるから、まだ冷静でいられる」


「ふふ、その皮肉、ちょっと嬉しいかも」


冷夏が微笑む。

その笑みはいつも通りの明るさの中に、ほんの少しだけ緊張を帯びていた。


俺はノートを取り出し、地面に膝をつく。

頭を整理する。

優先すべきは――生き延びるための“基礎”。


「整理するぞ。今日中の目標は4つ。

 1、治安の確認。

 2、最低限の言語を理解すること。

 3、金の価値を把握し、入手。

 4、寝床の確保。」


冷夏が日傘を傾けながら覗き込む。

反射した光がノートのページを白く照らした。


「ねぇ、治安って、どんな感じに見える?」


「……正直、悪い。…日本が安全すぎたってのもあるがな。」


「ちなみに判断した理由は?」


「ほら、あの通り――剣を柄から抜いてる奴がいるだろ。でも、殆ど誰も気にしてない。

つまり“武器を持つ”ことが日常なんだ。

だから、“人を傷つけること”への抵抗も薄い可能性がある。」


「……そういうことか。じゃあ、なるべく夜は外出禁止だね」


「それが賢明だな。俺も、知らない場所での夜の街は避けたい」


冷夏は静かにうなずいた。

彼女は昔から、こういう現実的な判断だけは早い。


「次は言葉だ。会話は無理でも、“はい”“いいえ”、それと数くらいは理解したい。

何かあった時、何も言わず逃げたら不審者扱いされて捕まる」


「“密航者”ってやつだね」


「……まあ、そうだ。言葉がわからなきゃ説明もできない。

宿に行っても、値段も看板も読めない。

このままだと、泊まる場所すら見つけられない。」


冷夏が唇を噛む。

明るい彼女でも、こういう現実には顔を曇らせるらしい。


「……お金、どうするの?」


「考えはある。でも、この世界で使える通貨がわからないと、取引すらできない。

もし無銭で宿を探したら、それこそアウトだ。」


「……牢屋行き、か」


「最悪なシナリオだが、あり得る。」


俺はノートを閉じ、風を受けながら立ち上がった。

遠くの通りでは、商人らしき獣人が何かを売っている。


「……とりあえず、現地の金を観察しよう。貨幣の形、素材、流通の仕組み。

どこかで入手できれば、宿探しの足がかりになる。」


「なるほどね。でも、どうやって?」


「そこは……考える。まずは“見る”ことからだ。」


「了解!……ねぇ、ハル」


「ん?」


「こんな状況でも、なんか私はハルがいるから安心するよ」


急に出た言葉に、俺は振り向く。

冷夏は少し笑いながら、日傘をくるくる回していた。


「まぁ、面倒見るのなんて昔からだからな。

……いきなりどうしたんだよ」


「なんか今のハル見てたら、思い出したんだ。

ほら、私の家って、ちょっと複雑じゃん?」


「まぁ……公爵家の末裔だしな」


「そう、それ。

昔から代々会社をいくつも経営してて、

私への取材とかは全部お金と権力で封じてた。

“体質”のことが広まらないように。」


冷夏の声が、少しだけ寂しげになる。


「……だから私は“自由”でいられたの。

全部、親の金と権力のおかげで。」


「知ってる。自由が過ぎるときもあるけどな。

でも、お前なりに努力してたろ」


「小さい頃から、うちの父さんとハルのお父さんのことでよく一緒にいたしわかっちゃうか〜」


「ああ。うちの親父が護衛で呼ばれてたし、

たまにお前がウチに来てたし、あの頃からもう……何かと騒がしかった」


「ふふ、あの頃から守ってくれてたもんね」


「仕事の延長だよ。……まぁ、今も似たようなもんだが」


そう言うと、冷夏は小さく笑って頷いた。

日傘の影が彼女の瞳を金色に染める。

その光は、“異世界”の太陽にも負けないほど強かった。


「……ありがとうね、ハル」


「おい、急にどうした」


「なんかさ、今だからこそ改めて思うの。

 ――ハルが一緒でよかったなって」


その言葉に、胸の奥が少しだけ熱くなった。

けど、素直に返すには恥ずかしすぎて、視線を逸らした。


「……とりあえず、今は生き延びることに集中しろ」


「りょーかい!」


冷夏がいつもの調子に戻る。

その瞬間、またこの世界の“日常”が動き出した気がした。


太陽はまだ高く、空は抜けるように青い。

けれど、胸の奥には確かな緊張が残っていた。


――治安は悪く、言葉は通じず、金もない。

それでも、進むしかない。


俺たちは再び石段を下り、活気に満ちた街へと足を踏み出した。


次回は3日以内に上げます

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