08:あなた、ブラコンですね?
恋人役……私がラディアス殿下の恋人役って……なんでこんなことになった?
内心頭を抱えながらも、セルジュ殿下とベル姉様と一緒に医務室を出る。
すると、廊下にはテレーゼ様を含む四人の女子生徒たちが立っていた。
――ああ、良かった。本当にお元気そうだわ。
無事だと聞いてはいたけれど、実際に目で見て安心した。
「この度は、ご迷惑をお掛けして申し訳ございません」
「私たちが愚かでした……」
彼女たちはバツが悪そうな顔をして、口々に謝った。
「チェレスタ侯爵家の娘、テレーゼと申します。この度は危険を顧みずお助けくださって、本当にありがとうございました」
テレーゼ様は誰よりも深く頭を下げた。
「ご無事で何よりです。リース男爵家のユミナと申します。私は未熟な1年生ですので、どうかお気軽にお声がけください」
微笑むと、テレーゼ様は恥ずかしそうに笑った。
「わたくしは2年生ですわ。年上ではありますが、仲良くしてくださると嬉しいです」
「こちらこそ、是非。よろしくお願いいたします、テレーゼ様」
「はい。それでは、失礼いたします」
改めて「もう二度と醜い争いはしません」とセルジュ殿下に誓ってから、テレーゼ様たちはいなくなった。
「ベロニカ嬢。申し訳ないが、先に教室に戻っていてもらえないだろうか。ユミナ嬢と二人で話したいんだ」
「承知しました。それでは、失礼いたします」
ベル姉様は一礼し、廊下の先に消えた。
「……お話とは何でしょう?」
広い廊下に二人きりとなってから、私はセルジュ殿下に尋ねた。
「これからの話は内密にしてほしい」
「心得ています」
エメラルドグリーンの瞳を見つめて頷く。
「実はね。ラディは初恋の女性を私に奪われているんだ」
「えっ?」
激しい衝撃を受けて、私は固まった。
「いや、誓って私が何かしたわけではないよ。相手が心変わりしただけだ。ラディのことが好き、この愛は永遠だと言っていたのに、気づいたら私のほうを好きになってしまったそうだ」
あー……それは、ひねくれますわー……当然だわー……。
私は同情の眼差しを医務室の扉に向けた。
ラディアス殿下はまだ頭が痛いとかで、午後の授業も休むらしい。
「……愛を告白された女性に、セルジュ殿下はなんとお答えしたのですか?」
「『死ね』と言いたかったけれど、さすがにそれはね。一応相手は女性だからね」
…………うん?
いまなんだか、お優しいセルジュ殿下の口からは決して出てはいけない言葉が聞こえたような?
気のせいですかね? 気のせいですよね?
「だから、ありがとうと微笑んで、丁重にお断りするだけにとどめたよ。あのときは本当に、自分の気持ちを抑えるのが大変だった。気を抜けば手が出ていたかもしれない。いや、もっと取り返しのつかないことをしていたかもな……×××って×××るとか……」
ちょっと待って、それ、王子様でなくとも絶対言っちゃダメなやつ――!!
私は何も聞いてない、ええ、何も聞いていませんとも!!
「……ラディを傷つける奴はみんな息絶えればいいのに……」
いつものキラキラオーラはどこへやら。
暗黒のオーラを纏って俯き、ブツブツ呟くセルジュ殿下を見て、私は心底震え上がった。
――あっ、はい、わかりました。
あまりわかりたくないんですけど、嫌でもわかってしまいました。
皆から『微笑みの王子様』や『太陽の王子様』なんて言われてますけど……セルジュ殿下って、実は、とんでもないブラコンなんですね?
「――だから、ね? ラディのこと、くれぐれも、よろしくね?」
不意に顔を上げ、セルジュ殿下は台詞の一つ一つを区切って念押ししてきた。
穏やかに微笑んでいるけれど、目は笑っていない。
――私の大事な弟を傷つけたら、どうなるかわかってるよね?
という、無言の圧を感じる!! 凄まじい圧を!!
うん、やっぱりセルジュ殿下はラディアス殿下の兄君だわ!! めちゃくちゃ怖い!!
「はいっ、お任せください! 全身全霊で恋人役を演じ、ラディアス殿下をお守りさせていただきますっ!!」
私は背筋を伸ばして直立し、ハキハキと答えた。
「うん、よろしくね。それと……もう一つ、話しておきたいことがある」
セルジュ殿下は表情を真面目なものに改めて、言葉を続けた。




