05:階段から転落した令嬢を救え!
ダルモニア魔法学園には、お城かと見まごうほどに立派な図書館がある。
でも、私は教室棟の3階にある図書室のほうが好きだ。
図書室には私の大好きな刺繍関連の本がたくさん並んでいるから。
特に、『刺繍魔法の使い方』という本を見つけたときは興奮した。
――世の中には刺繍魔法なんてものがあるの!?
やりたい、やりたい、是非とも使ってみたい!!
私は期待に胸を膨らませ、記述の通りに実践してみた。
しかし、現実とは無情なもの。
何度挑戦しようと、何も起きなかった。
「はあ……」
翌日の昼休み。
私はトボトボと廊下を歩きながら、胸に抱えた『刺繍魔法の使い方』を見つめた。
返却期限ぎりぎりまで粘ったけれど、結局、刺繍魔法は使えずじまい。
魔力2の雑魚ではダメですか、そうですかー……ああ。悲しい。
――って、いつまでも引きずってはダメよね。できないものはできないんだって割り切らないと。魔力が少ないのは始めからわかってたことじゃない。
頭を振ることで気持ちを切り替え、私は3階に続く階段を上り始めた。
すると、上から声が聞こえた。
「セルジュ殿下! 今日こそ私にお時間をいただけませんでしょうか! ほんの少しで結構ですので!」
「あなたは引っ込んでいなさい! セルジュ殿下! 是非とも私とお話を――」
「いえいえ、ここはわたくしが!」
「私よ!」
「いーえっ、私!!」
見上げれば、階段の踊り場にセルジュ殿下が立っていた。
いつも通りの、少し困ったような笑顔で。
そして、踊り場から数段下がったところに、四人の女子生徒がいた。
彼女たちはセルジュ殿下に素敵な笑顔を向けている。
でも、その裏で隣の女子生徒の制服を引っ張ったり、肘で押し合ったりしていた。
――結構な勢いで押し合ってるように見えるけれど、大丈夫かしら?
ここは足場が不安定な階段なのに。
ハラハラしながら見ていると、不意に一人が身体のバランスを崩した。
彼女は昨日も見た、ド派手な金髪縦ロールの女子生徒だった。
左隣の女子生徒に制服の裾を引っ張られた上に、右隣の女子生徒に肘で強く押されたせいで、階段から足を踏み外してしまったらしい。
「!!」
――危ない!!
考えるより先に身体が動いた。
抱えていた本を放って両手を伸ばす。
落下してきた彼女を、なんとか受け止めた。
――受け止めることはできたけれど、落下の勢いまでは殺せなかった。
身体が後ろに傾いていく。
時間が引き延ばされたかのように、世界の全てがゆっくり見える。
女子生徒たちは全員こちらを振り返っていた。
セルジュ殿下も踊り場から私を見ている。
驚きと焦りが入り混じった、初めて見る表情で。
直後、背中と後頭部を床に打ちつけ、私は気を失った。




