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恋人『役』の刺繍令嬢ですが、気づけば王子の最愛になっていました  作者: 星名柚花


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04:放課後の魔法訓練

 全ての授業が終わった放課後。

 私は魔法棟の自習室で魔法の特訓をしていた。


 重大な事故を防ぐためにも、屋内で魔法を使うときは教室棟ではなく、防御結界が張られた魔法棟で行うように指導されている。

 屋外で魔法を使うことは特に禁じられていない。でも、何があっても自己責任だ。

 

 明日は大の苦手な魔法実技の授業がある。

 1年生の魔法実技はエルリック先生とアーロン先生の二人が担当しているのだけれど、エルリック先生はアーロン先生に比べて優しい。

 なにしろ、事前に『できる限り大きな光の玉を作ってもらう』と授業内容を教えてくれるのだから。


 大魔導師アルドを祖とするダルモニアの王侯貴族は、当然のように魔力を求められる。

 特に女性は、魔力の寡多によって結婚相手が決まるといっても過言ではない。

 この国においては、それほど魔力が重要視されるのだ。


 しかし、悲しいかな、私の魔力は2しかない。

 たとえ最下級の男爵家といえど、貴族の娘として生まれたならば最低でも20はほしいところなのに、2である。


 ダルモニア魔法学園の入学志願にあたって私の魔力測定をしたとき、測定器の数値を見たお母様は無言で額を押さえた。

 ベル姉様は「だ、大丈夫よ! 完全に魔力が無いわけではないのだから、受験資格はあるわ! 魔力が少ない分は他の科目の点数で補えばいいのよ!」と必死でフォローしてくれたな。懐かしい。


 さて、そんな残念な魔力を持って生まれた私の実力はというと。


「……え~と……まあ……なんとか、努力の甲斐あって光の玉は生み出せたわね~……」

 三十分に及ぶ格闘の末、私の人差し指の先に生まれた光の玉を見て、ナタリー様は苦笑い。

 私がなけなしの魔力を振り絞って生んだ光の玉の直径は……3ミリくらい?

 極小にも程がある。はかない蝋燭の炎のように、ちょっとでも息を吹きかければ消えてしまいそうだ。


 これでも三十分頑張った結果なんです。

 ええ、最初は生み出すことさえできませんでした。


「……これで、コンラッド先生は、合格点をくださると……思いますか?」

 ぜえはあと息を切らしながらナタリー様に尋ねる。

 たったこれだけのサイズでも維持するのは難しい。

 私は光の玉を消し、額を濡らす大量の汗をハンカチで拭った。


「う~ん……先生が期待していた大きさではないでしょうけれど~。魔法で光の玉を生み出したのは確かなわけだし、大丈夫じゃないかしら~? ただ、合格はしても最低点であることは覚悟したほうがいいわね~」

「はい。こんな有様で100点をくださいと要求するほど、私も恥知らずではありません。魔法理論では高得点を目指しますが、魔法実技に関しては、とにかく合格がもらえれば良いと入学時に割り切っています」

「魔力が2しかないのではね~。どう足掻いても実技で高評価は望めないものね~」

 苦笑を深めるナタリー様を見て、ふと興味を覚えた。


「あの。よろしければ、ナタリー様の魔力数値を伺っても?」

 魔力数値がそのまま人としての評価に直結しがちなダルモニアにおいて、親しくない人に魔力数値を尋ねるのは重大なマナー違反だ。

 でも、私はナタリー様に友達認定されている。多少の無礼は許されるはず。


「105だったわ〜」

 ナタリー様はサラリと、とんでもない数値を口にされた。


「………」

 いや、100以上って……大魔導師レベルじゃないですか。

 ふんわりおっとり系美少女の上、魔力にまで恵まれたなんて……あなた、無敵ですか?


 そういえば。

 この前のお茶会で、ナタリー様は「三年前に隣国が攻めてきたとき、お父様は魔法の一発で大軍を壊滅させたのよ〜」と仰ってたな。

 そんな馬鹿な、大げさだってみんな笑ってたけど……本当なのかも。


「わたくしのことは置いといて〜。ユミナは、『魔力数値30以上』という厳しい入学制限を撤廃してくださったファロム理事長に救われたわね~」

「はい。本当に」

 三年前に理事長に就任されたファロム理事長は「生まれ持った魔力の強さだけで全てを決める時代は終わらせるべきだ」との革新的な方針を示した。

 ファロム理事長が『魔力数値30以上』ではなく『魔力があれば受験可能』に入学条件を変更してくれたおかげで、私は足切りを免れることができた。


「ファロム理事長、ありがとうございましたっ!」

 改めて感謝を示すべく、私は顔を窓に向けて叫んだ。

 窓の外に見える塔の最上階には理事長の部屋がある。


「ありがとうって、あははははっ。も~、ユミナったら本当に面白いわ~。大好き~」

 ナタリー様は声を上げて笑い、人差し指で目元を拭った。


 淑女は口を開けて笑ったりしないものだが――笑い声を上げるにしてもせいぜい『ふふふ』程度の控えめなものだ――周囲の目がないときは、ナタリー様は飾らない素を出してくれる。

 それは紛れもなく、私に心を開いてくれている証で。


「光栄です。私もナタリー様のことが大好きですよ」

 私はニッコリ笑った。この言葉に嘘偽りはない。


「んもう!」

 ナタリー様は大いに照れたらしく頬を真っ赤に染め、私の肩をペシペシ叩いた。

 ……あまりの愛らしさに、内心身悶えたのは内緒である。

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