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恋人『役』の刺繍令嬢ですが、気づけば王子の最愛になっていました  作者: 星名柚花


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29/42

29:練習あるのみ

「――ということがあったのよ。ラディアス様はネズミが苦手なのに、私を抱き上げてくださったの」

 寮で刺繍をしながら、私はベル姉様に今日の出来事を話していた。

 いま刺している図案は『魔力吸収』という効果を持つ魔法陣。


 これはラディアス様をどうにか助けたい一心でセルジュ様が見つけ出した奇跡の図案である。なにしろ、この図案が載っていた図案集は王宮の禁書庫の奥に封じられていた、いわくつきの代物。王宮の禁書庫に踏み込める権力と、何より執念がなければ見つけ出すことは不可能だ。


『魔力吸収』なんて、一般の魔法使いにとっては呪いにしかならない。でも、魔力過多で苦しむラディアス様には救済手段となり得る。魔法陣が強すぎる魔力をうまく吸い上げてくれれば、魔力が暴走することもなくなるはずだ。


 しかし、『魔力吸収』の図案には大きな問題があった。

 この図案は魔法陣を閉じて完成させた瞬間に、一定量の魔力を吸収する性質がある。

 刺繍魔法の使い手の魔力量が低すぎると、全ての魔力が吸収され、魔糸が切れて魔法陣が崩壊してしまうのだ!


 私もこれには仰天し、蒼星館に駆け込んだ。


 相談の結果、私たちはとある作戦を決行することなった。

 作戦の実行日は来週末の休日。

 私はそれまで、ひたすら練習することを己に課した。


 ちなみに、『魔力吸収』のほかにも、『安定』と『増幅』の魔法陣の図案も練習している。

 ラディアス様の魔力量は本当にとんでもない量なので、『魔力吸収』の効果を増幅させる必要があるだろうとセルジュ様に言われたのだ。


 流れ込む魔力を制御し、魔法陣を最適化してくれる『安定』の図案は比較的簡単だけど、『魔力吸収』と『増幅』は『防刃』の図案より遥かにややこしくて難しい。

 これで針の刺す位置がほんの少しでもズレたら効果を発揮しないなんて、作者は鬼だ。酷すぎる――そんなふうに、私も最初は泣き言ばかり言っていたけれど、さすがに一か月も刺し続けていたら慣れました。慣れってすごいね!


「まあ、そんなことがあったのね。ふふ」

 私と向かい合う形で自分のベッドの端に座っているベル姉様は、鈴を振るような声で笑った。


「どうして笑うの?」

 私は刺繍の手は止めないまま尋ねた。

『魔力吸収』の図案は複雑極まりないけれど、これまで何百、何千と刺してきたおかげで完璧に頭に入っている。喋りながらでも、自然と手が動いた。


「ラディアス殿下の恋人役なんて、最初はどうなることかと思っていたけれど、心配なさそうね。最近のユミナは楽しそうだもの。表情が明るいわ」

「……そう?」

 自覚していなかったことを言われて、頬が少し熱くなった。


「ええ。ユミナが本当にラディアス殿下を大切に思っていることは、私が一番よく知っているわ。ただセルジュ殿下に頼まれただけでは、寝る間も惜しんで刺繍したりしないでしょう? この前、ユミナは眠りながら手を動かしてた。夢の中までラディアス殿下のために刺繍の練習をしているなんて、もはや愛よね、愛」

「あ、愛なんてそんな……ラディアス様のことは、まあ……その、好きよ? でも、あくまで人として好きなだけだって、特別な感情はないからね!?」

 ほらやっぱり、という顔でベル姉様が私を見るから、私は大慌てで言った。


「ラディアス様は王子で、私は男爵令嬢よ!? しかも半分は平民なの!」

「もう。そんなの関係ないでしょう。セルジュ殿下だって、『何も問題ない』と仰っていたじゃない」

「いやいや、問題大有りだから! 私はただの恋人役に過ぎません! 身の程はわきまえてます! 私はしょせん、ラディアス様が本当の恋をされるまでの『虫よけ』です! わかったらこの話題はもう終わりっ!!」

「――あら」

 と、ベル姉様が突然声を上げたのは、部屋に金色の蝶が入り込んできたからだった。

 金色の光を放つこの蝶は、ラディアス様の魔法だ。本来は探索や捜索のために用いられるものらしい。


「噂をすれば……というやつね。今日もラディアス様はお元気なようよ、良かったわね」

 金色に輝く光の鱗粉をまき散らしながら、私の周りを飛び回る蝶を見て、ベル姉様は微笑んだ。

 ラディアス様が心配で眠れなかった――と、私が言った日から、ラディアス様は毎晩のように魔法の蝶を飛ばしてくれる。私に元気だと教えて安心させる、そのためだけに。


「うん。良かった。明日もまた元気なお姿を見たいわ」

 刺繍中の布や道具を横に置き、右手の人差し指を差し出すと、金色の蝶は私の指に止まった。ゆっくりと羽根が下りて、リラックスしているような姿勢になる。

 やがて、金色の蝶は溶け崩れるように金の粒子となって消えた。

 名残惜しく自分の指を眺めていると、ベル姉様が呟いた。


「……やっぱり、ユミナはラディアス殿下のことが好きだと思うんだけどなあ」

「もう、だから違うってば!」

 私は頬が赤く染まるのを自覚しながら、横に置いていた刺繍道具一式を取り上げた。

 脳内にピンク色のお花畑が咲いているらしいベル姉様の戯言には付き合っていられない。

 セルジュ様とラディアス様に失望されるなんて嫌だもの。

 いまは余計なことなんて考えず、とにかく練習、練習、練習だ。

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