28:実は苦手だったんです
――そ、そこまで嫌わなくても……。
クラス中から非難の嵐を受けて、私は泣きそうだった。
確かにネズミは病気の元だと言われているけど、私は形がネズミになっただけ。病気なんて持ってないのに。
「最悪だわ。一体どういう趣味をしているの?」
ゾーラ様はゴミでも見るような目で私を見ている。
ゾーラ様の近くにいるナタリー様はそこまで過剰な反応はしなかったけれど、頬が引きつっていた。
「ユミナ~? 早く人間に戻ったほうが良いと思うわよ~……」
ナタリー様もネズミは苦手らしい。
いや、ネズミ好きって人のほうが少ないわよね。
でも、親しい友人からの拒絶は、やっぱり悲しい。
「キャンセラ・トランセッタ!」
何度叫んでも、人間に戻れない。
なんで? どうして?
高度な魔法を使うには心が乱れすぎている。集中力が全く足りてない――そんな当たり前のことにも気づかないくらい、私はパニックだった。
このまま一生、人間に戻れなかったらどうしよう!?
「キャンセラ・トランセッタ! キャンセラ・トランセッタ!……」
「焦りすぎだ。落ち着け」
ラディアス様の声が聞こえたと思ったら、身体を両側から掴まれた。
「!?」
気づけば、私はラディアス様の腕の中にいた。
すぐ目の前にラディアス様の美しい顔があって、心臓が止まりそうになる。
「トランセッタ」
ラディアス様が呪文を唱えた直後、私は黄金の光に包まれた。
滑らかに身体が変形していき、黒ネズミから黒猫へと変わる。
きっと目の色は、私と同じ赤。
「あ。猫になった」
「可愛い」
さっきまで猛烈な拒否反応を示していたクラスメイトたちも、猫には好意的な反応を見せた。
教室の端まで逃げていた女子生徒も、ホッとしたような顔でこっちを見ている。
「いまなら落ち着いて言えるだろう?」
ラディアス様は猫になった私を床に置き、優しく頭を撫でてくれた。
「……はい」
私にとっては、彼の手こそ魔法だ。
だって、あれだけ乱れていた心を、これ以上ないくらいに落ち着かせてくれたのだから。
「キャンセラ・トランセッタ」
呪文を唱えると人間に戻った。極端に低かった目線が、いつも通りの高さになっている。
「よくできた」
ラディアス様は微笑んだ。私も微笑み返す。
「ありがとうございました、ラディアス様。猫に変身させることでクラスのパニックを鎮めてくれたこともそうですが……何より、醜いネズミになった私を抱き上げてくれて。嬉しかったです」
友人のナタリー様でさえ顔を引きつらせていたのに、ラディアス様はためらいなく手を伸ばしてくれた。私に触れてくれた。
それがどれほど嬉しかったか、きっとラディアス様は知らないだろう。
「どういたしまして。ユミナを助けるのは当たり前のことだ」
さらりと言われて、頬が熱くなった。
「わ、私も……ラディアス様の危機には駆けつけますね」
「ああ。頼む」
微笑み合っていたとき、アーロン先生が近づいてきた。
無表情のアーロン先生が怖くて、私は身を縮めた。
「ネズミに変身していたのはユミナか。100点だ」
「えっ。満点なんですか? これだけ皆を大騒ぎさせてしまったのに……」
てっきり罰が与えられるとばかり思っていた。
「大騒ぎしたのはクラス連中の勝手だろう。動物に変身しろという俺の指示に従って、お前はネズミに変身した。それも、クラス中が悲鳴を上げるほどの、完璧なネズミにな。100点以外の評価はあり得ない」
アーロン先生は淡々と言い、変身中の別のクラスメイトの元へ向かった。
「……聞きましたか、ラディアス様。満点だそうです。私、ネズミになる才能があったのかも?」
「そんな才能はいますぐ捨てろ」
顔を顰めたラディアス様を見て、思わず笑ってしまった。
――だって、ラディアス様も本当はネズミが苦手なのに、それでも私を抱き上げてくれたんだとわかってしまったから。




