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恋人『役』の刺繍令嬢ですが、気づけば王子の最愛になっていました  作者: 星名柚花


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27:変身トラブル発生!

 今日の魔法実技の担当は優しいエルリック先生ではなく、厳しいアーロン先生だ。

 後ろで束ねた黒髪。切れ長の青い瞳を持つ彼は、ただ立っているだけで場の空気を引き締める。

 宮廷魔導師団長のアーロン先生は多忙の身だけれど、後進育成のために学園で特別講師を務めている。

 魔力が2しかなかった頃、私はアーロン先生の高度な授業内容に全くついていけず、惨めな思いを噛み締めてきた。

 しかし、ラディアス様のおかげで、いまの私は魔力が大幅に増えた。

 上級魔法さえ扱えるようになったのだ。

 どんな授業であろうと、もう臆することはない。


「今日は変身魔法を教える。変身魔法の対象は幅広いが、今回は動物に限定する。後で実際に変身してもらう。何の動物に変身するか考えながら聞くように」

 アーロン先生の説明を受けた後は、いざ実践。


「何の動物に変身するか決めた?」

「うーん、やっぱり鷲とか狼とか、格好良いやつがいいよな」

「わたくしは白鳥にいたしますわ~」

「トランセッタ(変身)」の呪文があちこちで聞こえて、見慣れたクラスメイトたちが次々と姿を変えていく。


 猫、鳥、犬、狼、リス。ざっと見た限り、多いのは鳥と猫だ。ダルモニアの貴族の間では愛玩動物として親しまれているから、イメージしやすいのだろう。


「変身したら、そのまま少し待て。俺が点数をつけるまで変身を解除するなよ。言うことを聞かない奴は減点だ」

 アーロン先生は教室を歩き回り、変身を終えた生徒たちを見て回った。


「シモンは犬か。細部の変身が甘い。48点、後日追試だ。マレックは猫か。家で飼っているだけはあるな。見事な変身ぶりだ、95点。ナタリーは白鳥か。さすがだ、文句なしに100点。ラディアス殿下は犬……いや、これは狼ですね。素晴らしい。100点です。ゾーラはリスか。見た目が可愛らしい動物に変身したかったのはわかるが、きちんと実物を見たことがないのだろう。リスの前足の指は5本ではなく4本だ、愚か者め。12点、後日追試とする――」

 アーロン先生に点数をつけられた生徒たちは「キャンセラ・トランセッタ(変身解除)」の呪文を唱えて元の姿に戻っていく。その表情は悲喜こもごもだった。


 ――私はどうしよう。何に変身しよう?

 アーロン先生は変身魔法はイメージが最も大事だと言った。となれば、一番よく知っている動物が良いのだろうけれど、リース男爵家では鳥も猫も飼っていない。


 でも、猫なら何度か見たことがある。頑張ってイメージしよう。

 ふわふわの毛並み、ちょこんとした三角の耳、丸い瞳――よし、ちゃんと思い出せる。これならいけそう。


 小さく息を吸い込み、私は胸の前で手を組んだ。緊張しながら口を開く。


「トランセッ――」

 ――と、呪文を唱えようとした瞬間、余計なイメージが頭を過ぎった。


 王都の仕立て屋で働いていた頃、私はネズミの死骸を踏んでしまったことがある。

 あのぐにゃりとした、生々しい感触が――ちょっと待って、何故いま、よりによってこのタイミングで思い出すの!?


「――タ」

 慌てて中断しようと思ったのに、呪文が短すぎたせいでそれも敵わない。

 身体が青白い光に包まれて変形していく。


 次に瞬きしたとき、私は可愛らしい猫ではなく――醜いネズミになっていた。


「きゃああああっ!!」

 耳を劈くような、凄まじい悲鳴が上がった。


「ひっ、ね、ネズミ!?」

「いやああっ! 床にいるわよ! 誰か!! 叩き殺して!!」


 ――いやいや、叩き殺さないで!? 私、あなたのクラスメイトです!!


「誰の変身なの!? ありえないでしょう! なんでよりにもよってネズミに変身するのよ!?」

「俺に近づくなっ、気持ち悪い!!」

「ネズミが引き起こした病気を忘れたの、馬鹿じゃないの、信じられないっ!! ああもう見たくもないわ、汚らわしい!! 私の前から消えてちょうだい!!」

 近くにいた女子生徒はネズミに怨念すら抱いているらしく、しっしっ、と手で追い払うような動作をしてから、教室の端まで逃げて行った。

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