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恋人『役』の刺繍令嬢ですが、気づけば王子の最愛になっていました  作者: 星名柚花


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24:恋せよ乙女

「レイモンド様。お約束の品です」

 三日後の放課後。

 双華の館の裁縫室で、私はかぎ針編みで編んだクッションカバーをレイモンド様に手渡した。


「こちらはグラニースクエアというモチーフを組み合わせて作りました。黄色の糸で編んだ部分は太陽を表現したサンバーストというモチーフになります。レイモンド様の妹君はサンマリー様――同じく太陽を意味するお名前です。誕生日の贈り物として、喜んでいただければ幸いです」

「ふむ。毎度のことながら、ユミナ嬢の腕前は素晴らしいな」

 レイモンド様は右手で眼鏡をくいっと押し上げた。どうやら気に入っていただけたようだ。


「ええ、本当に。わたくしの屋敷で針子として働いてほしいくらいですわ」

 テレーゼ様が感嘆の息を吐く。

 ラディアス様は椅子に座ったまま何も言わないけれど、クッションカバーをじっと眺めていることから、凄いとは思ってくださっているようだ。


「そしてこちらは、刺繍を施したベッドカバーになります」

 私は三者三様の反応に満足しつつ、袋から大きな亜麻布リネンを取り出して机に置いた。


「べ、ベッドカバー!? あなた、そんな大きな布にまで刺繍したんですの!?」

 テレーゼ様は驚愕し、ラディアス様は目をぱちくりしている。

 普通、刺繍はハンカチやスカーフといった小物を対象にするものだ。

 とはいえ、刺繍を極めた人は自分のドレスに刺繍をしたりもするけれどね。

 私もリース男爵家では、お母様やベル姉様のドレスに刺繍をしてました。


「はい。以前枕カバーに施した刺繍を大変気に入っていただけまして、お揃いの刺繍をベッドカバーにも施してほしいと頼まれたのです」

 本当ですの? という顔でテレーゼ様に見つめられて、レイモンド様は頬を掻いた。


「いや、枕カバーに描かれた動物たちが非常に可愛かったので、つい……無論、断られることを前提で頼んだのだが。意外にも快諾してもらえたのだよ」

「ふふ。大きな布なので、その分、自由に図案を描くことができました。今回は羊の他にも、花や蝶も描いてみました」

「なんとまあ……大変メルヘンチックな図案ですわね……しかし、これは完全に子供向けでは?」

 デフォルメされた太陽の下、花畑を舞う蝶や羊たちを見て、テレーゼ様は不安げにレイモンド様を見たけれど。


「なんと可愛いらしい!! 実に素晴らしい!! 良い夢を見ることができそうだ!!」

 レイモンド様は大喜びのご様子。


「……。レイモンド様は可愛いらしいものがお好きなのですわね……意外ですわ……」

 テレーゼ様は驚いているようだ。わかります。レイモンド様って、普段は理知的でクールなお方ですものね。単純な計算とかは、凄まじく早いし。


「ええと、ユミナ? それで、わたくしが頼んでいたハンカチはどうなりました?」

「はい、そちらも出来上がっております」

 私は袋からハンカチを取り出した。白から濃い青へと滑らかに色が変わる、美しい染めのハンカチだ。


「チェレスタ侯爵家の紋章はこちらに」

 ハンカチの左下部分を指さす。


「生地の色の変化に合わせて細かく刺繍糸の色を変えることで、ぱっと見ただけではほとんど目立たないようにしました。しかし、光を浴びればこの通り」

 窓から差し込む光にハンカチを照らしてみせると、刺繍糸が煌いた。


「まあ……!」

「チェレスタ侯爵は目を奪う華やかな刺繍よりも、ワンポイントのような控えめな刺繍がお好きだとお聞きしましたので、さりげなくを追求した結果、このような形にしてみました。いかがでしょう?」

「素晴らしいですわ、期待以上! きっとお父様も喜んでくださるに違いありません! よくやってくれました!!」

 テレーゼ様は大興奮して私の背中を叩いた。


「ふふ……これであの宝石は私のもの……」

 あ、さてはテレーゼ様、ハンカチでご機嫌を取って宝石をねだるつもりなんですね? 


「ところで、お二人ともにお話ししておきたいことがあるのですが。ラディアス様に捧げる刺繍に集中したいと思いますので、今度はどのようなご依頼も引き受けかねます。勝手で申し訳ございませんが、ご了承ください」

 私はぺこりと頭を下げた。

 刺繍魔法が扱えると知った日から、私は暇さえあれば針を握り、魔法陣を描く練習を重ねている。

 他のことに意識や時間を割く余裕はなくなってしまった。


「そうか、わかった。これまで私の頼み事を快く引き受けてくれてありがとう」

「わたくしも感謝しておりますわ。それにしても……ラディアス様へ捧ぐ刺繍、ですか。これからはそちらに集中したい、と」

 テレーゼ様は意味ありげに笑って、ラディアス様を見た。


「愛されておりますのねえ?」

「まあな」

 ……なんでそこで平然と頷けるんですか、ラディアス様?

 そのとき、近づいてくる足音が聞こえた。


「ああ、ここにいた。四人とも、そろそろ会議を始めるよ。第一会議室に集まって」

 扉から、セルジュ様がひょこっと顔を出した。

 今週末に控えた『星を見る会』についての会議をするらしい。セルジュ様が生徒会長に就任して初となる生徒会主催イベントだ。間違っても失敗することのないように、気合を入れて臨まなければ。


「セルジュ様! はい、ただいまあなたのテレーゼが参ります♡」

 テレーゼ様は頬を朱に染めて、足早に部屋を出た。

 そのままセルジュ様と談笑しながら去っていく。


「……いまの、『あなたのテレーゼが』の部分は必要なかったと思うのだが?」

 レイモンド様が呆れたように呟いた。


「兄上に恋する気持ちがそのまま言葉に出てしまったのだろう。テレーゼは二年前、入学した初日に兄上に一目惚れし、それから毎日熱心に追いかけ回しているらしい。さすがに初対面で求婚されたのは初めてで驚いたと兄上が言っていた」

「初対面で求婚されたんですか。さすがはテレーゼ様です」

 私はくすくす笑って、二人と一緒に会議室へと向かった。

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