表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋人『役』の刺繍令嬢ですが、気づけば王子の最愛になっていました  作者: 星名柚花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/33

02:ベル姉様と一緒に合格しました

 三日後からは厳しい令嬢教育が始まった。

 マナーを叩き込まれる傍らで、歴史や外国語の勉強。

 ダンスや歌や楽器、美しい文字を書く練習などもしなくてはならなかった。

 何度も挫けそうになったけれど、ベロニカ様が優しく励まし、予習復習に付き合ってくれたおかげで頑張れた。


 いつも無表情で、一見怖そうなダフネ様も、蓋を開けてみれば優しかった。


 恐れていた『継子いじめ』は何もなく、使用人たちもベロニカ様と同等の扱いをしてくれた。


 屋敷で暮らし始めてひと月が経った昼下がり、私はダフネ様に謝罪した。

 ベロニカ様は万事において呑み込みが早いのに、私は出来が悪くて申し訳ございません、と。


「何も恥じることはありません。ユミナは淑女教育を受け始めてまだひと月。何年も前からレッスンを始めていたベルとは差があって当然です。高貴な振る舞いは一朝一夕で身につくものではありません。ユミナが寝る間も惜しんで努力していることは知っています。その調子で引き続き励みなさい。ただし、頑張りすぎて身体を壊さぬように」


 予想外の、労りの言葉。

 何も言えずにいると、ダフネ様は持っていた書類を机に置いた。


「親の贔屓目を抜きにしても、ベルは優秀な子です。しかし、劣等感を覚える必要はありません。ユミナには裁縫という素晴らしい特技があるでしょう。ユミナが刺繍したハンカチを見て、針子たちも驚いていましたよ。その……」

 珍しくダフネ様が口ごもった。


「?」

 内心で首を傾げていると、ダフネ様は言いづらそうな顔で続けた。


「……名実ともに、というわけにはいきませんが。それでも、書類上では母子となったわけですから。いつか……気が向いたときにでも、私のハンカチに刺繍をしてくれたら……嬉しい、です」

 ダフネ様の顔はほんのり赤い。

 さらに、ダフネ様は机に肘をつき、俯いて眉間を揉んだ。照れ隠しのように。


 ……もしかして。

 この一か月、私が距離を詰めても良いのかどうか悩み、迷っていたように。

 ダフネ様もまた、迷っていたのかもしれない。


「……では、午後のレッスンが終わった後に図案集を持ってまいります。どの図案が良いか決まったら教えてください、お母様」

 私は頬を緩め、思い切って「お母様」と呼んでみた。


 すると、ダフネ様は挙動不審になった。

 目があちこち泳いでいるのは、動揺の証拠だ。

 ダフネ様はくすくす笑っている使用人たちを赤い顔で睨みつけて黙らせ、それから咳払いを一つ。


「わかりました。……楽しみにしています」

「はい。私も楽しみにしています」

 私は満面の笑みで言った。



 月日は流れ、三年後。

 私とベル姉様は難関で知られる王立ダルモニア魔法学園の入学試験に挑み、二人揃って合格を果たした。

 出立を明日に控えた夜、私たちはいつもより豪華な食卓を囲んだ。

 お母様は質素倹約を心がけているため、普段の食事内容は庶民のそれと大差ないのだ。


「よく期待に応えてくれました、ベル、ユミナ。あなたたちは私の誇りです」

 お母様の口角がほんのわずかに上がった。

 私はベル姉様と顔を見合わせ、こっそり笑った。

 頑張って良かったね、と目で言い合いながら。


「ダルモニア魔法学園は大陸最高峰の学び舎。卒業した者は各国の政治の中枢を担い、社交界の寵児となる――そう称えられるほどの名門です。婚約者のいないあなたたちにとっては、大変貴重な出会いの場となるでしょう。一昨年は第三王子セルジュ殿下がご入学されましたが、今年は第四王子ラディアス殿下がご入学されるはずです。くれぐれも失礼のないように」

 お母様は指で眼鏡の縁を押し上げた。

 蝋燭の明かりに反射して、眼鏡のレンズがきらりと輝く。


「両殿下をはじめ、学園ではたくさんの見目麗しい殿方と出会うでしょう。しかし、間違ってもあなたたちのお父様のような、顔だけのロクデナ……こほんっ。いいですか。どれだけお相手の見目が美しかろうと、簡単に騙されてはなりません。人間、見目も大事ではありますが、何よりも大事なのは中身です。在学中に様々な紳士淑女と交流し、人を見る目を磨きなさい。そうして自分を誠実に愛し、寄り添ってくれるただ一人のお相手を見つけなさい。母として、可愛い娘たちには不安や苦労のない人生を歩んでほしいのです。わかりますね?」

「はい、お母様」

 私は真顔で頷いた。


「大丈夫ですわ、お母様。私はお母様の苦労をすぐ傍で見てまいりました。口先だけの甘い言葉や見目だけでお相手を判断することはありません。私の夫となるお方は、いずれお母様の後を継ぎ、リース男爵となるお方。お母様が一代で発展させた領地を潰すことのないよう、心身共に立派な殿方のお心を射止めてみせます!」

 ベル姉様は力強く宣言。


「よろしい。それでこそ私の娘です。二人とも、くれぐれも身体には気を付けるように。成長したあなたたちと再び会える日を楽しみにしています」

 私とベル姉様の顔を見て、お母様は柔らかく微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ