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恋人『役』の刺繍令嬢ですが、気づけば王子の最愛になっていました  作者: 星名柚花


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18/44

18:薬草茶は臭くて不味い

 事前に忠告されてはいたものの、薬草茶は本当に美味しくなかった。


「………………」

 週末の放課後。

 私は蒼星館の煌びやかなサロンのソファに座り、ティーカップを持ったまま固まっていた。

 緑色の液体が入ったティーカップからは、青臭いような、鼻孔を刺激するような……なんとも独特な匂いがする。

 匂いはまだ耐えられるとして、問題は味だ。物凄く苦い!


「匂いも味も強烈でしょう。だから私は必要なとき以外は飲まないようにしている。王族わたしたちの中でも、好んでイルセリ茶を飲むのはオーウェル兄上だけだよ」

 テーブルを挟んだ向かいのソファで、セルジュ様は苦笑している。

 学園では『薬草茶』と濁されてきたけれど、この薬草茶はイルセリ茶という名前らしい。


「オーウェル兄上は味音痴ですからね」

 廊下のほうから、ラディアス様の声が聞こえた。


「!!」

 私は反射的にサロンの扉を見た。

 サロンにいるのは私とセルジュ様の二人だけ。

 健全な関係だと示すため半分開いたままにしておいた扉から、ラディアス様が入室してきた。

 ラディアス様は襟元に刺繍が入ったシャツに黒の脚衣という部屋着姿。

 私服姿を見たのは初めてで、新鮮だった。


「ラディ」

 セルジュ様は驚きと喜びが同居したような顔で弟の愛称を呼んだ。


「お身体は大丈夫なのですか?」

 ラディアス様は昼に早退されたため、心配していたのだ。


「ああ。例によってロザリアが治癒してくれた。熱も引いたし、もう平気だ」

 ラディアス様はセルジュ様の隣に座った。


  ――あら?

 ラディアス様が屈んだ拍子に、シャツの下の首元で何かがきらりと輝いた。

 どうやら首飾りをつけているらしい――と思った次の瞬間、ラディアス様は右手で首元を隠した。あまり見られたくないものらしいと察して、視線を外す。


「ユミナはイルセリ茶を飲んでるんだな」

「はい。魔力不足で刺繍魔法が使えない私のために、セルジュ様が特別に出してくれたのです」

「ラディには間違っても飲ませられないからね。代わりに、私と同じ紅茶を飲もう。良い茶葉が手に入ったんだ」

 セルジュ様は伏せてあったティーカップを手に取り、紅茶を注いだ。

 さらに砂糖を二杯入れて混ぜ、はいどうぞとラディアス様に渡す。


「ありがとうございます。さすがは兄上。おれ好みの味です」

 ラディアス様は紅茶を一口飲んで微笑んだ。

 王室御用達のお茶となれば、それはそれは美味しいのだろう。羨ましい。


「不味くてとても飲めないんだろう。諦めて紅茶を飲むか?」

 私の視線に気づいたらしく、ラディアス様が苦笑した。


「いえ。せっかくセルジュ様が出してくださったというのに、残すなんてありえません。そんな無礼な真似をしては、リース男爵家の名が廃ります。それでは、いざ、心して――いただきますっ!!」

 私はティーカップを傾け、一気に飲み干した。

 マナー違反だけど、許してほしい。

 本当に苦いのよこのイルセリ茶!!

 身体が拒否反応を起こすレベルなの!!


「……~~っ。ご馳走さまでした」

 私はティーカップをソーサーに置いた。全身に鳥肌が立っている。いくら魔力を高めるためとはいえ、第二王子オーウェル殿下は、よくこんな不味いものを飲めるわ……尊敬する。


「これで、少しは魔力量が増えたんでしょうか? 実感はないんですが……」

 私は自分の両手を見下ろした。外見的な変化は特にない。まあ、わかりやすく発光したりしたらそれはそれで怖いけれど。


「試しに、光を生み出す魔法でも使ってみたらどうかな?」

 セルジュ様の提案に乗って、私は唱えてみた。


「リート(光よ)」

 上向きにした手のひらの先に、1センチくらいの光の玉が生まれた。


「すごい! すんなり出ました! しかも、この大きさは新記録です!」

「……魔力5くらいでしょうか?」

「恐らくね。10はなさそうだ」

 大興奮する私に対して、ラディアス様たちは冷静だった。


「一時的にでも、倍増したのは確かだな。おめでとう」

「残念ながら、刺繍魔法は使えないだろうけどね。刺繍魔法を使うには、本人の素質に加えて魔力数値が20は必要らしい。20あっても、初級魔法程度の効果しかない魔法陣しか刺せない。それだけ刺繍魔法は難しいんだ」

「……最低でも20、ですか……イルセリ茶を飲み続ければ到達できますか?」

 私は未練たらしく、セルジュ様を見つめた。


「そうだね。毎日欠かさず飲めば、少しずつ魔力量も増えて、二十年後くらいには到達できるかもしれない。でも、イルセリ茶に使う薬草――特に主成分となる『イルセリ』という薬草は、王宮の薬草園で厳重に管理されているほど高価で貴重なものなんだ。私の分を時折分けてあげることはできても、毎日というわけにはいかない」

 なるほど、セルジュ様が学園ではイルセリ茶の名前を出さなかった理由がわかった。蒼星館に貴重な薬草があると知ったら、盗みを働く不届きものがいるかもしれないものね。


「そうですか……わかりました。それほど貴重なイルセリ茶を振る舞っていただいて、本当にありがとうございました」

 悲しいけど、魔力が2で生まれた自分自身が悪いのだ。仕方ない。


 それに、刺繍魔法を使うには本人の素質も必要らしい。王族の中でもセルジュ様しか回復魔法が使えないように、いくら魔力が高くても刺繍魔法が使えなかった可能性があるのだ。

 ――たとえ魔力があったとしても、私には素質がなかった。

 そう思って、潔く諦めることにしよう……。

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