17:双華の館には裁縫室がある
『双華の館』は生徒会の活動拠点であると同時に、優秀な生徒たちの活動を支援するための学術館でもある。
館内には執務室や会議室のほか、アトリエや音楽室、魔法研究室。
そして、二階の一室には裁縫室があった。
「……すごい……!」
天井まで届く高い棚には、色とりどりの糸と布が美しく並んでいる。
吸い寄せられるように近づいて、棚の引き出しを開けてみた。
大小さまざまな針に、指ぬき。裁ちばさみまで揃っている。
どれも質の良さが一目でわかる。
特にこの裁ちばさみは、よく切れそうだとワクワクした。
裁縫用のテーブルには鏡が置かれているけれど、部屋には立派な姿見もある。
大きな窓から差し込む陽光を浴びて、壁際に並ぶトルソーたちがキラキラと輝いて見えた。
「なんてことでしょう。ここは私のような裁縫好きにとっては楽園です!」
座って作業できるように椅子やソファもあるし、刺繍用の図案集だってある。最高だ!
「本当にここを自由に使っても良いんですか?」
心行くまで見回ってから、私は館内の案内をしてくださったセルジュ様に近づいた。
「もちろんだとも。他の生徒会メンバー同様、自由に出入りしてくれて構わない。テレーゼたちも言っていたよ。ハンカチのお礼だと」
歓迎会を開いてもらった後、私は生徒会メンバー全員に刺繍入りのハンカチをプレゼントした。
ハンカチは好評だった。
特にレイモンド様は私の腕前を気に入ったらしく、クッションカバーに刺繍をしてくれとコッソリ頼まれた。
クールな堅物に見えて、レイモンド様はお気に入りのクッションを抱いていないと眠れないそうだ。実は可愛い小物も好きらしい。
私は微笑ましさを覚えつつ、もちろん即座に快諾した。
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて、生徒会活動のない日はこの部屋で裁縫に没頭させていただきますね。もしも私に作ってほしいものなどありましたら、遠慮なくお申し付けください」
ニコニコしている私を見て、セルジュ様は何か考えるような顔をした。
「セルジュ様? どうされましたか?」
「いや。ユミナにはセンスと素質がありそうだから、試しに刺繍魔法を勧めてみたいと思ったんだ。刺繍魔法とは何か知っているだろうか?」
「はい、図書室の本を見て知りました。『魔糸紡ぎ』と呼ばれる一族が紡いだ特別な糸に自分の魔力を込めて、魔法陣を刺繍する特殊技法ですよね。でも、私、魔力が2しかないので。刺繍の途中で魔力不足に陥り、どうしても糸が切れてしまうのです……」
しゅん、と項垂れる。
新しい糸で続きの刺繍をしても、魔法の効果は発動しなかった。
魔法の効果を正しく得るためには、途中で糸が切れてはダメなのだ。
「そうか。技量ではなく、魔力が足りないか……では、王族ならではの力技に頼ることにしようか」
「力技?」
はて、なんのことだろう?
「実はね。悪用を防ぐために王族と一部の人間しか知らないことなのだけれど、世の中には『魔力を増幅させる薬草茶』というものがあるんだよ」
「えっ!?」
――そんなイカサマみたいな効果を持つお茶があるんですか!?
セルジュ様はすかさず、自分の唇の前で人差し指を立てた。
あ、そうだ、極秘事項だった。どんなにビックリしても叫んじゃダメですね、はい。
「ラディの恋人役を引き受けてくれたお礼に振る舞ってあげるよ。ただし、美味しくはないから覚悟してほしい」




