16:ユミナ、生徒会へ行く
翌週の放課後。
私は中央庭園の奥に聳える、赤と白の薔薇に囲まれた古雅な館の前に立っていた。
ここは双華の館。
生徒会関係者だけが入れる、学園で最も格式高い館だ。
多くの生徒がそうであるように、私もまた、この館を遠くから眺めるだけの存在だった。今日までは。
――本当に、これで開くのかしら?
私の左手首にはラディアス様から貰った腕輪が嵌まっている。表面に魔法陣が刻まれた腕輪だ。
私はドキドキしながら左手を伸ばし、真鍮製のドアノブを掴んだ。
すると、腕輪に刻まれた魔法陣と扉の魔法陣が共鳴するように淡く光り、抵抗なく扉が開いた。
「……どういう仕組みなのかしら」
不思議に思いながら足を踏み入れ――私はすぐに目を見開いて固まった。
「ようこそ、生徒会へ!」
シャンデリアが輝く玄関ホールに、生徒会メンバーが勢揃いしていた。
メンバーの中央にいるのはセルジュ様だ。
セルジュ様の左隣にはラディアス様が立っている。
そして、セルジュ様の右隣には――なんと、テレーゼ様がいた。
――テレーゼ様、生徒会役員になられたのね!
「よく来てくれたね、ユミナ。私は今期の生徒会長に任命されたんだ。改めて、よろしく頼むよ」
驚きのあまり突っ立っている私に歩み寄り、セルジュ様はとびきりの微笑みを浮かべた。
「副会長を務めることになりました、テレーゼ・チェレスタですわ。よろしくお願いいたしますわね」
セルジュ様の隣で、テレーゼ様はニッコリ笑った。
彼女が誇らしげに笑うのも当然だろう。この学園に通う生徒の中で、生徒会に入りたいと望まぬ者はいない。会長に次ぐ地位を得るには、並々ならぬ努力が必要だったはず。
――もしも生徒会入りを目指した動機がセルジュ様なのだとしたら、彼女の愛は本物だわ。
「ローバス公爵家の次男、レイモンドだ。書記を務めることになった。よろしく頼む」
燃えるような赤髪のレイモンド様は、右手で眼鏡をくいっと押し上げた。
――ローバス公爵家ということは、宰相閣下の御子息!!
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。リース男爵家の次女、ユミナと申します」
緊張して、応じる声が震えた。
レイモンド様に続いて、他の生徒会メンバーも丁寧に挨拶してくれた。
それから私はセルジュ様に導かれるまま一階のサロンへ行き、お茶を飲んだ。
一時間ほど経ってお開きとなり、全員が外に出て歩き始めたタイミングで、私はセルジュ様に近づいた。
「セルジュ様。本日は私のために歓迎会を開いていただき、本当にありがとうございました。しかし、皆様の貴重なお時間を頂いて良かったのでしょうか? 私はラディアス様のただの補佐役ですのに……」
「おや。ユミナは発起人が私だと勘違いしているようだね」
セルジュ様は微笑みを浮かべて、少し先を歩くラディアス様の背中を見つめた。
斜め後ろから見るラディアス様の顔は、足元で咲き誇る花々に負けないくらいに美しい。
「……え。まさか、ラディアス様が?」
「そうだよ。ユミナは正式な生徒会メンバーではないけれど、皆と同じように歓迎してくれとラディに頼まれたんだ。可愛い弟に頼まれたら嫌とは言えないよね。テレーゼたちも、快く承諾してくれたよ」
「そうだったんですね……」
ラディアス様の心遣いに、胸がじんと熱くなる。
それを是としてくれたセルジュ様たちにも、感謝の気持ちでいっぱいだ。
「すみません。私、ラディアス様と少しお話してきます」
「ああ。行っておいで」
私はセルジュ様に軽く頭を下げてから、早足でラディアス様に追いついた。
「ラディアス様。今日は私のために歓迎会を開いてくださって、ありがとうございました」
「礼なら兄上に言え。おれは部屋の飾りつけを手伝っただけだ」
「セルジュ様には、ラディアス様にお礼を言うよう言われたのですか?」
私が笑うと、ラディアス様は無言で顔をしかめた。
「だいぶ前から思っていたのですが、ラディアス様は天邪鬼ですよね。ひねくれている、といいますか」
「うるさい」
ぷいっと、ラディアス様はそっぽ向いた。
その様子がおかしくて、私はくすくす笑った。
「ありがとうございます、ラディアス様。皆様が歓迎してくださっているとわかって、安心できました」
「不安は消えたか?」
「はい。おかげさまで」
「それなら良かった」
ラディアス様の表情が和らいだ。
ひねくれているけれど、やっぱりラディアス様は優しい人だと思う。
「何かお礼をしなければいけませんね。私にしてほしいことがあれば遠慮なく仰ってください。可能な限り、期待にお応えします」
「そうだな……。ユミナは星を見るのが好きか?」
「? そうですね。毎晩欠かさず観測するほどの情熱はありませんが、ときどき星空や月を見て、綺麗だなと思うことはあります」
「そうか。兄上は二週間後、流星群が見られる日に合わせて『星を見る会』を開くつもりらしい」
「さすがはセルジュ様。『星を見る会』なんて、ロマンチックで素敵です。もちろん全力でお手伝いしますよ!」
ぐっと拳を握ると、ラディアス様はなんだか微妙な顔をした。
あれ? 参加希望者の数を集計したり、当日の会場設営を手伝ってほしいという話ではないのだろうか?
「手伝ってほしいのは確かだが……参加もしてほしい。おれの恋人役として」
「なるほど。多くの方々が集まるであろうイベントで熱愛っぷりをアピールし、ラディアス様に想いを寄せるご令嬢たちの心をへし折る――そんな作戦ですね?」
納得して頷く。
「でも、いいんですか? 公的な場で私と恋人アピールをしてしまったら、もう引き返せません。少なくとも、当面の間は恋人を作れなくなります。その覚悟はおありなんですね?」
「ああ」
「わかりました。不肖フミナ・リース、立派な虫よけバリアーになれるように頑張りますっ!」
肘を折り曲げ、軍人のようにビシッと敬礼する。
すると、ラディアス様は口元に手をやり、顔を背けて肩を震わせた。
「……本当、そういうところが……」
「え? いまなんと?」
「いや。何でもない」
「?」
私は首を傾げるしかなく。




