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恋人『役』の刺繍令嬢ですが、気づけば王子の最愛になっていました  作者: 星名柚花


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14:ロザリアという聖女様

 翌週。

 休み明けの今日は、ラディアス様が登校されたときから嫌な予感がしていた。

 元気そうに振る舞っていても、顔色が青白かったのだ。

 本格的に体調が悪化したらしく、ラディアス様は二時間目の授業終了後にふらつきながら席を立った。私は彼に付き添って医務室に行き、常駐している魔法医にラディアス様を託した。


 四時間目の授業が終わり、昼休みになった。

 私はすぐに教室を飛び出した。廊下は走ってはいけない。でも、ルールや淑女としての正しい振る舞いなど頭から吹き飛ぶくらいに、ラディアス様のことが心配で堪らなかった。


「失礼しますっ! ラディアス様の、容態はっ、……いかがでしょうか」

 医務室の扉を勢いよく開け放ち、息を切らしながら尋ねる。

 椅子に座って書類仕事をしていた魔法医は、驚いたような顔で私を見た。


「何事かと思ったら、君か。大丈夫だよ。聖女様が来てくださったからな」

「ロザリア様が……」

「ああ。授業を休んでずっと、ラディアス殿下に付き添ってくださっているんだ。君はラディアス殿下の恋人なんだろう。一言お礼を言ったほうがいいんじゃないか?」

「はい。そうします」

 足音を立てないよう、静かにベッドが並ぶ区画へと移動する。

 可憐な美少女が椅子に座り、ベッドに横たわるラディアス様の手を握っていた。

 窓から差し込む光を受けて輝くプラチナブロンドの髪に、大きな雨粒のような水色の瞳。


 彼女を花で例えるなら楚々と咲く白百合だ。思わず見惚れてしまう。

 ベッドで眠る美しい王子と、その隣で健気に看病する美しい娘――まるで物語の絵画のようだった。


「あら。あなたは……」

 立ち尽くしていると、ロザリア様がこちらを向いた。


「初めまして、ロザリア様。リース男爵家の娘、ユミナと申します」

 視線を向けられたことで我に返り、慌てて頭を下げる。


「ああ、あなたがラディアス殿下の……失礼。お噂はかねがね伺っております。初めまして、ユミナ様。ロザリア・バローネでございます。以後お見知りおきを」

 ロザリア様は握っていたラディアス様の手をそっと離し、わざわざ立ち上がって頭を下げた。

 一つ年下の男爵家の娘に敬意を払ってくれているのは、ラディアス様の恋人という偽の肩書きのせいだろう。騙している罪悪感で胸がしくりと痛む。


「殿下の熱は下がりました。しかし、やはり今日は早退されたほうがよろしいでしょう」

 気づかわしげな眼差しでラディアス様を見つめながら、ロザリア様は再び椅子に座った。


「無事に目を覚まされたら、帰るよう進言します。私が責任をもって付き添いますのでご安心ください。殿下とはもう十年の付き合いになりますから、お身体のことはよくわかっています」

 その発言で、確信した。


「……ロザリア様は、ラディアス様が『魔力過多症』であることをご存じなのですね」

 思い切って距離を詰め、魔法医に聞こえないように小声で言うと、ロザリア様は目を丸くした。


「どうしてそれを。極秘事項ですのに……殿下から直接聞かれたのですか?」

「いえ、セルジュ殿下からお聞きしました」


 ――ラディは『魔力過多症』という稀有な病気にかかっている。あまりにも強すぎる魔力が毒となり、心身を蝕むんだ。ラディは赤子の頃から魔力暴走の症状に苦しんでいた。何をしても抑えきれず、高名な医師も薬師もさじを投げた。恐ろしいことに、死を与える話も出たのだよ。もしもラディが自我を失って暴走すれば、王都は地図から消える。その前に、終わらせるべきだと――


 セルジュ殿下の話を思い出して、唇を噛む。


 国王様がロザリア様を聖女として召し抱えているのは、綱渡り状態で生きているラディアス様を支えてもらうためだ。


 いや、もちろん、『未来視』という特異な力が国の役に立つからでもあるけれど。

 一年前も、ロザリア様が国の北西部に流れる川の氾濫を予言したから、最小限の被害で済んだというし。


「……。そうですか。セルジュ殿下は弟想いでいらっしゃるから、恋人であるユミナ様には事情を話したほうが良いと思われたのでしょうね……」

 ロザリア様は長い睫毛を伏せて沈黙した後、気を取り直したように顔を上げて微笑んだ。


「でも、ご存知ならば話は早いですわね。私が王宮暮らしを許されているのは、ほとんどラディアス殿下のためですから。もしも再び症状が悪化しても、私が必ず殿下を救い上げてみせます。お任せください」

「はい。どうか、ラディアス様をお願いします」

「もちろんです。それが私の使命ですから」

 頭を下げた私に、ロザリア様は頼もしい返事をくれた。

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