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恋人『役』の刺繍令嬢ですが、気づけば王子の最愛になっていました  作者: 星名柚花


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13/40

13:頬へのキスは挨拶です?

「お前たちはおれのファンだと言う。なら、おれの魔力が『先祖返り』と言われるほど高いことは知っているだろう? ファンサービスを込めて、力の一端を見せてやるよ――サンドラ(雷よ)」

 ラディアス様が呪文を唱えた直後。

 金色に輝く稲妻が蒼天を引き裂き、凄まじい轟音とともに大地を打った。


「ひぃっ!?」

「きゃあっ!?」

 女子生徒たちが頭を抱えて背中を丸める。

 中には腰が抜けたらしく、へたり込む者もいた。


「…………」

 私は、ただただ呆然と立ち尽くすしかない。

『サンドラ』は初歩の雷魔法だ。触れたらビリッとする程度の魔法。

 なのに、ラディアス様の放った『サンドラ』は上級魔法に匹敵する威力があった。

 初級魔法でこれって……ラディアス様が本気になったら、国が消滅してしまうのでは……?


「なっ、なんですのっ!? 雷!? 晴天なのに!?」

「天変地異か!?」

「馬鹿を言うな、魔法に決まっているだろう! しかし、これだけの魔法……一体誰の仕業だ!?」

 視界の外にいた生徒たちが大騒ぎしながら集まってくる。

 どれだけ人が集まってこようとも徹底的に無視して、ラディアス様は女子生徒たちを睨み続けた。


「ユミナに手を出すということは、おれに喧嘩も売るも同義だ。当然、相応の覚悟はあるんだろう? さあ、最初に電撃を浴びたい奴は誰だ? 言え。望み通り、黒焦げにしてやるよ」

 女子生徒たちは無言で震えている。あまりの恐怖に泣き出す者まで現れた。


「待ってください」

 さすがに可哀想になり、私はラディアス様の腕を掴んで引いた。


「ラディアス様、もう十分です。これ以上脅されずとも、彼女たちはもう二度と私に近づかないと思います。皆様、そうですよね?」

 同意を求めて女子生徒たちを見ると、ゾーラ様を除く四人が頷いた。

 ゾーラ様はただ一人、私を悔しそうな顔で睨んでいる。涙目になりながらも。


「……私は納得できません。ロザリア様ならばお似合いだと諦めることもできましたのに、何故そんなぽっと出の小娘を選ぶのですか! 一体その娘のどこが良いんですか!?」

「お前の感情など知ったことか。おれの恋人はおれが決める、当たり前のことだろうが。他人に口を出す権利はないんだよ。ユミナの魅力はおれだけが知っていればいい」

 ラディアス様は私の肩を掴んで引き寄せ、ちゅ、と。

 女子生徒たちと、集まったその他大勢のギャラリーに見せつけるように、私の頬に口づけした。


「……っ!!」

 ギャラリーの驚きの声に重なって、声にならない女子生徒たちの悲鳴が聞こえる。

 とはいえ、声に出さずに悲鳴を上げているのは私も一緒だった。

 い、いま、口付けされた!! 頬に口づけされたよ!?


「二度とユミナに近づくな。次は警告では済ませない。わかったら、とっとと消えろ」

 私の肩を抱いたまま、ラディアス様は低い声で言った。


「はい……」

「殿下の愛は十分に伝わりましたわ……潔く諦めます……」

「お幸せに……」

 女子生徒たちは肩を落とし、すごすごと退散。

 戦意喪失した者がほとんどのようだったけれど、ゾーラ様だけは去り際に私をひと睨みしていった。

 

「……あの女。まだ何かやりそうだな」

 ラディアス様は美しい顔を歪めた。


「これだけ脅しても聞く気がないか。相当な執念だな。後で強めに釘を刺しておく。何があってもおれが守るから心配するな」

 肩を叩かれた。


「アリガトウゴザイマス……」

「どうした?」

 カチンコチンに固まっている私を見て、ラディアス様は首を傾げた。


「ど、どうしたって……さっき、頬に……キ、キスをっ……」

 ああ、口に出すだけでも照れてしまう。

 何故ラディアス様はそんなに平然としていられるの!?


「? 唇ならともかく、頬へのキスなら問題ないだろう。隣国のレセドニーでは挨拶みたいなものだ。親子や友人同士でもする」

「ここはレセドニーではなくダルモニアですっ!」

 両手を握り締め、真っ赤になって抗議する。

 その様子がおかしかったらしく、ラディアス様は声を上げて笑い、そのまま歩き出した。


「……もう」

『恋人役』を始めて一週間が経つけれど、どうもラディアス様は私をからかって楽しんでいる節がある。

 彼の後を追いかけつつ、私はちらりと振り返ってギャラリーの数を確認してみた。

 ざっと十人くらいか。

 今度は「ラディアス様が恋人に手を出されそうになり、怒って雷を落とした」っていう噂が学園中を駆け巡ることになるんだろうな。

 でも、好奇の視線や質問攻めには慣れた。いまさらどうということもない。

 ベル姉様にも言った通り、私は逞しいのだ。

 教室に向かいながら談笑していると、ラディアス様が話題を変えた。


「ユミナは生徒会に興味があるか?」

「生徒会、ですか?」

 所属すること自体が強力なステータスとなる生徒会に入るには、トップクラスの成績はもちろん、それなりの家柄でなければならないと聞いている。

 ダルモニア魔法学園の長い歴史の中で、平民が生徒会メンバー入りしたことはないらしい。

 たとえ他のメンバーや先生方がメンバー入りを承認したとしても、やっぱり平民が自分の上に立つことを快く思わない貴族はいるからね。悲しいことに。


「ああ。おれは王族だからな。生徒会に入るのは決定事項のようなものだ。だが、体調を崩したときに備えてユミナを補佐役にしたいと思っている。いまの生徒会メンバーはいずれも地位と名誉が確立された名家の子女だ。リース男爵家のためにも、いまのうちからコネを築いておくにこしたことはないと思うが」

「是非!! 補佐させていただきたいです!!」

『家のため』の一言で、私の心は決まった。

 と――そこで、はたと気づく。


「……でも私、他の科目は満点に近くても、魔法実技は赤点ギリギリなんですが。大丈夫でしょうか?」

「そこはおれに任せろ。王子だから」

「なんと頼もしいお言葉っ!」

 ラディアス様が王子であることに、いまこのときほど感謝したことはなかった。

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