12:想定通りのトラブル発生
一週間後の昼休み。
中庭に面した一階の渡り廊下を歩いていると、いきなり誰かに腕をつかまれた。
「!?」
声を上げる暇もなく口を塞がれ、物陰に引きずり込まれる。
そこに立っていたのは、五人の女子生徒。
顔ぶれを見ただけで、背筋がひやりとした。
全員、ラディアス様の熱心なファンとして有名な女子生徒たちだ。
中には私のクラスメイト、黒髪茶目の子爵令嬢ゾーラ・ロースターもいる。
ゾーラ様は親の仇を見るような目で私を睨んでいた。
「手荒な真似をしてごめんなさいね。少しお時間いただけるかしら。あなたに確認したいことがあるのよ、ユミナ・リース男爵令嬢」
腰に手を当てたのは、リーダー格らしき女子生徒。
派手めな化粧に、勝ち気そうなツリ目が印象的な美人だった。
「あなたがラディアス殿下の恋人になったという噂を聞いたの。あなたのクラスメイトのゾーラも、あなたと殿下は毎日教室で楽しそうにお喋りしていると証言しているわ。聞けば、魔法実習のときは当たり前のような顔で殿下とペアを組んだそうじゃない? 一体どういうことなのかしら? 殿下の親衛隊である私たちを差し置いて、抜け駆けしたというわけ?」
「……抜け駆けと言われましても……」
ラディアス様を遠くから見ていたのは確かだけれど、それ以外は特に何もした覚えはない。
むしろこっちは、恋人役を依頼された立場です――なんて言ったら、絶対怒るだろうな。
そもそも「恋人ではなく恋人『役』をしているだけなんです」と明かすことはできないし。
「一週間前、あなたが階段から落ちたテレーゼ嬢を助けたことは聞き及んでいるわ。気絶したあなたをセルジュ殿下が横抱きにして医務室に運ばれたこともね。でも、その流れで何故、セルジュ殿下ではなくラディアス殿下の恋人になるの? 偶然そのとき医務室におられたラディアス殿下と恋に落ちてしまったの? そんなことありえるのかしら? 全く理解できないわ」
ぐっと距離を詰められ、私は後ずさった。
背中が壁にぶつかる。これ以上は下がれない。
五人は半円を描くように私を取り囲んだ。
「ねえ、一体どんな手を使ったの? 後学のために教えてちょうだい。殿下があなたのような方に興味を持たれるとは思えないのだけれど……」
私を頭のてっぺんから足のつま先まで見て、ツリ目の女子生徒は侮蔑の笑みを浮かべた。
貧相な小娘だとでも思われているのかもしれない。
実際に、彼女のほうが遥かに美人だしね。
「愛されているのではなく、可哀想な境遇に同情されているだけではないの? 私、知っていますのよ。あなたは私たちとは違う。生粋の貴族ではない。色狂いで知られるリース男爵家の前当主がメイドに産ませた子なんでしょう?」
――この短時間で、よく調べたな!?
別の意味でショックを受けた。貴族令嬢の情報網って凄い。
「やっぱり、庶民上がりは高貴な者に取り入るのが得意なのかしら?」
「きっとそうよ。媚びる演技もお手のものなのだわ」
口々に浴びせられる皮肉と嘲笑。
「こんな小娘に騙されて、殿下もお可哀想に」
「早く目を覚まして差し上げなければ――」
「――ふざけるな。お前たちは何様のつもりだ?」
聞こえてきた声に、五人の女子生徒はビクッと肩を震わせた。
驚いていないのは、予め彼の登場を知っていた私だけだ。
「……嘘……」
一様に青ざめた女子生徒たちが見つめた先には、ラディアス様が立っている。
「もう一度言ってみろ。誰の目を覚ますつもりだと?」
ラディアス様は怒りを隠そうともしていない。
ピリピリと、周りの空気が帯電しているかのようだった。
「ラ、ラディアス殿下……何故ここに……?」
問いかけたリーダー格の女子生徒の頬はひきつっている。
「そろそろ暴走する馬鹿どもが出てくるだろうと思ってな。わざとユミナを一人にして歩かせた」
ラディアス様が近づいてくる。
怯えた女子生徒たちが退くと、ラディアス様は空いたスペースを通って私を庇うような位置に立ち、リーダー格の女子生徒を睨みつけた。




