表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/15

第6話-『無限鋭利』(スキャッタード)その②

 もう一人は、三年生と思われる雰囲気の大男で、尖角達に警告したのはそちらだった。


「彼を放せ。俺達の言う通りにしろ」


「言う通りにするとは、どういう意味だ」


「尖角、お前はやりすぎている。能力を喪失させる。そばに他のメンバーも控えている。もう逃げられないぞ」


「俺が今まで通り、アンタの想定の範囲内の人間だったら、その通りかもな。だが俺はもう、アンタの想定なんかとうに飛び越している」


 言い放った尖角の瞳の光が翳り、黒く深く沈んでいくのを高下は見た。そして尖角は左手を強く握ると、腕を思い切り引いた。その動作と同時に、高下の身体に異変が起きた。


 骨折ではない。だから折れるような音ではなかった。太い綱が千切れるような、そういう断裂音がした。


 ボトン、と床に何かが落ちて、高下の身体は大きく揺れた。重心が変わったためだったが、この時はまだ状況に気づけなかった。しかし痛みが訪れるより前に高下は見て、気づいた。自身の右腕が床に落ちている有様を。自分に何が起きたのかを。


「うわああああああああああああ!」


 絶叫が廊下に響く。


「おい尖角!本当にやるのは…」


「俺の知ったことじゃない。それより逃げるぞ」


 尖角は焦る久場を連れて素早く走り去って行った。それを見る余裕は高下には無かった。痛みよりも血の抜けていく感覚、命がどんどん削られていく感覚に押し潰されていた。


「なんてことを…!」


 空見が連れてきた大男が唸って高下のもとへ駆け付けた。自身のズボンからベルトを外して高下の傷口に強く巻きつける。


沙悟(さご)奈美奈(なみな)!先生を呼べ!それと救急だ!」


 そばで控えているらしい仲間に対して叫ぶと、大男も尖角が逃げていった方へ駆け出した。


大山寺(おおやまでら)先輩!」


「今の尖角は何をするか分からん!他の生徒が危険だ!彼は沙悟達に任せて追うぞ!」


 大山寺と空見が走り去り、高下は独りになった。痛みで記憶が途切れそうになりながらも、すぐに助けが来ることは聞こえた会話の流れで分かった。しかし混濁した意識で廊下に流れ落ちた血溜まりを見ていると、ここが自分の『終着』なのではないかと感じてきた。


「死にたくねえ…」


 寂しく呟く。誰にも聞こえない。


 聞こえないはずだった。


「大丈夫だ。君は死なない」


 どこからか現れた男が一人、近づいてくる。大山寺という大男が呼んだ人物か、と思ったが声に聞き覚えがあった。ぎこちない動きで顔を上げて見ると、そこにいたのは解之夢だった。


「久場という不良と戦った時の君には、強い活力と意気があった。その意志の強さは評価に値する。僕は君達には関わらないスタンスなのだが、しかし君を助けることとした」


 解之夢は高下の目の前に屈んだ。


「お前は尖角って奴らの一味じゃないのか…?」


「僕は違う。僕は君の味方でも敵でもない。だが今は眠るといい」


 心に入ってくるような静かな囁き声に促され、高下の気力は急に失われていく。思考は意識の底へ落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ