第6話-『無限鋭利』(スキャッタード)その②
もう一人は、三年生と思われる雰囲気の大男で、尖角達に警告したのはそちらだった。
「彼を放せ。俺達の言う通りにしろ」
「言う通りにするとは、どういう意味だ」
「尖角、お前はやりすぎている。能力を喪失させる。そばに他のメンバーも控えている。もう逃げられないぞ」
「俺が今まで通り、アンタの想定の範囲内の人間だったら、その通りかもな。だが俺はもう、アンタの想定なんかとうに飛び越している」
言い放った尖角の瞳の光が翳り、黒く深く沈んでいくのを高下は見た。そして尖角は左手を強く握ると、腕を思い切り引いた。その動作と同時に、高下の身体に異変が起きた。
骨折ではない。だから折れるような音ではなかった。太い綱が千切れるような、そういう断裂音がした。
ボトン、と床に何かが落ちて、高下の身体は大きく揺れた。重心が変わったためだったが、この時はまだ状況に気づけなかった。しかし痛みが訪れるより前に高下は見て、気づいた。自身の右腕が床に落ちている有様を。自分に何が起きたのかを。
「うわああああああああああああ!」
絶叫が廊下に響く。
「おい尖角!本当にやるのは…」
「俺の知ったことじゃない。それより逃げるぞ」
尖角は焦る久場を連れて素早く走り去って行った。それを見る余裕は高下には無かった。痛みよりも血の抜けていく感覚、命がどんどん削られていく感覚に押し潰されていた。
「なんてことを…!」
空見が連れてきた大男が唸って高下のもとへ駆け付けた。自身のズボンからベルトを外して高下の傷口に強く巻きつける。
「沙悟!奈美奈!先生を呼べ!それと救急だ!」
そばで控えているらしい仲間に対して叫ぶと、大男も尖角が逃げていった方へ駆け出した。
「大山寺先輩!」
「今の尖角は何をするか分からん!他の生徒が危険だ!彼は沙悟達に任せて追うぞ!」
大山寺と空見が走り去り、高下は独りになった。痛みで記憶が途切れそうになりながらも、すぐに助けが来ることは聞こえた会話の流れで分かった。しかし混濁した意識で廊下に流れ落ちた血溜まりを見ていると、ここが自分の『終着』なのではないかと感じてきた。
「死にたくねえ…」
寂しく呟く。誰にも聞こえない。
聞こえないはずだった。
「大丈夫だ。君は死なない」
どこからか現れた男が一人、近づいてくる。大山寺という大男が呼んだ人物か、と思ったが声に聞き覚えがあった。ぎこちない動きで顔を上げて見ると、そこにいたのは解之夢だった。
「久場という不良と戦った時の君には、強い活力と意気があった。その意志の強さは評価に値する。僕は君達には関わらないスタンスなのだが、しかし君を助けることとした」
解之夢は高下の目の前に屈んだ。
「お前は尖角って奴らの一味じゃないのか…?」
「僕は違う。僕は君の味方でも敵でもない。だが今は眠るといい」
心に入ってくるような静かな囁き声に促され、高下の気力は急に失われていく。思考は意識の底へ落ちていった。




