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第38話ー私が始末する

 高下達三人は三階の図工準備室に集まっていた。狭い部屋だったが左右には教室は無く、向かい側は図工室でこちらも放課後は人が居ない。何かあった時に周囲を巻き込まないために選んだ部屋だった。


 本間が持ち込んだ目録に高下が触れて、聞いたばかりの能力を説明すると、目録が更新された。


「よし、そして…」


 登録率のページをめくると、七十八・四パーセントの表記があった。


「いよいよ八十到達が見えてきましたね」


「これまでの増加数を見るに、あと二人登録すれば八十パーセントだな」


「もうすぐっすね!」


 高下は素直にはしゃぎ、空見も表向き冷静だったが表情や語気から興奮が漏れ出ていた。


「特にあては無いが、とにかく一日でも早く八十パーセントにさせたいな」


 具体的な計画は無い以上、明日も引き続き本間が観察を進めて、脈を見つけ次第高下と空見が調査するということで簡単な打ち合わせは終わった。


「よし帰ろうか」


 空見が言うと本間は目録を持って裏空間に入り、すぐに戻ってきた。目録の保管も完了して三人とも鞄を持って出入口に向かう。


 出入口の戸はいつの間にか僅かに開いており、その隙間から腕だけが入り込んできていた。開かれた手は高下達に向けられている。


 三人がそれが手であると認識した頃には、既に攻撃は開始していた。


 手から迸り出た炎が、火炎放射器による噴射の如く室内に飛び込んできた。


「うわっ!」


 高下が思わず叫ぶが、一気に高熱化した空気を肌に受けて、驚愕はすぐに戦慄に変わった。


「攻撃だ!」


 空見が叫ぶ。本間は机の陰にしゃがんで目をつぶった。炎は瞬く間に射程範囲内の机や椅子を焦がし、壁紙に引火した。


 高下は後退して噴射される炎から少しでも離れた。自分の能力では反撃する術が無かった。『素晴らしき善意』(カインドネス)には直接的な攻撃力は無く『致命拳』(ストライク)で攻撃しようにも猛火で敵に近づけない。何も出来ない。


 だから、空見に任せることにした。それは事前に決めた作戦通りだった。


 部屋の隅に置いておいた消火器を『素晴らしき善意』(カインドネス)で手元に移して、あらかじめ練習していた動きを淀みなく再現した。消火器のノズルを外し、ホースの先を火に向ける。トリガーを引くと噴射された消火剤が火の猛攻をかき消した。


 図工準備室にはもともと消火器は置かれていなかったが、敵の能力が火に関するものだと知っている以上、よそから持ち込んでおくのは当然の対策だった。


 炎を軽減されたのを隙間から見たのか、噴射する手が一瞬硬直した。それに合わせるように高下が叫ぶ。


「空見先輩!」


「おう!」


 空見が瞬時に呼応して、戸に向かって疾走した。『逆さまの空』(スカイハイ)で重力の方向を向かう方へと変えることで、まさに落ちるように急加速して突撃した。


 戸を突き破った空見の視界に、驚いて後ろに下がった葛西の姿が入った。


 そのまま減速せずに葛西の胸元に飛びつき、胸ぐらを掴んだ。突進し続けて向かい側の図工室に入る。図工室の扉を開けていたのは、この事態を想定してのことだった。


 全て作戦どおりだ。この後のことも想定どおり動けばいい。恐怖が無いわけではない。ただそれを上回る覚悟があった。


 戦う覚悟はとうにできている。


「お前は、私が始末する」


 空見が葛西に囁いた。小さな声だったが、何よりも力強い声色だった。葛西は恐怖した。ぶつかってきた空見は図工室に入っても一切減速しない。それが何を意味するのか、この時点で理解した。


 図工室の扉と、図工室のベランダに繋がるガラス戸は直線上になっていて、そのガラス戸も開いていた。一切の障害物無く、空見と葛西はベランダに躍り出た。


 そのタイミングで空見は跳んだ。『逆さまの空』(スカイハイ)で重力をゼロGにして、まさに飛ぶように跳んだ。葛西を掴んだままベランダの柵を容易に飛び越えて、空に飛び出した。


 長い滞空の後、ある地点に行き着いた時に空見は能力を解除した。本来あるべき重力が戻ってきて二人は真っ逆さまに落下する。


 空見は真下を見据えていた。葛西と心中する気などさらさら無い。全てはこの場所に行き着くための作戦だった。


 図工室のベランダから斜め下方の敷地には屋外プールがあった。初夏の季節、体育の授業で使用するため、プールには水が満杯に張られていた。


 空見と葛西は、そこへ勢いよく落ちた。

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