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第28話-正式メンバー

 空見は大きな唐揚げを頬張り、考えているのか宙を見つめながら黙って咀嚼する。飲み込んでから答えた。


「元気な奴ですね、とにかく」


「まぁそうだな。能力者として、あるいは自警会メンバーとしては?」


 空見はまたも考えているのか、飲み物を一口含んで、ゆっくり喉に流してから話した。


「優秀です。かなり優秀でしょう」


「能力の順位自体は高くはないんだが、高下君の備品も所持品だという考え方が、能力の汎用性を大いに底上げしているようだな」


「それを含めれば実質的には順位はもっと上でしょうね。そして今の彼には『致命拳』(ストライク)という能力も備わっている」


 我猛との戦闘の際に高下は『致命拳』(ストライク)を皆の前で使用した。戦闘後に詰め寄られた高下は経緯を話したが、右腕は解之夢二花から貸し出されたもので、だからこそ貸主の能力が使用できる、と言われてもそれは百戦錬磨の自警団メンバーでさえ度し難いことだった。


 それでも使える以上は納得するしかない。大山寺達の提案を受けて、その後に目録に登録する運びとなったが、しかし『致命拳』(ストライク)の内容を説明しても目録には登録されなかった。


「能力の全てを教えてもらっていないのかもしれないな。正しく全容を説明しないと登録されないからな」


 大山寺の分析に一同納得する以外なく『致命拳』(ストライク)の登録は保留となった。


「しかしあの我猛の能力を目録に登録できたのは大きな収穫だった」


 『致命拳』(ストライク)と違い、我猛の『柱』は何の支障も無く登録された。『柱』は総合二十一位。在校十一位だった。そして登録率は六十九・六パーセントとなった。


「七十パーセントは目前ですね。七十パーセント自体は昨年度も到達していましたが、これほど早くはなかった」


「色々な要素があってのことだが、俺の知ってる限り明らかに数字の伸びが良い。これはひょっとすると、ひょっとするかもな。今年は間に合わなくても来年には、お前が切望している百パーセントの到達に」


「そうですね。何より高下達の尽力あってでしょう。でも先輩が百パーセントに言及するなんてめずらしいですね」


「そうかな」


「だって基本的に登録率に興味無いじゃないですか」


 大山寺は苦笑する。


「毒があるね。無いことは無いさ。どれだけ我々が校内の能力を把握できているかというのは、シンプルに治安維持に繋がるからな。ただまぁ、報酬とかは俺は興味無いな。別に卒業をもって能力が消えても構わない。自警会という役目にとって必要な力であって、俺個人の人生に必要な力じゃないからな」


「それくらい無欲だからこそ、皆ついてきているんだと思います」


「お、珍しいな。褒めてくれるのは」


「たまには、です」


 春の残滓と夏の片鱗が混ざり合ったような、なんとも心地良い晴天の陽気だった。二人は少しの間黙って何を見るでもなくくつろいでいた。


「空見、お前は自らに高い目標を課す気高さみたいなものを持っている」


「何ですか突然」


「お前が百パーセントを狙うのも、報酬ではなくてそれ自体が目標なんだろう。やるならとことんやってみたい、そういう気持ちだろ」


「…目標や夢って探すというよりかは、降ってくるものだと思うんです。何も無かった私が突然能力者になって、先輩に呼ばれて自警会に入り目録を知った。その時に登録率というある種分かりやすい数値に突き動かされたんです。今の私にはこれくらいしか目標はありません。でもだからこそこれに全力を注ぎたい」


「目標はあった方がいい。何も無いよりはな。だが空見、抱くものが大きいほど、他のものは持てなくなるというものだ。お前が目録に気を注ぎすぎるあまり、他人との触れ合いがおざなりになっているんじゃないかと俺はそれが気がかりだ」


「そうかもしれませんが、自分が選んだ道です」


「上手く折り合いがつくといいんだがな。少なくとも自警会メンバーは大事にしろよ。お前の目標を知って理解することができるのは、アイツらだけなんだからな」


「これでも普段から信頼して、敬意も抱いているんですよ。皆のことは」


 ふてくされているような、照れているような顔をして話す空見を、大山寺は満面の笑みで見ていた。



 高下は懸命に働いていた。空見から新たな能力者の情報をもらって一緒に聞き込みに行くことを、我猛との闘いのあとも複数回行っていた。収穫無しで終わる時もあったが、この日は手柄だった。『非開示型』の一年生を高下が説き伏せて、能力の聴取に成功したのだった。


 高下と空見は達成感を味わいながら部室に戻る途中だった。


「ところでこの前、廊下で君を見かけたんだが、なんか我猛と喋ってなかったか」


「ああ、たまたますれ違ったんで駄弁ってたんですよ」


「駄弁る仲なのか」


「なんなら連絡先交換してますよ。見た目も性格も態度も怖いすけど、意外と良い人っすよ」


「なんというか、大した奴だな、君は」


 部室に戻り、空見が目録に触れる。


「記念すべき日なのに皆は来ないんすね」


「まぁここまでは去年も到達してるからね」


 空見が新たな能力の説明を終えた途端、目録自体が青白く発光して、その光線は周囲に放射された。


「うおおっ…!」


「これは新たな報酬を得た時の発光だ」


 発光は数秒で終わった。空見の登録率のページを開くと、登録率は七十・四パーセントと記されていた。とうとう七十台に突入したのだ。


「これで報酬獲得ってことすか。卒業後も能力を使用できるっていう」


高下は自身の身体を眺め回す。


「でもなんか実感無いっすね」


「そもそも君は対象じゃないからな。この報酬の対象は大山寺先輩と奈美奈先輩だ。君が同じように報酬を受け取るには、君の卒業年度で七十パーセントを超えなくちゃならない」


「なるほどー。でもこうサクサクいってるのは、やっぱり能力者の情報をもらってるところが大きいっすよ」


 これまでの調査はいずれも、事前に情報を提供してもらっていた。高下が空見と合流する頃には、空見は既に情報を渡されているのが常だった。情報は調査対象者の能力について、絶対確実ではないものの目撃した限りで知り得た内容のようだった。


「しかしどうやって調べてんすかね。そろそろ情報提供者について教えてくださいよ」


「明日教えてやるよ」


「何で明日?」


「明日、君の歓迎会をやるからだ。その時に」


「歓迎会すか。もう入って結構経ちましたけど」


「正規のメンバー入りを祝しての、だ」


 言われた高下は呆けた表情で言われたことを咀嚼したが、意味を理解すると一気に表情が華やいだ。


「マジすか!本入部すか!」


「部活じゃないってば。明日の放課後は空いてるか?」


 話す空見の表情もいつもよりずっと和らいでいた。


「問題ないっす!」


「まぁ企画しといて何だが場所はここだ。小さな会だが一応簡単な菓子と飲み物は用意するつもりだ」


「光栄です」


「じゃあ十六時くらいに部室に来てくれ。あんまり早く来るなよ。こっちにも準備はあるんだからな」


「うすうす」


 言いたいことを言い終えたらしく、空見はイソイソと帰り支度を始めた。


「ほら、帰るよ。いつまでニヤニヤしてんだ」

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