第2話-裏校則
「能力の名前、自分で付けたのか?」
言われた高下は恥ずかしそうに腕を振り、誤魔化すようにニヤけた。
「いや違うんす。これを見せたクラスメイト達に名付けてもらったんすけど、最初は『素晴らしく便利』だったんす。学校の備品を移したりして遊んでたんで。でも『便利』って呼ばれるのって、何か使いっ走りみたいでイヤじゃないすか。変えてくれって言って、それで今のコレです」
「さっき、移せるのは自分の所有物って言ってたが、学校の備品を移せるなら違うじゃないか」
「いや、備品って皆の物じゃないすか。百分の一か、千分の一は俺の物でもあると思ってるんで。授業料も払ってるし。そういう感覚があれば移動できるんす」
ここに来る前に飛んできたソフトボールを移せたのも、その理屈によるものだった。ボールは体育や部活で使用している学校の備品である。
「じゃあ生徒手帳じゃなくて、この部屋の本とかでも良かっただろ」
「この部屋に入るのは初めてだったんで、俺の物って感覚が薄いかなーと思って。何か試されてるような雰囲気だったし、ミスったらイヤだなって」
「スマホは持ってないのか?」
「持ってます」
ブレザーのポケットから、何気ない感じでスマホを取り出す。
「スマホで良かったろ」
「身体から離して、パクられたらイヤだなって。いや、先輩がそういう奴だと思ってるとか、そういうことじゃないっす。結局なんとなくです」
失言したと思ってか、苦笑しながら頭を掻く。空見は高下の今の発言について何も気にしていないようだが、別の点で度し難いと思っている様子だった。
「私だったら、スマホよりも遥かに生徒手帳の方が重要だと思うし、身体から絶対離さないけどな。ちゃんと読んだのか?」
「もちろん読んだっす」
言いながら持っていた生徒手帳をパラパラとめくり、一番後ろのページを開く。
生徒手帳というものは通常、校歌や校則の他に、学校の沿革や委員会の一覧、公共機関の連絡先やカレンダーが載っており、あとは数ページほどの誰も使わないメモ欄が付いているものである。つまり、全然どうでもいい物ということだ。
しかしこの学校の生徒手帳は違う。ある特定の者達にとっては生命線ですらある。最重要箇所は高下が開いたページに載っていた。
『裏校則 六ヶ条』
一.当校に入学した生徒のうち、一定数の者には『能力』が与えられる。
二.『能力』は当校の敷地内でのみ使用できる。
三.与えられた『能力』は当校からの離籍(卒業・退学等)をもって喪失される。
四.生徒手帳を全損、あるいは紛失し、且つその状態のまま日付が変更された際、その者の能力は喪失される。
五.『能力』による施設・物品の破損及び汚損は、在籍する生徒以外の者には認識できない。またそれらは日付の変更をもって修復される。
六.裏校則は在籍する生徒のみが視認できる。
「四条のところだよ。私がさっき君の生徒手帳を奪いここから走り去って、そのまま明日を迎えたら君の能力は喪失されていた」
「まーでも先輩はそういうことしないんじゃないかなぁみたいな印象があったんで」
「あんまり人を信用するなよ。この学校は曲者ぞろいだからな。あと、生徒手帳は上着じゃなくてズボンのポケットに入れておいた方がいい。上着だとうっかり脱いで放置した時に、誰かに取られるぞ」
「たしかになるほど。ちなみに先輩も能力者なんすか?」
空見がフンと鼻を鳴らす。話題を変えられたことがやや不満なのかもしれない。
「さすがに、こんな所に呼び込んで能力を見せてって言っている奴が能力者じゃないというのは無理筋だしね、そうだよ」
「先輩のはどういうのなんすか?」
「それは言わないよ。君は『開示型』だけど、私は『非開示型』だから」
「なんて言いました?」
「自分が能力者であることを公言し、且つその内容も公に教える奴は『開示型』って呼ばれている。一方で、能力者であることは公言しているが内容は教えないのが『非開示型』。『開示型』はあまりいない」
「呼ばれているって誰が呼んでんすか?」
「私達だが…それはいいんだ。能力者であることは確認したし、君には仕事をお願いしたい。バイトだよ」
「はあ。どんなんで」
「君の教室で、君の隣に座っている転校生、解之夢一葉について調べて欲しい」




