第11話-登録率
「このランクって何ですか?」
高下の疑問に空見が答えてくれる。
「強さ…何を持って強さとするかだけど、能力が与える影響力というところかな。在校ランクは現在在籍していて且つここに登録されている能力の中での順位。総合ランクはこれまで登録された全ての能力の中での順位だ。登録されている数はざっと六百くらいか」
「おいおい、微妙な順位じゃんか」
沙悟が口を挟んでくる。ランク付けの基準が分かりかねていたがともあれダメ出しされたのは分かったので、少しムキになって返した。
「沙悟先輩は何位だったんですか」
「俺は総合で二十九位。在校で十六位だ」
「沙悟くん、能力は言わなくても順位は言うんだ…」
奈美奈が呆れ気味に突っ込む。大山寺は苦笑している。
「沙悟は今の自警会における主戦力だからな。ちなみに俺は在校で二十七位なので沙悟より下だ」
「今の自警会での順位のトップは沙悟先輩ということすか」
「いや、空見だ」
言われて空見の顔を見るが、空見は会話に乗る気は無さそうだった。
「順位は重要ではありません。どんな能力でも応用しだいで使い道はありますし。重要なのは登録率です」
「登録率?」
空見が目録のページをめくる。先頭のページをめくると、そこには大きく数字で『登録率:六十四パーセント』と書かれていた。
「目録には見出しとかは無く、書かれているのは各能力の説明とこの登録率だけだ。登録率とは今在校している能力者全体のうち、登録できている割合のことだ」
「つまり今在籍している能力者のうち六割以上は登録できてるってことすか。俺含めて」
「そう。年度が変わればそれまで登録されていた三年生達が卒業していなくなり、新たに能力者になった新入生達はほぼ未登録だから、どうしても一旦登録率は落ち込む。それでもこの時期に六十四パーセントはかなり良い方だ。少なくとも去年より良い」
「百パーセント知りたいって空見先輩は言っていたけど、それはコレのことなんすね。百を目指してるのは、やはりそうした方が学校の治安に繋がるからですか」
高下の質問に空見が答えようとしたが、それを大山寺が手で遮った。
「まぁそのあたりの説明はおいおいな」
高下に笑顔を向ける。
「メンバー入りして早速だが、近いうちに能力者の調査をする。この時期は新入生から能力を聴取するのが主な活動だ。それに同行してもらってやり方なんかを覚えてくれ」
「うっす」
部活では無いと言われたが、どこか部活めいた雰囲気に高下は気分が高揚していた。何かに取り組む時の、その『何かをやっている』という感覚が高下は好きだった。精神の満足感に繋がるし、満足できているかどうかというのが、高下にとっては重要だった。
※
灯りを一切点けていない教室は、窓の向こうの暗闇と同化して無機質な夜の沈黙を生んでいた。部屋には二人の人間がいた。
一人は尖角で、椅子に座ってうなだれていた。弱々しい吐息が教室の闇に溶けていく。手負いの獣のような弱々しさがあった。
もう一人は尖角の真正面に立っていた。闇を裂くように開かれた瞳は、冷たくも激しい感情を浮かばせていた。その瞳は冷徹に尖角を見下ろしていた。
尖角がか細い声で話し始めた。
「高下とかいう一年生の腕を俺は切断した。しかし今日、奴は健康体で登校していたらしい。腕は再生していたようだ…何故だ?」
尖角は見上げて相手の顔を覗き込むように見る。懇願するような目付きだった。
「何故俺の能力は効かなかった?」
「動揺するな」
相手の声は瞳と同様に冷たく、刺々しかった。冷たい声色のまま言葉を続けた。
「解之夢とかいう転校生が治したと聞いている。解之夢は自警会のメンバーでは無いが、何者なのか、何か目的があるのかはまだ分からない。能力の内容も」
「解之夢…そんな奴がいるのか。そいつは登録されるとしたら『何位』なんだ。どれだけの力なんだ。腕を戻せるなど…聞いたことがない」
「落ち着け。そいつが目録に登録されているのかも不明だ」
「俺はそいつと相対した時、そいつに勝てるのか。俺は…成せるだろうか。自分の野望を。俺の目指すべき位置に俺は立てるのだろうか?」
「不安になるな。お前が理想のお前になるには、全ての能力者を蹴落とさなければならない。誰も彼も『喪失』させる気なら、精神を強くしないといけない」
「俺にできるのか?俺は…『十九位』だ。沙悟に順位で負けている。空見にもだ。俺はあいつらに勝てるのか…?」
「お前には運が付いている。運はお前に仲間を引き寄せた。久場と、そしてもう一人だ。あいつらを使え。躊躇するな。法も良識も、尊厳も誇りも全てを捨て目標に邁進しろ」
尖角は瞬き一つせず、乾いた瞳で一心に相手を見て頷いた。瞳に浮かんでいるのは相手への信頼でも恐怖による屈服でも無かった。もっと複雑で奇妙な精神状態が見せる瞳の色だった。
一方で相手も目にもまた、人間らしい感情は一切浮かんでいなかった。尖角への気遣い、労り、慰め、そんなものはまるでなかった。言葉で鼓舞していても、芯にある想いは遥かに冷たかった。
あるのはただ、自らの欲求のみ。




