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第5話 さらなる感染拡大

湯浅家の最強はお母さんです。

 あきらさんは警察官だそうで、背は俺より高くて180センチくらい。胸板が分厚くてスーツがピチピチ。髪はオールバックで強面。そういう人が苦い顔で、ずい、と玄関に入って来た。


「――何やってるんだ?」


 言われると思った。俺と母、瑠香は家の中で傘をさしていたからだ。

 明さんはヤバい薬物常習者を見つけたときのような顔をしていた。たしかにそうだけど。


「彰人君、その傘取って」

 さすが警察官、人に命令する口調、すごい慣れてる。俺はこんな人に職質されたら逆らえないよ。


「は……い、あの、ひょっとして奥さん(絹江さん)から聞いて?」

 明さんの顔が歪みまくった。怖くなって俺は傘の柄をぎゅっと握った。


「そうだ。妻から電話があって、事情を聞いたらあまりにも突飛すぎて――確認に来た。妻におかしな現象が起きてるのは君が原因か?」


 怒ってる。っていうか、奥さん、いったいどういう話をしたんだ? 明さんの怒りが完全に俺に向いているじゃないか。


「あの、俺じゃないです。俺だって被害者なんです。これ見てください」

 仕方なく傘を畳んだ。


「……」

 明さんは道端に落ちてる犬のフンを見たようなすごい顔になった。

 ああー、やっぱり普通の人の反応はこうなんだ。


「こほん、失礼。確かに妻の言う通りだった。……二股は感心しないが、君がこの状況を作ったのではないのは確かだな」

 

「わかっていただけました? この現象は俺にとっても不可抗力で、原因もさっぱりなんです」


「……ふむ。とはいえ、こんなおかしな現象を放置するわけには行かない。申し訳ないが身柄を確保させてもらうよ」


「えっ?」

「もちろん、君たちが犯人とかではなく、あくまでも状況把握のためだ」

「ちょっと待ってください。いきなり言われても――」


「確保って――いきなり?」

「そんな……」

 母と瑠香も慌てている。2人とも傘を閉じた。明さんは吹きそうになったけど(こら)えた。


「……君たち、今の状況わかってる? これ、明らかに異常事態だよ。ちょっと見させてもらっただけだし、原因はさっぱりわからないが、わけのわからない現象がこの家と、私の妻に起こっている。しかるべき専門家を呼んで調査するべきだと思う」


「…………」

 俺たちは無言になった。予想以上に深刻な事態になってしまった。いや、でもそうすべきなのかな? 初めてのことばっかりでもうわけわかんないよ。


「それに、これは君たちのためでもあるんだ。こんな状態、他人に見られたくないだろう? だから人目に付かないところに隔離させてもらう。ただ、まだ準備はこれからなので、整うまでは自宅に籠っていてもらうことになるが」


「そのう、それってどれくらい?」

 母が聞いた。


「未定です。だが、その変な文字が消えるまでは調査に協力してもらわねばなりません」

「家から出て行かないといけないんですか?」

 これは瑠香だ。


「施設に行ってもらう。ああ、留置場ではないから安心して。外に出ない限りは自由にすごせるよ」

「そこ、テレビあります? 『愛の不時着失敗』(大人気韓流ドラマ)があと2回で最終回になるんですけど……」


 おかああさああああああんんんんん!!!!!!


「……ええと、だいじょうぶです、本来は有料になりますが無料でテレビを貸し出しできるよう伝えておきます。こちらの都合ですので。録画もできますよ」

 明さんも面食らってるじゃないか。


「よかった。それさえ押さえておけば私はかまわないわ」


「それって、どれくらいの期間になりそうなんですか?」

 瑠香が聞いたけど、それは俺も気になる。


「とりあえず一週間分の荷物をまとめておいてもらえる? こっちもまったく予想がつかないからね。一週間過ぎても解決できないようなら、追加の荷物等はうちの署員に取りに行かせるので、家の鍵も渡してください」


 すらすらとこういう言葉が出てくるのを聞いて、ああ、この人、普通の警官じゃないんだって気が付いた。ひょっとして刑事さんなのかな、って。奥さんの絹江さんが家に帰って、すぐに明さんに電話したんだろう。たったの3時間程度でもういろいろ手配されてたんだ。俺たちに拒否権はなさそう。


 予想以上のことに体中の血がすーっと冷えていくような感覚がした。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 ブーッ、ブーッ、

 と、明さんの内ポケットから振動音がして、

「失礼、ちょっとお待ちください」

 と言って、スマホを片手に玄関から出て家の門扉を開けた。そのとき。


 あっ、思い出した!!!! 大事な事忘れてたのを今!!!


 俺は急いでドアを開けて後を追った。

「横山さん、外に出ちゃだめだ!!!」

「なんだって?」


 遅かった。明さんは右足を一歩、外に踏み出した。そのとたん、頭の上の空間がブブっと揺れて文字が灯った。


『離婚願望刑事』


 あああああああああ!


 間に合わなかった……。明さんの奥さん(絹江)と同じだよ。この家に入って、出たとたんに称号が付くんだ――。

お隣のご夫婦……もう詰んでる!?

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