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第21話 彼女二分の一(最終話)

心美と陽葵が出した結論は、彰人には意外なことでした。

彰人の呼び方は、心美は「あーくん」 陽葵は「あっくん」 となっております。

心美は陽葵を「ひまっち」、陽葵は心美を「ここっち」と呼びます。

 心美ここみ陽葵ひまりの称号が「彼女二分の一」という事は――そうか、2人とももう知ってたんだ……。


「あっくんの家の前でここっちと初めて会った時、何となく予感がしてたんだよね」

「同じく。ひまっちからわたしと同じ匂いを感じたんだ」


 ……あ、一瞬、俺、気絶してたかも。

 称号は、ジュディさんによれば深層心理にある「知られたくない」「一番強く思っている」事柄を写すのだから、知らないことは称号にはならないはずなんだ。


 心美と陽葵はお互いを見てうなずいてから話し始めた。

 心美は俺にゲームで助けられたとき、すごくうれしかったこと。それよりも前から、ずっと俺のことが気になって仲良くなりたいと思って、告白したらオーケーしてくれて、彼氏彼女の関係になれて、今まで生きてきて一番幸せだと思ったことを。


 陽葵は小さいころからずっと俺しか見てなくて、成長してもその気持ちは変わらず、むしろどんどん好きが強くなっていったこと。俺のことを他の誰にも渡したくないと思ってて、俺が陽葵を好きでいてくれるとわかったとき、嬉しくてたまらなかったこと。


 彼女たちの話を聞いて、すごく胸が締め付けられるほど痛かった。だけど、一言一句絶対に聞き逃がしてはいけないんだ。


「だからね」

「こっち向いて、あーくん」


 ふたりが俺の前に並んで立つ。

 次の瞬間――心美と陽葵が同時に手を振り上げた。


 パァン!! 


 大きな音が、人のいない公園に響いた。

 右頬と左頬、同時のビンタだった。


 頬は熱く痺れた。でも、そんな痛みなんて比べものにならないくらい、心美と陽葵に「彼女二分の一」なんて称号をつけさせてしまったことが、胸を抉った。

 俺は震える声で言った。


「……ごめん。もう絶対に、こんな思いはさせない。二度と二股なんてしない。卑怯なことは、もうしないって――誓うよ」


 ふたりは無言で、ただ静かに俺を見つめていた。

 それが、俺たちの恋人関係が終わった音だった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 ――事件から一か月後・ジュディ視点・ネバダ州エリア52――


 職場に戻って来ましタ。やっぱり落ち着きまース。ここは表向きはアメリカ空軍に属する防衛科学研究所となっていますが、実は地球外技術研究組織なのでス。雰囲気はシャルル・ドゴール空港に似ているところが気にいってまース。


 ワタシは私室にお客様を招き入れていました。


「アキラ、決心は付きましたカ?」

「……如月博士」


 そう、称号事件で大活躍してくれたアキラ・ヨコヤマでス。ここの制服であるブラックスーツをビシっと決めていまス。


「決心も何も、私にあの話を聞かせたときからそのつもりだったのでしょう?」

「……フフフ、イエースでス」


 あの話、アキトがマーズ・チルドレンであることをアキラにも伝えたのは、アキラにうちに来てほしかったからで、彼もその覚悟があったからこそ退室しませんでしタ。とうに覚悟はできていたのでショウ。


 アキラは、全世界の称号の中に、とてもアキトたちには見せられないようなひどいものをたくさん発見しましタ。日本の女レイプする、や日本人皆殺し、植民地化、もっと残酷なものもたくさん。こういった輩が大勢日本に潜んでいたのでス。


「――お受けします」

「センキュウ! そういうと思ってもう用意していました。これをどうぞ」


 ワタシは黒いサングラスを渡しました。アキラは大きく息を吸ってそれを受け取りました。これは、もちろん、タダのサングラスではありません。


「かけてみてくださイ」

「……見えます。相変わらず“人の心ナッシング”なんですね」


 はい。実は“称号”は《《消えていない》》のでス。ワタシが作った電子ワクチンは、人間の目に見えなくするだけのものでシタ。このサングラスを通したときだけ見えるようになってまース。


 わざとでース! 理由は、二つ。


 全世界に太陽系外異星人が数体潜伏しているのを発見してしまったから。しかも全員が地球人に憑りついていました。きんせいくんのように捕えることはできませン。


 もう一つは、あまりにもひどい称号が多すぎて、さすがのワタシも「地球人滅ぼすカ?」などど思いかけてしまったこと。それはアキラも同じで、ワタシたちが徹夜よりも消耗していたのは人間の醜い本音を何百、何千、何万も見てしまったから。


 特に「2025年7月5日に核戦争を起こす政治家」の称号を持つ、ある国の軍最高責任者たち――これは見過ごすわけには行きません。

 愛する地球のために、ワタシは称号をそのままにしておくことを決めまシタ。

 

 今回の事件で世界中で多くの人間関係が崩壊しましタ。パートナーをATMとしか見ない者、妻を家政婦扱いする男、10年以上浮気をしていた男、財産目当ての女、身体目当て……。


 称号は「その人の本質とは関係ない」とされましたが、心当たりがあったことまでは消せませン。

 危うい関係が壊れたのは、ある意味、世界規模の“ざまぁ”でース。


 これからエリア52は危険人物たちを処理するために、職員たちと共に対策を考えねばなりません。ワタシの部屋には立方体がたくさん、ふわふわ浮かんでいまス。彼らはみな我ら太陽系に属するかつての人類です。この奇跡の地球の環境を守るため、彼らの持つ超科学知識を役立ててもらいまース。


 ワタシは火星人の遺伝子情報をたくさん持った『人の心ナッシングお姉さん』ですからネ。地球を狙った輩には死ぬほど後悔させてやりまース。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


「オーケイ。では、“どせいさん”に施設を案内してもらってくださイ」

「わかりました」


 スイーと浮かんで近づいて来たのは、野球ボールくらいの球体に土星の輪を付けたどせいさんです。彼女は輪っかに日本語を表示できるのでベリー便利~。


「その前に、彰人君の件はどうなりました?」

 アキラが聞いて来ましタ。


「アキトはまだ火星人的な能力は発現していませんのでしばらく保留ですが、監視は続行していまス」

「安心しました。もし超能力的なものが発現すれば彼を狙う輩が拉致を試みるでしょうね」


 そうなのでス。地球外の知識を持つ人物など、地球を支配しようと企む組織にとっては喉から手が出るほどほしい対象でス。湯浅家に設置したドリンクサーバーは実は設置型のAIで、彰人の体調を記録し、変化があれば即座に連絡が来るようになっているのでス。


「ド……」 

 どせいさんが「こちらへどうぞ」と輪っかに日本語で表示させました。音声は普通に出せるのですが、彼女は寡黙なタイプなのでス。アキラはちょっと引いた感じでどせいさんの後を付いて行きました。


 ワタシはこっそりサングラスをかけてアキラの後ろ姿を見ましタ。彼の称号は『吹っ切れた刑事』に変わっていましタ。心の中でサムズアップしましタ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 ――称号騒動から一か月後・とある日の東急プラザ原宿――


「ちょ、ちょっと待って、急いだら荷物が――」

「ほらー、あーくん、早く早く!」

「今度はクレープいこ、クレープ!」

「は、はい」


 俺と心美、陽葵は3人で原宿に遊びに来てるんだ。俺は荷物持ち係だけど。

恋人関係ではなくなったけど――


 心美と陽葵が言った言葉が、今でも忘れられない。


『あたしね、小さいころからあっくんが大好きで、誰にも渡したくなかった。それくらい本気だった。でも……ここっちと話してるうちに、ここっちになら取られてもいいって思うようになったんだ』


『わたしも同じ。最初はひまっちのこと、ライバルだと思ってた。でも一緒にいるうちに……ひまっちとなら、あーくんを幸せにできるって思ったの』

 そしてふたりは同時に言った。


『あたしたち、きっと()()()()だったんだよ!』

『だから――もう一度、友達からやり直さない?』

『……え、いいの!?』

 ということになった。


  俺たちは友達に戻る。遊ぶときは必ず3人。どちらか一人とふたりきりは禁止。

 期間は大学卒業まで。その間に俺がどちらかを選ぶ。もちろん、どちらも選ばない選択もあり。

 そして、選ばれなかった子とも、ずっと友達でいてほしい。それが、2人の出した結論だった。

 最初は信じられなかったよ。


  だって、数年間の想いが、どちらかは無駄になるかもしれないのに。

 でも、それは俺が決めることじゃない。


  俺は2人が好きだ。2人に好かれて、幸せだった。

  だから――俺は必ず、どちらかを選ぶ。


 それが2人の願いであり、俺の責任でもあるから。

『もしフラれたら、すごく辛いと思う。でも、ひまっち(ここっち)がいてくれたら、きっと立ち直れる』

『あたしたち、絶対に壊れないから』

 それを聞いて、絶対に泣かないって思ったのに――やっぱり泣いてしまった。


 俺なんかより、ふたりはずっと大人で、強くて、優しくて、愛情深い。俺、がんばるよ。ふたりに恥じない男になれるよう、絶対にがんばる。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 しかし荷物重いなあ。これ、明さんだったら軽々と持てそう。あの広い背中、かっこよかったなあ、って思ってさ。ふと、言ったんだ。


「俺、筋トレ始めようかな? こんな細い腕だと頼りないしさ」

 って言ったら。


「ダメ! ゼッタイ! あっくん(あーくん)はそのままでいて!!」

 って心美と陽葵がまったく同じ言葉を同時に叫んだ。

 ……やっぱり魂の双子ってあるのかも?




――エピローグ――


 ある日、俺たちは3人でシャイニングファンタジークをプレイするために俺の部屋に集まった。陽葵は初めてなので心美と二人で初心者の町を案内するんだ。


 PCを付けてゲームを起動する。俺のキャラは削除したあと一週間で復活させてたんだけど、ログインするのはこれが初めてで……ってあれ?


「やだ……なにこれ」

「ちょっとおお!」


 画面に映った俺のキャラを見て2人が叫び、俺も悲鳴を上げた。

 俺のキャラの称号が『二股野郎』のままだったんだ。


 うああああああああああああ、また――!?


「あっ、でも見て、バージョンアップのお知らせだって」

「新しい称号が多数実装されたんだって。なーんだ。びっくりしたね」


 ……なるほど。

  きっと運営が、事件との関連を隠すための措置なんだろう。


  ああ、びっくりした……もうこの文字、二度と見たくないよ。

  本当にもう、絶対に二股しないから!

  神様に誓うから!!


  そんな俺を、心美と陽葵はくすくす笑いながら見ていた。

  でも――目が、笑ってなかった。


 ――END――

このお話はこれで完結となります。

ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました<(_ _)>


ジュディ・明側のラストと、彰人たちのラストは予想通りでしたでしょうか。

これ、ハッピーエンドではありますが、ややグレーな結末だったかも。

彰人はいずれ2人の内どちらかを選びますが、どんな結果であっても辛い感情は残りますね(;∀;)


最後まで読んでくださった方々に最大の感謝を!

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