第20話 称号を付けた目的判明
きんせいくんの目的と手段は、地球人には到底思いつけないものでした。
「ケヒャーッ！！ ケヒャ！ ケッケッケヒャアア！！」
きんせいくん、両手両足をバタバタさせて怒ってる。何言ってるかわかんないけど。それを白執事くんがなだめてる。
「ワタシも彼の言葉はわかりませんが、白執事君が通訳してくれたところ、『なぜみんな殺し合わないんだ。せっかく称号付けてやったのに』だそうでス」
はぁ！？
「えーと、それはつまり？」
「きんせいくんは、ゲームと現実の区別が付いていなかったのでス。彼は初めて地球にやってきた電子意志体ですからネ。シャイファンのように人類が殺し合いをするよう称号を付けた、ということでス。シャイニングファンタジークのキャッチコピーは『屍の山を築いて世界に復讐せよ』でス。これが、きんせいくんの目的にぴったりだったようでス。人類が殺し合う様に仕向け、数を減らして地球を金星人が住みやすいように変えるつもりだったのでしょう。阻止できてよかったでス」
ジュディさんは飄々と話してるけど、人類めっちゃやばかったんじゃないか！！
金星人って凶悪なんだな。黒い箱に入ってからはなんか無力化されてるっぽいけど、だいじょうぶなのかな。
「その黒い箱の中は二酸化炭素が充満していて金星人が好む環境になっていまス。そこからは出られないようになっていますから大丈夫。これで必要データは全て出そろいました。それではアキト、もう一度寝てくださイ。ここからはキミには聞かせられない話になりまス」
「えっ？」
と言った後、すぐに俺の意識は途絶えた。明さんがまた俺のカチューシャに触ったみたい。言ってくれれば普通に寝に行くのになんでだよ！ 俺、二股野郎に加えて気絶野郎二世の称号まで追加されちゃう？
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――ジュディ視点――
犯人も捕まり、称号ウィルスに対する電子ワクチンも目途が付きましタ。しかし、まさか、金星人だったとは驚きましタ。金星人の遺伝子は、（うちの組織調べですが）地球人には受け継がれていませン。つまり、金星人たちのタイムワープはすべて失敗。きんせい君はたった一人の生き残り、ということでス。
光速を超える速度でのタイムワープはそれだけ難しいのでス。ほんの0.00001秒のズレで何万年も先の未来へ飛ばされてしまいますから。それをきんせいくんに伝えたら大泣きしてしまいました。白執事くんがなでなでして慰めていますが、しばらくは時間かかりそうでス。可哀そうですが、彼も地球に順応できるよう、教育せねばなりませン。
あと、アキラ夫婦の問題ですが、キヌエさんのおかしな行動は、”欲求不満”からの女性ホルモンの乱れが原因でス。激務のアキラは最近ほとんど家に帰れていませんでした。なので、アキラにはサイバー刑事の身分のまま、今回の称号事件の後始末のためにうちのエリア52に出向してもらうことにしまス、ということをアキラに伝えましタ。
うちの職場は週二日は絶対に休むことになっていますのでね。そうなればキヌエとの時間も取れますし、ベイビーができる確率は78％までアップしまス。きっと彼らは大丈夫。元々愛し合う仲ですしネ。離婚願望も不倫願望も解消することでしょう。めでたしめでたし、でス！
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――彰人視点――
起きたらもう次の日で、リビングに降りたらまだ悪の組織のままだった。ジュディさんは目の下にクマを作ってた。右肩に白執事君、左肩にきんせいくんがちょこんと乗ってる。俺を見るとケヒャケヒャ怒りながら小さな手足をぶんぶん振ってて……ちょっと可愛いな、と思っちゃった。
きんせいくんは地球に降りてすぐ屋根裏部屋に潜んでて、俺がシャイファンで人を……倒しているのを見て今回の称号事件を思いついたらしい。やっぱりこれって俺のせいなのかな……。
ニュースでは「電磁波によるランダム現象で、当人とは関係ありません」と発表されてた。そういうことにしておいたほうが、みんなの心の安定になるんだって。確かに深層心理を暴かれるよりはマシだよな。
称号は相変わらずどんどん増えてるけど、ビョンビョンくんのおかげで事態は沈静化しつつあるそう。あと3日で電子ワクチンが完成するって。なんか数字の羅列を見るだけで称号が消えるそうだ。ほんとすごいよこの人。
マーズ・チルドレン。まさか自分に地球人ではない遺伝子が残ってるとか今も信じられないよ。実感もないしね。ジュディさんはこれからも「普通に暮らすといいでス」って言ってくれてほっとした。てっきり実験体として監禁されるかも、なんてビビってたんだ。
この事件、終わりが見えて来たけど、俺にはまだ人生最大の問題が残ってる。
そう――心美と陽葵に二股を白状して、謝ることだ。覚悟を決めた。頭の中で100回以上シミュレーションした。絶対気絶しないぞ！
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――数日後――
電子ワクチンが完成し、世界から称号は消えた。
母さんがハマってた『愛の不時着失敗』大画面上映会は予想をはるかに超える大盛り上がりだった。
不時着に失敗したせいで魂が入れ替わったヒーローとヒロインが、最後の最後で大どんでん返し！ 中身が男のヒロイン（女優）が●●国の戦闘機を盗んで操縦し、追っ手を振り切って2人で海外亡命というラストに、会場全員が泣きながら総立ちになった。
ドラマでスタンディングオベーションなんて初めてだよ！
観客は、父さんが帰国して久々に全員揃った湯浅一家4人にジュディさんとお隣の横山夫妻だ。ドラマを見たあと、明さんが差し入れてくれた最高級の黒毛和牛ですき焼きパーティをした。
白執事くんときんせいくんは、テーブルの上で2人並んで、単三乾電池を両手で抱えて電流をちゅーちゅー吸ってた。これ、彼らにはすごくおいしいんだって。電気が食事って……可愛すぎるだろ！
横山夫妻は、ジュディさんの検査の結果、２人とも健康に問題なしで、つまりは明さんが忙しすぎて絹江さんの欲求不満がいろいろ爆発してただけだったらしい。（高校生の俺にその話言っていいのかな……？）
その”いろいろ”については詳しく教えてもらえなかったけど、２人は話し合った結果、誤解が解けてすごく幸せそうだった。特に、絹江さんは満足そうな顔つきになっていて、ずっと明さんの横顔を見つめてた。きっともう不倫願望とか離婚願望とかは無くなったんだと思う。……本当によかった。母さんも自分の事みたいに喜んでた。
ジュディさんは涙を流しながら「おいしー！ おいしー！」と信じられない量の肉を平らげてた。俺も今まで食べたことない高級肉をやけ食い並みに頬張った。やっぱ肉って最強だ。元気が湧いてくる。
それに、このすき焼きパーティは、お別れ会でもあるんだ。
嵐みたいな激動の一週間、うちで過した明さんとジュディさんは荷物を片付けたあと、何度も母さんにお礼を言いながらそれぞれの場所へ帰って行った。母さんはちょっと涙ぐんでた。これだけ長く他人と過ごしたのは初めてだけど、別れ際、寂しくなったのは内緒だよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
火曜日の午後、心美と陽葵に近くの公園で会った。最初、2人はすごく微妙な顔してて、俺は後ずさった。でも頭の中で100回以上シミュレーションしてきたんだ、踏ん張れ、俺！
「あの――実はさ。俺、二股かけてたんだ……その、本当にごめん！ どんなにひどいことをしたか、謝っても許されることではないってわかってるけど、本当に申し訳ない、俺……」
「知ってたよ」
心美と陽葵、２人とも同時に言った。
「えっ！？」
陽葵は、俺にスマホの写真を見せて来た。
それは２人の頭に称号が付いてる時のスナップだった。
彼女たちの称号は――
『彼女二分の一・マークI』
『彼女二分の一・マークII』
だった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。創作活動の励みになりますので、もし気に入っていただけたらブクマ、いいね、評価よろしくお願いいたします<(_ _)>
次話「第21話 彼女二分の一（最終話）」は12/9（火）7:00頃公開予定です。
この20話と同時に、オマケで「閑話：愛の不時着失敗のあらすじ」も公開しております(*ノωノ)
読まなくても本筋には関係ありませんので飛ばしても大丈夫なんですが、お時間あったらぜひ！(≧∇≦)
