第15話 悪いニュースともっと悪いニュース
ジュディが選ぶおもしろ称号ランキング発表です!
――悪いニュース――
「"Agito"(彰人のシャイファンのキャラ名)の二股称号の切り取り画像が流出し、それを見た人々の頭に称号が現れまーしタ」
「うああ!」
俺は頭を抱えてうずくまった。やっぱりか! 恐れていたことが起きてしまったあああああああああああ!
朝の爽やかな空気感の中に俺のうめき声が響き渡る。
明さんがため息をつきながら淡々と報告してくれる。声がちょっとかすれてて、かなりお疲れみたい。
「……現在判明しているのはプロムゲーの社員4人(彰人の父含む)を除いて15人。しかも、出現した人間の近くにいた者たちも次々と二次感染、三次感染と増えていっている。正確な人数は報告待ちだ」
「アキト、その15人の称号、見ますか? とても面白いでーす」
「人の心ぉ!! でも、不謹慎で申し訳ないけど、ちょっと興味あります。教えてください!」
なんか俺、だんだんおかしくなってきたかも。他の人の称号が何なのか知りたい!
みんな称号仲間だ!
「ラジャー! 発表しまース! ジュディが選ぶおもしろ称号ランキング、一言付き!!
第15位 毎日えっちしたい漢(15歳男)かわいいですネー”漢”と言う字使ってるのもカワイイ。
第14位 女欲しい20歳以下限定(55歳男)キモ~。
第13位 空からイケメン降ってきてほしい(32歳女) ワタシもたまに思いまス。
第12位 会社爆発しろ(27歳女) うちの職場、爆発したことありまス。
第11位 両親●ね(13歳女) ●ね、はちゃんと伏字になっていまス。プロムゲー社の規定に則っているところがわらえまース。
第10位 スパダリ欲しい(29歳女) 自分がスパダリになれ~。
第9位 極悪商人魂(61歳男) 越●屋さんかナ?
第8位 万年純情中年(52歳男) 妖精さんかナ?
第7位 奢らない男は男じゃない(43歳女) 奢れる女の方がステキだと個人的に思いまース。
第6位 クリリカは俺の嫁(36歳男) 『天空の幼女王』は良いアニメでしタ。
第5位 プ●キュア参上!(32歳男) 大きなお友達でーすネ。
第4位 体重40キロ代は太ってる(18歳女) 拒食症なので病院行ってくださイ。
第3位 我は神(72歳) 調べたら本当に苗字が”神”だったので問題ありませン。
第2位 人の金で高級焼肉食べたい(33歳女) 日本の焼肉、おいしい最高。(2位になったのは単にジュディが焼肉食べたかったから)
そして栄えある第1位は!!
第1位 3年前の行方不明事件の真犯人(19歳)でしター!」
明さんはあきれ顔だ。
「如月博士。そのランキング、絶対外にださないでくださいね。炎上します」
「わかってまース。一応、理性はありますヨ」
「ちょ、ちょっと、その1位って……」
「はい、すでに警察が動いていて、彼は現在任意で取り調べを受けていまス。自分の頭に称号が付いたことに気が付かず外を出歩き、通行人が警察に通報したのでス。ソーファニー~!」
これって、すごいことじゃない? 称号のせいで犯罪がばれるなんて……。
もしかして過去の未解決の犯罪、どんどん解決しちゃうのでは。
あ、でもこの警官たちも称号ついちゃうんじゃ!
「次に、より悪いニュースですが……」
「――(ゴクリ)」
――もっと悪いニュース――
「今から2時間前、称号がとうとう世界にバレました。テレビ局が一斉に報道し、あっというまに全世界に広がりつつありまース!」
「やっぱりぃいいい!?」
どう考えてもそうなるよね!?
「まあ、こうなりますよネ。では、この画面を見てくださイ」
ジュディさんがそう言うと、リビングのテーブルからちょっと離れたところに世界地図の大画面が現れた。日本に、大きさがまちまちな赤点が各地に点滅してる。
「この点滅が発生場所で、人数が多いほど大きな赤点になります。点滅しているのは現在も増えつつあることを意味していまス」
「うわあ……」
俺の予想以上に、称号は世界に広まりつつあった。
赤い点滅が一番多いのは日本とアメリカ。そこからイギリス、ヨーロッパ、ロシア、オーストラリアにも小さな赤い点が、ぽっ、と灯り始めている。
意外と中国にはそこまで広まっていない。
「中国はSNSをかなり制限した」
中国を見つめていると明さんの解説が入った。
「今は、称号の感染方法が伝わり、どの国もSNSやネットでの閲覧を控えるように、マスメディアが浸透させつつある。最初は称号をモロに映していたが、今はモザイクを入れている。
……当局(ジュディや明が所属している組織・国防省や防衛庁、警察庁が協力し合って一つの対策本部を築いている)が指示しているが、それが行き届かない地方では称号がネズミ算式に増えているな」
リビングに浮かぶディスプレイの中には、各国のテレビのニュース画面が再生されていて、ニュースキャスターたちが町の様子や、専門家のインタビューを放映してる。これを全部記録している、って明さんが言った。
彼の話では、称号は未だにSNSで動画や画像が拡散されていて、いずれは全世界を覆いつくすだろう、てさ。でも、他人に見られてもそれほど問題のない称号もかなりあって、未開の地や僻地では暴動も小規模ながら起こってはいるけど、大都会では大きな混乱はないんだって。おそらく、まだ状況を飲み込めていない人も多く、肉体的な被害がないからだそうだ。
だけど、俺が予想していたよりもずっと早い。だって昨日の朝だよ? 俺に称号付いたの。それがたった一日で世界に……そう考えてぞっとした。
「世界はネットで隅々まで繋がっていまス。スマホも含めると、電波のないところなどほとんどないでしょう。絶海の孤島でも、氷河の底でも、エベレストの頂上ですらスターリンク(※アメリカ合衆国の民間企業スペースXが運用している衛星インターネットアクセスサービス)によって繋がっていまス。遅かれ早かれ、こうなることは予想していましータ」
ジュディさんが、ソファーに座ったまま言った。空中に浮かぶ3D映像のキーボードが常に自分の身体に対して最適な角度を保って傾くから、PC用の椅子でなくてもいいんだって。便利だなあ。俺もこのシステム、欲しい。
テレビでは大勢の、称号を頭に付けた人たちが慌てて建物の中に入ろうしたり、傘をさしたりしているんだけど、そこまでひどいパニックにはなっていないんだ。ちょっと意外。
てっきり、人が外に出たくなくなってインフラが止まったり電車や車が動かなくなって物流が止まると思ってたんだけど……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「わー、悪の組織みたいになってる! あ、おはようございます」
瑠香が階段から降りて来た。明るいピンクのルームウェアで眠そうに目をこすってる。こいつもよく眠れなかったのかな。
「みなさん、おはようございます。朝ごはん今用意しますねー。あらあら、テレビがいっぱい」
母はいつも通り。……母さんすごくね? うち、悪の組織のアジトになってるのにあんまり驚かないの!?
「ルカチャン、オカーサンおはようございまス。そうです。ここは悪の組織に占拠されているのでース」
「あははは。あたし、女幹部やりたーい」
「採用しまス」
「やったー!」
親指をピッっと立てるジュディさん。ノるタイプだなあ。
「おはようございます。湯浅さん、瑠香君。落ち着いたら君たちにも説明するね」
「はーい。……すごいですね、あっという間に広がっちゃってる……」
瑠香も次々と流れるニュースを見て目を丸くしている。
「世界……どうなっちゃうんですかね」
ふと思ったことを言うと。
「ふふん、ジュディにお任せでース! こんなこともあろうかと、ちゃんと準備はしていましタ」
自信満々でそういうと、ジュディさんは大画面に何かの図面を写した。
「これが! ワタシが考えた! 最強の『対称号秘密兵器』でス!!!」
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次話「第16話 対称号秘密兵器」は11/24(月)7:00頃公開予定です。




