第14話 甘くて苦いポッチンプリン
称号は人間にもゲームキャラクターにも感染するという事実に彰人の精神はオーバーヒートしてしまいましたが、白執事君のおかげで冷静を取り戻しました。彰人と陽葵・心美が知り合ったきっかけを想う回です。しかし、外の状況はさらに悪化しているようで……。
※当作品には生成AIは一切使用しておりません。
「キューイ」
白執事君は、手足をバタバタさせたかと思うと、スーッと浮かんで俺の机の上に置いてあったお皿をひょいと頭にのっけて、ベッドの端に腰を掛けて座ってる俺の前に来た。
こいつ、飛べるのかーい。本当に最近のAIってすごいな。ドローンの原理? いや、風がないから磁力とかかな?
「キュキュ」
「あ、これって――」
皿の上に乗っていたのは心美と陽葵が買って来てくれた、俺の大好きなポッチンプリンだった。
……目頭がカーッて熱くなった。
このプリンが俺の大好物だってことは、彼氏と彼女の関係になる前も後も、彼女たちに言ったことがなかったんだよ。
陽葵は幼稚園の時からいっしょだったから、俺がプリン食べる時の顔を見て知ったんだと思う。心美は高校1年の時かな、クラスの男子友達と俺でワイワイ食べ物の話をしてたときに、同じ教室で聞いていて、それからずっと覚えていてくれたんだと思う。その時以外はだれにも話してなかったからね。男がプリンが好き、っていうの、なんか恥ずかしくてさ。
熱が出たって嘘なのに、彼女たちは心配してわざわざ大好物を買って来てくれるくらい俺の事心配してくれてるのに……。
俺、本当に情けない。
プリンを見たら、今までの2人との楽しい思い出がぶわって浮かんで来てさ、涙がポロポロ流れた。自分の部屋でよかった。
「キュ~~」
そしたら、白執事君がまたふわっと浮かんで、俺の頭を小さな手で、ちょいちょいとなでてくれたんだ。この子、慰めようとしてくれてるんだ。その小さな手に触れられたら、辛い気持ちが薄まっていく心地がした。
「ありがとう、優しいんだね。おかげでちょっと心が楽になったよ。彼女たちが差し入れしてくれたプリン、食べるね」
付き合ってからは半年だけど彼女たちとの付き合いは、彼カノの関係になる前からずっと楽しかったなあ。
2年前の話、心美は友達に誘われてシャイファンを始めたはいいものの、その女友達に嘘を教えられて、レベル1なのにPvPエリアにホームポイントをセットしてしまったんだ。
かわいいプッシィキャットキャラだったから、質の悪いプレイヤーたちに目を付けられて、何度も倒されてはホームポイントに戻り、戻ったところをまた倒されてた(いわゆるリスポーンキル)のを、俺が偶然通りかかって、周囲にいたプレイヤー全員倒し、安全な場所まで護衛してあげた。
心美は本名をキャラ名にしてたからすぐわかったんだけど、彼女はなぜか俺のキャラクター名”Agito”を知ってて、次の日教室でお礼言われてびっくりした。それから仲良くなったんだった。(※オンラインゲームキャラに本名を付けるのはNG)
陽葵は幼稚園の頃からいっしょで、女顔で、気の弱いいじめられがちな俺をいつも助けてくれてたんだ。だけど、助けられるばかりじゃいられない、と思って陽葵に相談したら「得意なものを見つけてがんばろ?」って言ってくれてさ。
思い当たったのが、勉強とかスポーツとかじゃなくて、ゲームだった。
運がいいことに、俺はゲームがすごく上手かった。自分で言うのもなんだけど、コントローラーでの連打とか、FPS(First-person shooter)でのエイムの正確さでは周囲に負けたことないくらい。
不思議なもので自慢できるものができると、だんだんいじめもなくなった。
俺が中学も高校生活も楽しめてるのは、陽葵と心美のおかげなんだ。
それなのに、なにが称号『二股野郎』だよ、『クズ野郎』だよな。俺には彼女たちと付き合う資格なんかない……。
そんなことばかり考えながら食べたら、いつもは甘いプリンが、やけにほろ苦く感じた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
プリンを食べ終えて時計を見ると深夜2時。ずいぶん寝てしまってた。皿を持って階段を下りてびっくり。リビングが宙に浮くディスプレイで占領されてた。ジュディさんと明さんが起きて仕事中だった。事件の真っ最中だから寝ないのかな、エキスパートさんたちは大変だ。
ジュディさんと明さんはラフな格好になってた。2人ともお揃いのオフホワイトのプルオーバー着てたんだけど、胸に書いてある文字見て「ぶふぉっ」ってなった。なんでひらがなで胸にでっかく『ぺんたごん』なんて書いてあるんだよおおおおお! 笑っちゃったじゃないか。
「笑いが取れまーしタ。掴みはオッケイですネ。アキト、早く寝すぎてこんな時間に起きてしまいましたカ?」
ジュディさんは満面の笑顔で親指を立てた。俺を笑わせるためだったんかーい。でも、心遣い、ありがたいよ。笑い、って心がすごく楽になるんだね。
「はい、……ご心配かけてすいません、眠ったおかげで落ち着きました。あと、白執事君のおかげで――」
白執事君、なぜか俺の左肩に乗っかったままだ。座って細い足をプラプラさせてる。ここが気に入ったのかな?
「それはよかったでース。お腹すいたでショ? オカーサンが夜食のサンドイッチ作ってくれてるので、それ食べたらもう一度寝るといいでス」
「わかりました」
今度は素直な気持ちで言えた。そうだよな、俺がいたところで邪魔にしかならないし、またぶっ倒れでもしたら逆に迷惑だ。デザートを先に食べちゃったけど、サンドイッチ3つ食べて水飲んで、軽くシャワーを浴びてから寝た。
白執事君は俺が寝るまでそばにいて、頭を撫でてくれた。
この子、ずっと傍にいてほしいな。無理だろうけど。
白執事君に撫でられているうちに俺はまた眠くなった。
目を閉じながら祈った。
――朝になったらすべてが解決していますように。
――称号が消えて一件落着になってますように。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――次の日の朝6:00――
祈りは届かなかった。俺はまだ『二股野郎』のままだった。
「……おはようございます」
俺は朝支度を整えたあと目をこすりながら階段を下りていくと、明さんとジュディさんは昨日と同じような姿勢でそれぞれのディスプレイに向き合ってキーボードを叩いていた。白執事君はジュディさんの頭の上に乗っかってた。みんな頭に称号が付いてるけど、慣れて来ちゃったよ。人間すごいな!
2人ともちょっとやつれてる。やっぱり寝てないんだ。
そうだよね、一晩明けたら解決してるなんてことないよね……。
「おはようございまス、アキト。バイタル正常に戻ったところ、申し訳ありませんが悪いニュースが2つあります」
「博士、それは――」
明さんが止めようとしたけど。
「アキトは被害者でス。この事件が今どうなっているのか知る権利がありまス。今の精神状態ならだいじょうぶでしょう。どうしますか? もちろん、聞かないという選択もありまス。聞くなら悪いニュースと、もっと悪いニュース、どちらが先に聞きたいでス?」
その二択かーい。
うっ、やっぱり人の心ないのか、ジュディさん。どっちも聞きたくないけど、当事者としては聞かないとだよな。
こういう場合ってやっぱり軽い方から聞くのがセオリー?
「ええと、悪いニュースからおねがいします……」
「イェー!」
軽い口調のジュディさんの口から出て来たのは、俺の予想を超えて悪かった。
その後にこれ以上悪いニュースもあるの!?
俺、また気絶しちゃわない!?
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。創作活動の励みになりますので、もし気に入っていただけたらブクマ、いいね、評価よろしくお願いいたします<(_ _)>
次話「第15話 悪いニュースともっと悪いニュース」は11/22(土)7:00頃公開予定です。
ジュディのいう悪いニュースの内容は、予想通りといいうか、予想以上というか、とにかく大変なことになっております(;'∀')




