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第13話 癒しの特殊超合金

ここまでの簡単なあらすじ:高校三年生の主人公彰人の頭の上に突然現れた『二股野郎』の称号。見て一定の距離を離れると他人にも感染し、ゲーム内のキャラにも同じ現象が起こる、という事態になってしまった。

 称号ウイルス(仮称)を調査するためにアメリカからやって来たMR(仮想現実)のエキスパート・ジュディ如月博士はこのウイルスの正体に見当が付いたようだが……

――ジュディ視点――


「ジュディさん、横山さん、お夕食、片手で食べられる簡単なものですが、作ってきました。お手すきの時に食べてくださいね。お夜食はハムと卵のサンドイッチを冷蔵庫に入れてありますので自由にどうぞ」


 オカーサンが持って来てくれたのは、サランラップで巻いたおにぎり、棒が刺さったスティック状の卵焼き、つまようじが刺さったウィンナー、マグカップに入ったお味噌汁でした。それらを丸いお盆に乗せてワタシとアキラの傍に置いてくれまシタ。この心遣い、すばらしい! ワタシ、感激です!


「オカーサン、ありがとう、大好き!」

「奥さん、お手数かけて本当にすみません」

「いえいえ。ジュディさんも横山さんもお気になさらず。私にできるのはこれくらいですからね。では、愛の不時着失敗(大人気韓流ドラマ)の時間ですので、お父さんの書斎で見てきます」


「はーい、ごゆっくり」

 オカーサン、強いでス。彼女も非常事態のことをわかっているけど、平穏を保ってくれていまス。家の中にこういう人が1人いてくれるだけで他の家族も安定を保てますネ。湯浅家……心地いい空間でス。


「じゃあ、あたしは先にお風呂入りますね。ジュディさんと横山さんはどうします?」

「今日は軽くシャワーだけにしておきマース。ありがとネ」

「同じく。夜遅くに借りるね」


「ラジャ!」


 ルカチャンはオカーサン似ですネ。逞しいことはいいコトでス。


 日常の普通の会話をこなしながら、ワタシの頭の中では複数の高度な演算が同時進行で行われています。事態は悪い方向へ行く確率が87%にまで上がりましタ。


 もし、アキトがローカルでシャイニング・ファンタジークを削除していなければ、この家に犯人を閉じ込めることが可能でしタ。犯人は確実に彰人のPCの中のゲーム内に存在していましたので。しかし、ゲームを削除してしまったせいで、この家から無線LANを伝い、ルーターからネットワークへ侵入、プロムゲー社のサーバーに逃げ込んでしまいましタ。


 そう、犯人はネットワーク内に生息する電子生命体……いえ、地球の生命とはあまりにも違いますから、電子意識体(electronic consciousness body)とでも名付けましょうか。()がどの()から飛来したのかはわかりませんが、この先の調査で判明するでしょう。


 ただ、判明したところで、すぐにこの現象を対消滅させるためのキーコードは出来ませン。


 ぶっちゃけて言いまスと、削除するだけなら簡単。でも、そうすると脳の島部位の感染した部分まで機能停止して、言葉がしゃべれなくなったり、異常な性格になったりしますス。なので、脳の機能は損なわず、異常な脳波を出力させられている現象だけを消滅させなくてはなりませン。


 それには、白執事君をフルレンジで使っても一週間はかかりまス。(※現在は調査中のためノーマルレンジで計算中)

 おそらく、一週間後にはこの称号事件は収まることになりますが、その原因や経緯を世界は求めることでしょう。


 ということで、現在のワタシの仕事は、”湯浅家が原因であることを、如何に世間に知られないよう()()()()に事を収めるか”、となっていまス。


 ワタシの予測によれば、この称号の現象はいずれは多くの人々に発現することになります。アキトのDiscordを追跡してわかったのですが、1人がシャイファンのアキトのキャラクターが歩いているところを生配信していましタ。


 それが、切り取り動画としてネットに一瞬、出てしまいましタ。今は削除されていますが、いったい何人の人間が見たのか。それは称号が発現しないとわからない、というのが今の現状でス。


 ウーム。どうやって対処しますかネ……


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


――彰人視点――


 うーん、なんか頭が重い……けど、なんだろうひんやりしてて気持ちいい。

 俺のおでこになにか乗ってるみたい。目を閉じたまま俺は深呼吸した。


 さっきまで頭痛と耳鳴りがうるさいくらいだったのに、今は落ち着いて静かになってる。


 あ、俺、いつの間にか寝ちゃってたんだ。いろいろなことがいっぺんに起こりすぎてオーバーヒートしてたんだな。


 なんだろう、このひんやり感、癒される……。


「キュイキュイー?」

 かわいい小動物か虫みたいな鳴き声が聞こえた。


「ん? なんて?」

「キュッキュー!」

「え、大丈夫か、だって? うん、もう頭痛は収まったよ……」


 そこで俺は、はっ、と目を開けた。

 俺のおでこの上にいたのは白執事君だった。びっくりした。(※1)

 俺は自分のベッドに寝てた。だれかが運んでくれたのか。明さんかな。


 体を起こすと白執事君は、ふわりと俺の右肩に乗った。あれ、今浮いてたような……。(※2)


「キュッキューイ」

「無理するな、だって? うん、ありがとう」

「キューキューキュッ」


「ええ、二股はダメって? いきなりだなあ。わかってるよ。この事件が終わったら2人にちゃんと言うね。……2人からフられることになるだろうけどさ……こちらからフるよりは彼女たちの気持ちはマシだと思うんだ」


「キュッキュキューー! キュイキュイキュキュイ!」

「違う? そうじゃない? フられるのは辛いけど、それは俺が判断していいことじゃない?」


「キュン。キュイーキュイー、キューーーイ」

「フられて辛い、という感情はその人のものだから?」

「キュ」

「そうか……俺って、フられたらかわいそうだから、って勝手に思って……」


 そうじゃないんだ。あー、わかった。

 辛いけど、その気持ちを他人に勝手にわかったような風にされたら嫌だよね。


 白執事君の言葉は、驚くほどストン、と腑に落ちた。人の辛い、悲しい、って感情を思って行動してたつもりが、そうじゃなかった。


――俺は彼女たちの気持ちを思いやった気になってただけなんだ……。


「やっとわかったよ、ありがとうね、白執事君。彼女たちに白状するときは、勝手に感情を決めつけないように気を付けるね」

「キュイキュイ」


 白執事君はなんだかうれしそうに、ちっこい手足をバタバタさせた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 その時の俺は、『最新のAIってすごい、キュイキュイって音声なのに言ってることがわかるんだ』って感心していたけど、実は白執事君はA()I()()()()()()()ことを後で知った。

※1 白執事君は自分の意思で彰人の部屋まで移動し、おでこに乗っかっていた。白執事君は脳波でジュディと繋がっているので離れていても、ウィルス対処のための計算は可能。

※2 白執事君の浮力は反重力を用いている。もちろん地球外の技術。


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