第12話 彰人気絶する
正体不明の称号ウイルス(仮称)は、なぜかシャイファンゲームを運営しているプロムゲー社ロサンゼルス支部のサーバーにまで侵入してしまいました。とても現代の地球の技術とは思えないような意味不明さです。
彰人は、自分のゲームキャラが乗っ取られたことに、かなりの精神的ショックを受けました。
「あ、お兄が壊れた!」
「彰人、ちょっと、何立ったまま白目剥いてるの? 怖いわよ……」
「彰人君、だいじょうぶか、そこのソファーに座ろう」
「す……み……ま……せん」
みんなの声が遠い。
明さんが俺を横抱きにしてソファーに座らせてくれた。
なんか、身体が思うように動かなくて、一瞬気を失ってたっぽい。
「アキト、交感神経が極度の興奮状態、脈拍と血圧上昇してまース、いわゆる頭に血が上った状態でス。お水飲んでしばらく横になるといいでス」
ジュディさんの優しい声も聞こえた。けど、俺の身体は動かなかった。
耳鳴りと頭痛がひどいんだ。ぐわんぐわん、って音が頭の中でずっと鳴ってる。
……俺の、シャイファンのキャラにまで……『二股野郎』って称号が……
もうやだよぉ――夢なら早く覚めたい。こんな現実おかしいよ――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
15分ほど横になってたら、頭痛はだいぶマシになって来た。
この事態は、海の向こうのロサンゼルスにも広がって大変なことになってる。
父さんからの国際電話は、明さんのスマホに繋がってて、会話が俺にも聞こえて来るんだ。
『横山さん、緊急メンテを行いました。これで大丈夫なんですか?』
「いえ、まだです。このウイルスの正体がまだわかっていません。それより、湯浅さん、すぐにどこか一人になれる部屋に行ってください。しばらくだれにも会わないでいただきたいのです」
『え、それはなぜ――』
「このウイルス、人間にも感染するんです! 感染する条件に、どうやら視覚感知があるみたいなんです」
『……そんなばかな――』
そのとき、電話の向こうでドアが開く音がして、部屋に入って来たらしいスタッフの緊迫した声が届いた。
『うあ、湯浅チーフ! 頭に変な文字が浮かんでます! どうしたんですか?』
『なんですか、それ……「気絶野郎」? 確かに湯浅チーフはやっかいな案件が来るたびによく気絶してらっしゃいますけど……なんかのいたずらですか? うちのゲームの字体なんか使って――』
ああああああ、遅かったああああああああああああ
ジュディさんの鋭い声での指示が飛んだ。
「アキラ! 称号見た人全員隔離してもらって! 発動条件は《《距離》》!」
「了解」
距離? 本当に? ジュディさん、なんですぐわかったんだろう。でもそう言われたらそうかもしれない、って思えた。明さんと奥さんがまさにそういう感じで称号が現れたから。瑠香と母が、俺が見た時から称号付いてた原因はわからないけど。
「湯浅さん、すぐに今いっしょに居る人たちとその部屋に籠っていてください。その字を見た人も感染します。字を見て、一定の距離を離れると発動します、できるだけ早く!! そちらの社長には話を通してあります。うちの現地職員を向かわせますので、それまで絶対に人に見られないようにお願いします。傘があれば差してください。それで称号を隠せます」
『は、はい』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
感染条件は「称号を見ること」。発動条件は「見た称号から一定以上の距離で離れること」。
ここまで判明した。俺の家が感染源じゃなかった、見た称号から離れると発動するらしい、とジュディさんは改めて俺たちに言った。
そして、父さんが俺のゲーム内のキャラの称号を見たことで感染してしまった。これは新しい情報らしい。まさか、ゲームキャラの称号見ただけでも感染するなんて。気絶している場合じゃない。どうしよう。どんどん物事が悪い方向へ進んでる。
「ジュディさん、これって俺から始まってるんですよね?」
ジュディさんは、白執事君から投影されている、空中に浮かぶディスプレイを4つに増やし、それを見ながら、手元のキーボードをすごい早さで叩いていた。
「今のところ、そうだと言えまース。しかし、元凶はアキトではありません。キミに責任はありません」
「でも……俺が余計なことしたせいで父さんにまで――」
「繰り返しますが、キミのせいではありません、キミは被害者なんでス。普通の人はただのゲームにこんなウイルスが仕込んであるなんてわかりませン。悪いのはウイルスを作り、キミに感染させた野郎でス」
ジュディさんはそう言ってくれるけど、やっぱりゲームを削除しちゃったのは俺なんだから俺のせいだよ。俺に最初に称号がついて、その元になったゲーム削除したらプロムゲーのサーバーに感染源が移動しちゃった、ってことだよね? でもこれって本当に現実のことなの? なんで感染源が移動するんだろう。ジュディさんならもうその正体がわかってるのかな? 俺にはぜんぜん予想付かないよ!
「アキラ、Discordにメッセを送って来た人たちは、アキトのゲームキャラを見ています。恐らく彼らもすぐに称号が発現しまス。今、職員が住所と氏名を特定し、確保に向かっています」
「わかりました、全員日本人ですね? こちらからも職員を出します」
「ああ、俺のフレンドたちまで……」
「それと、アキトは神経が弱っています。これ以上興奮状態が続くのは体によくありませン。自分の部屋に戻って今日はもう早めに寝てください。あとはワタシに任せてネ。悪いようにはしませんかラ」
ジュディさんはウィンクしながらそう言ってくれるけど、俺は納得できなかった。
「寝てられませんよ! やっぱり俺のせいですよ! 父さんだけじゃなく、周りのみんなにも迷惑かけちゃって。俺、何もできませんけど……邪魔はしませんのでせめて後ろで見届けさせてください」
ジュディさんは困った顔になって、明さんに目配せした。
「彰人君、眠そうだよ、寝たほうがいい」
そう言って明さんは俺の頭のカチューシャに軽く触れた。そのとたん、ものすごい眠気が襲ってきて、俺はほんの数秒で意識がなくなった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――ジュディ視点――
「お兄、疲れて寝ちゃった?」
ルカチャンが心配そうに尋ねました。
「興奮しすぎて体力消耗したんでス。ゆっくり寝れば回復しまス」
「そうね、こんなにいろいろあったんですものね。寝ればたいていの疲れは取れるわ」
オカーサンもほっとしていまス。
「私が彰人君の部屋まで運びます。瑠香君、案内してくれるか?」
「はい、こちらです」
「瑠香君、写真はダメだからね」
「――はあい……チッ(小声)」
ルカチャン、アキトがアキラにお姫様抱っこされてる様子を写そうとしてましたネ。このパニック的状況で平常心を保っているとは、なかなかの強者フジョシでース。気に入りましタ。
アキラがアキトを抱っこしてルカチャンの後から階段を上がっていきましタ。アキトはしばらく寝るべきでス。
このカチューシャ型脳波測定用バイザーには特殊な性能がたくさんありまス。
特定の周波数をあてて睡眠状態にさせることもできまース。もちろんこの技術は一般的には知られていませんし外には出しません。悪用されると大変なことになりますからネ。
……さて、大変なことになってしまいました。この一連の事件の犯人はどうやら人間ではありませーン。現実と電脳空間。交わってはいけない二つの空間をクロスさせて存在できる、もしくは存在させることができるのは、人間ではありえないのでース。
いわば、犯人は仮想ではない、本物のXRを実現しているのでス。
しかし! ワタシを最初に呼んでくれたアキラには感謝でス。この事態に対処できるのは、世界中でワタシと白執事君だけでしょう。
なぜなら、犯人はワタシとご同類ですかラ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます<(_ _)>
少しでも気に入った場面があったらうれしいです(*´ェ`*)
次話「第13話 癒しの特殊超合金」は11/14日(金)7:00頃公開予定です。(前後することもあります)
白執事君のターン(*´∀`)




