第11話 ゲーム削除したせいで最悪の事態へ
これまでのあらすじ:
高校三年生の彰人の上に突如現れた『称号』は、彼がもっとも人に知られたくない事実を指す「二股野郎」だった。しかもその称号は、見た人にもすぐに感染するという凶悪さ。妹や母、お隣の奥さんと旦那さんにまで感染し、彼らは外へ出られなくなった。
そこへやってきたのはMRの専門家であるジュディ・如月(25歳日米ハーフ)。彼女の登場により『称号』の謎が徐々に解明されて来たが……
――引き続きジュディ視点――
『嘘つき不倫願望主婦』
称号が増えてしまったキヌエは、手鏡を落とし、へなへなと床に崩れ落ちるように座り込み、両手で口を押えてガタガタ震え出しました。旦那様が刑事ですからネー、世間にバレたら大変でース。
ワタシは玄関の上り口に腰を掛けました。
ワタシもハッキングやら個人情報漏洩やら、ある意味犯罪者で嘘つきでス。お仲間ですから、同じ高さの目線で話したいですネ。
「そんな……こんなことって……ああ――」
「キヌエさん。ワタシは警察官ではありません。とがめにきたのではなく、むしろ逆でース。アナタを助けに来ました」
「助けに……?」
「ハイ。そのためには全部ワタシに話してくれませんカ? なぜこんなことをしたのか。正直に話してくれれば『嘘つき』の部分はすぐに消せます。保証しまス。もちろん、警察には言いませン」
助けに来た、というのは半分本当でース。優秀な職員アキラの家庭に醜聞があってはいけませン。後の半分は、キヌエの悪事を暴いて見せて彼女の脳波を変化させ、脳のどの部分が称号に関係しているか確かめに来たのでしタ。
結果、キヌエのおかげで、この異常な称号の正体がほぼわかりましタ。脳のとある部分に感染源があります。もちろん、アキトたちの脳波も測定しなくてはなりませんが、こんなに早く称号が変わる瞬間を見せてくれた彼女に賞賛を送りたいほどでース!
キヌエは、顔を上げてやっと正面から涙目でワタシを見てくれましタ。
「……嘘を付いてすみませんでした。全部お話します」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――彰人視点――
ジュディさんがお隣に行ってる間に機材のセッティングが終わったようで、瑠香も母もリビングに戻って来た。機材は箱型のサーバーが10台積み上げられてて高さ2メートルくらいになってる。それ以外はノートPCが閉じた状態で5台、持ち込まれたラックに並んで置かれてた。
その機材の、どれもがACアダプターとかケーブルの類とか一切付いていないの。聞いたら、全部無線で繋がってるんだってさ。電源も箱の一つが発電機で、そこから無線で取れるんだって。最先端の機器、すごくない?(※1)
「ジュディさん、おかえりなさーい、このカチューシャこんな感じでいいです?」
隣から戻って来たジュディさんに、瑠香が見せてた。いいなー女の子にはカチューシャ(脳波センサーだけど)似合うよ。
「ルカちゃん、ベリィキュート! アキトも……大変似合っていまース! ぷぷぷ」
「お兄、女の子みたーい」
「うるせー」
涙目になりそう。ふと、立膝でサーバーっぽい精密機器の表示パネルをいじってる明さんを見てみると、おでこにカチューシャをヘッドバンド風に巻くようにして装着してた! そんな風にも装着できたのか。それにオールバックだった髪を降ろしてる。
……明さん、髪降ろすとイケメンじゃん。なんか悔しいな。
ジュディさんが、ソファーに腰掛けて足を組んだ。綺麗だなー、スラッとしてひざ下が長いの。クマちゃんのスリッパ(自前らしい)履いててもこんなに長く見えるんだから、ハイヒール履いたらモデルさんみたいになりそう。
「みなさん、朗報でス。この”称号現象”の仕組みはほぼ特定できましタ」
「「おーー!」」
まじ? ほんとだったらうれしい!
明さんもほっとした顔で、自分のノートPC持ってきた。うわ、これ180万円くらいするやつだ。〇マゾンで見たことある。いいの使ってるなあ。こういうのでシャイファン(シャイニング・ファンタジークの略称)やったら超快適だろうな。
明さんはそれを抱えてジュディさんの向かい側に座って、小さなスタンドマイクを出してジュディさんの方に向けた。録音するぽい。
「なるべく簡単に、むずかしいとろこは省略して説明しますネ。白執事くんの分析結果、どうやら、この称号は脳の”島”と言われる部分から発生しているようでス」(絹江のことはナイショ)
「とう?」
「そう。島、と書いて”とう”と読みまス。情動、社会的情動、共感、社会的な痛み、自己意識、言語もこの島に関係があると言われています。そういう大事な部分に、感染性のウィルス……と便宜上呼びますが、普通の人間にはない特殊な脳波を出す現象が見られまス。それが称号を頭上に投影しているのでス」
「頭の中に島があるのかあ……」
くらいしか、俺の頭では浮かばなかった。なんかすいません。
「それって――頭の中に映写機が出来てるってことですか?」
「ルカちゃん、イイ線いってまース」
「ええ、じゃあ浮かぶのが字だけでよかったわあ。もし考えたことが全部頭の上に出て来ちゃったら一生外に出られなくなるところだったわ」
完全に同意します! 母の頭の中とかぜったい見たくない。多分、韓流ドラマの主人公に自分がなってるとかそんな感じ。
「Certainly。このウィルスがそこまで高性能でなくてよかったでース。ではアキト、シャイファンの画面、出してもらえますか? 君のノートPCを調査させてもらったので判明したのですガ、称号はこのゲームの字体そのものが使われているので、そこにヒントがあるのは間違いないでス。むしろ、そのノートPCにあるローカルのゲームデータの中に犯人がひそんでいる、と推測しまース」
「えっ……あの、そのゲーム、実は削除しちゃってて――」
ジュディさん、この家に来て初めて真剣な顔になった!
「レアリー?」
「まじですけど……ダメでした?」
俺は恐る恐る聞いた。
ジュディさんの顔色が、サーっと冷えていった。
「ローカルのデータを削除? ひょっとしたら対象はサーバー側に……。だ、だだ、ダイジョーブでええす! なんとかします、なんとかなります、タブン!」
そう言いながらジュディさんは両手で頭を抱えてた。
あ、これ、ダメなやつ――
瑠香と母、明さんはお互いを見てから、俺を見た。
俺のせいなの? 消せって言ったのお隣の奥さんと瑠香だよね? でも最終的に決めたのやっぱり俺か?
そのとき、俺のスマホが鳴って、全員ビクってなった。家の中だからマナーモードにはしていなかった。
「あ、父さんだ。今頃なんだろ。ビデオ会話だ、もしもし――」
と、俺が全部言い切る前に、明さんがスマホを俺の頭越しにスっと取り上げて、通話を切った。
「彰人君、映像はダメ」
あっ、そうか、称号見えちゃう!
明さんは、リダイヤルしてスマホを俺に返した。
「ちょ、これ、国際電話なんですけど――」
「その通話料は私が払うから、普通に出て」
ありがたいけど、なんか悪いなあ。
「……ハイ、あー、父さん? 彰人だけど」
『彰人! お前、なにやってるんだ!』
あ、スピーカーモードだ。いきなり怒られた。まさか、バレた?
「なな、なにって?」
『シャイファンのお前のキャラ、ゲームにはない《《変な称号》》付けてピースエリア(PvPができない場所・街や居住区)歩き回ってるぞ! 今、一般ユーザーから通報があって確認した』(※彰人の父はプロムゲー社の社員であり、ユーザーの詳細なデータを見ることが可能)
「ええ? そんなはずないよ、俺、今ゲームとキャラ削除してるんだよ」
『え? そんな、まさか乗っ取られた? いや、お前のキャラは……ローカルでは削除されてるな、じゃあこれは……サーバー上のキャラか――ゲーム内にはない称号を付けている、乗っ取られたのは会社側……』
茫然とした声。俺の父はシャイファンのコミュニティチームスタッフとしてプロムゲー社で働いているんだ。今、ロサンゼルスにいるんだけど。
変な称号だって? まさか……まさか――
「アキラ、すぐにシャイファンに緊急メンテをするよう伝えてください。私は社長に電話しまス!」
ジュディさんが立ち上がって、ちょっと離れたところへ行って白執事くんを手に持って話しかけてる。電話にもなるんだそれ。
「わかった」
明さんはそういうと、また俺のスマホを取り上げた。
「湯浅さん、隣の横山です。今そちらのゲームサーバーに凶悪なウィルスが侵入しています。すぐに全世界のサーバーをシャットダウンしてください。発表は緊急メンテ、としてお願いします」
『横山さん? ――そうですか、……わかりました。すぐに対処します! 一旦電話切ります』
父さんは慌てた声でそう言って電話を切った。一瞬で判断できるのすごいや。
そして俺は悪い予感……いや、悪寒がして、自分のノートPCに電源を入れた。
入れたとたん、Discordのメッセージがいっぱい入っててびっくりした。一時間くらい前からのメッセだ。俺のゲーム内のフレンドたちからで、そのどれもが似たような内容だった。
『お前さー、インしてるから音声Tell(ゲーム内の個別チャット)したら”ケヒャケヒャ”しか言わないのやめろよ、気色悪いよ』
『Agito(彰人のキャラ名)、お前のキャラの頭に変な称号ついてるぞ。二股野郎なんての、あったっけ?』
※1 現代の技術では無線でのサーバーへの電源確保は不可能です。
この物語はSFなのでご了承ください(>_<)
ここまでお読みくださり、ありがとうございます<(_ _)>
少しでも気に入っていただけるとうれしいです(*´ェ`*)
次話「閑話 登場人物紹介2」は早め(一週間以内)に公開する予定です。




