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第9話 AI搭載最新型万能XRデバイス白執事くん

「ふむふむ。なるほど、これが二股の相手ですカ」

「この2人のうちのどちらかが、君の彼女……いや、もしかして2人ともか? そうすると絹江の話は――(※絹江は明に、彰人がまるで自分に気があるような嘘の話をしていた)」

「えっ、なんで知って……うわ!」

 

 明さんとジュディさんが話しかけてきて、俺は前を見た。

 俺の正面に、地獄のようなグループLINEの画面が浮かんでいて、明さんとジュディさんがそれを読んでいた。


 個人情報ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!


 なにこれ! 50インチ以上のテレビみたいな大画面じゃん! それが空中に浮かんでる。いったい何がどうなって……


「これが最新のXR、実空間(real space)ディスプレイでース。空中のどこでもこうやってスマホやPCの画面を出せまス。言い遅れましたが、この家の中のwifiと電化製品は全てワタシの管理下におかれました。外部との連絡はワタシに筒抜けになるので注意してくださイ」


「早く言ってよぉ!! それ、すぐに消してください、XRはよくわかりましたから!」

 涙出そう。まじでこの人、人の心ないな!


「この技術を可能にしているのが、ワタシが開発したAI搭載最新型万能XRデバイス『白執事くんマークツー』でース!」

 こっちの話、聞いちゃいねえ!

 

「とっても有能なんですヨー。XR用のゴーグルがなくても目に見えるように空間に映像を投影できます。脳波ともリンクできるので、頭で考えただけで電灯やテレビのオンオフ、お風呂を沸かしたり、炊飯器のスイッチも押せまース! アレク〇なんて目じゃありませーん! しかし! お米は洗ってくれないので自分でやらないとでース。Hahahaha!」


 盛大に笑いやがった。このテンション、付いて行けないや……。


 と思ったら、急に真面目な顔になってこっちを見た。

「それでですね、二股について個人的な意見を言わせてもらいますが、アキト。天知る 地知る 己知る。そしてワタシも知ってる。(※1)昔の人はいいこといいますネ。


 悪いことはかならずバレるものデース。だったら、バレるよりも自分から白状したほうが()()()で済むと思いまース。それに、二股は良いことではありませんが、彼女たち次第でもあるとオモイマス」

「へ?」


 致命傷ダメでしょ……。


「Youたちはまだ10代の高校生。恋愛経験がそれほどないデショ? もっと話し合って時間をかけてから結論を出すべきでース。彼女たちの想いを聞いて、アキトの本心を彼女たちにプレゼンテーションすることをオススメしまス。……白執事くんによると上手くいく確率39.2パーセントって出ましタ」


「なにそれ!? 確率!?」

「現行のAIよりもはるかに有能な白執事くんがそういってまス。まずは正直に白状し、あとは野となれ山となレ」


「いや、最後ぉ! ……あー、でも、そうなのか。俺たち、付き合ってまだ半年なん だよな。そんな短期間で結論なんか出せないよ。彼女たちの考えを聞かなきゃ。――わかりました。覚悟して、ちゃんと全部話そうと思いますが……ああー、心の準備が――」


「ハイ。気持ちはわかりますが、まずは『招待ありがとね、よろしくー! ちょっと熱があるから寝るけど、元気になったらいっぱい話そう』とでもLINEに返信してあげてくださイ。よけいな心配をかけないための嘘も方便でース」


「わかりました……」

 よくそんな言い訳スラスラ出て来るなあ。でも、おかげで落ち着いてきた。心美ここみ陽葵ひまりには、この事件が終わったら白状しよう。心臓バクバクするけど、やっぱりこのままじゃだめだよな。会って話さなきゃ……。


「それに、うまく行けばそのTwo-timing boyの称号も変わるかもしれませーン」

「え、この称号が変わる? それならすごくうれしいけど、ジュディさんの英語の発音が良すぎて、トゥータイ? なんですかそれ」

「英語で”二股野郎”という意味でス。アー、言うのを忘れてました。ワタシの目にはみなさんの称号が()()()()()()のでス」


「ええっ!?」


「その人の脳内基本言語で”称号”が見えるようになっているのでス。たとえて言うと、ブラウザの種類を見分けて最適な表示をさせるCSS(Cascading Style Sheets)のようなものが組み込まれている、と言えますネ。……これは思ったよりやっかいな相手でース」


「そうか、この犯人は出来るだけ多くの、日本だけではなく()()()()犯行を広げるつもり、ということか」


 明さんは恐ろしいことを言った。

「その通りでス。さすがサイバー犯罪対策課の刑事さん(※2)、優秀でース!」

「如月博士、しー」

と、明さんは人差し指を口の前に立てた。身分のことは秘密らしい。この人も専門家だったのか。


「ソーリーソーリー。では、機器の設置もほとんど終わりましたのデ、白執事くんの本体を出します。カモーン!」


 ジュディさんは、段ボール箱の中から、白い四角形の物体をひょいっと取り出した。それはルービックキューブくらいの大きさで、6面とも真っ白。それをテーブルに置くと、下の面から綿棒みたいな細さの黒い足が2本、にゅっと出た。


「うわ!」

 びっくりしてたら、横の二面からまた綿棒みたいな手が生えた。なんだこれ! 手足が出たとたん、ひょこひょこ歩きだしたよ!! うおー! テンション上がったー!

※1 中国、後漢の楊震が王密から金十斤をおくられ、「誰も知っている者はいませんから」といわれたのに対して答えたことば。


意訳:誰も知るまいと思っても天も地も知っており、私もあなたもそれを知っている。知るまいと思われることでも必ず誰かが知っている。不正・悪事はいつかは必ず露顕するものだ。


※2 警視庁サイバー犯罪対策課は、東京都の警視庁生活安全部にある警察組織。港区新橋にハイテク犯罪対策総合センターがあり、横山明はそこで私服で通勤・勤務している。(実在の組織とはまったく関係ありません)


 偶然とはいえ、彰人の隣が明の家で幸運であった。もしも他の警察官であれば専門管轄への初動が遅れ、ジュディ・如月博士に連絡は取れず、事態はかなり悪化していたはずである。

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