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第9話 ダンジョンゾンビは畑を作る


 除草剤を撒いた2週間後、俺の目の前に広がる耕作予定地は、春先にも関わらず黄色く変色し枯れ果て茎だけが散らばる大地が広がっている。雲が半分程空を覆っているため、もしかしたら少し雨が降るかもしれない。農耕部隊の面々はその大地に3本の鍬を担いで立っていた。


「今日はこの枯れた雑草の残骸を大地に漉き込みながら耕してもらう。鍬は3本あるから3人交代で行うように」


「うへえ。この広い場所全部耕すんすか?この人数じゃ無理じゃないっスかねぇ?」


 キツネが2haあるクソ広い耕作予定地を見て不満を漏らす。俺も流石にこの広さを人力で全体を耕すのは不可能だと思っていたので頷きで返す。

 

 「流石にこの広い場所全体を漉き込む作業は人力では無理だ。そしてそんな馬力がある従順な魔物もうちのダンジョンにはいない。だから今回は必要な面積を直線状に小分けに耕し、畝という作物を植える空間だけを作ってもらう」


 俺はなるべく人力で可能な方法を模索して出てきた、最低限の労力で出来る耕作方法を皆に提示する。だが皆は一様に頭に疑問を浮かべていたので、言葉ではなく行動で示したほうが早いと思い、鍬を持ってむきだしの地面を進んだ。俺は頭の中でどういうふうに畝を並べるか思案し、おおよその予定を立てて鍬を構える。この時右足を前に出して体を目標に右肩を出すように鍬を握る、左手は鍬の柄の下部分を握り、右手を柄の中心を持って鍬の先端を上下に回転させるように土を持ち上げ畝立てする方向に落とす。土の柔らかい場所は簡単に土がほぐせる為上下の運動も少なめに済むが、今まで農耕をしていなかったこの土地は土質にもムラがある。当然土が硬い場所もあるので鍬を上げる位置を肩より若干下の位置でまで上げて重力落下をさせるようにほぐす。それでも鍬が刺さらなければおそらく石でも中にあるのだろう。当然石は小脇に積んでおいて後で回収することにする。そこまでの作業を部下にみせると、部下たちはほうほうと感心する仕草をしていた。


「石は全部退けたほうがいいのですかな?」


 教授は俺が退けた石を眺めて顎に手をやって質問をした。


「なるべく退けたほうが、次回鍬を入れるときに道具が傷つかなく済むからな。ただ小石程度の奴は残しておいても問題ない。この作業を1列の畝を作る為に往復する。」


 俺は疑問を解消させるために教授からの意見を返す。 農耕をする上で石が問題になることはないが、あると道具が傷むため、出来る限り排除しておいたほうが良い。大きい石だと根の成長阻害にもなりかねない。それに俺の頭の中にある近代技術が石を退けておけとうるさいからな。


 その後、農耕部隊で力持ちのイノシシとクマとシカに鍬を持たせる。この時、交代は1列毎に行うことを指示した。ただし体格が小さいタヌキにはこれからの別作業を任せることにする。

 

「タヌキは鍬作業はせずに、植え付け作業をしてもらう」


「ぼくもみんなみたいに耕したいです!」


 タヌキは『いつも』のように何でもできます!と言わんばかりに少しムッとした抗議の表情を俺に向けてくる。俺は『まいど』のことのようにダメだっと顔を振ってその抗議を否定した。見た目年齢8歳ぐらいのタヌキに一列も耕させてたら確実に日が暮れてしまう。それよりも種を撒くためにいちいち腰を落とさないといけない作業に集中してほしい。

 タヌキが俺にやりたいという抗議を繰り返していると、イノシシがタヌキの後ろから脇の下に両手を差し込んで持ち上げる。


「タヌキ君!ユキトさんにも理由があるみたいなんだな。あんまりみんなを困らせちゃだめなんだな」


 イノシシは自らのほうに向けてタヌキを下ろして説得をした。でもだってを繰り返しているタヌキを尻目に俺のほうに理由は何?という視線が送られてくる。


「植え付け作業は身長が高いと腰にくるんだ。タヌキの身長だとその作業をより効率的に行えるから『あえて』交代から外した」


 俺は若干の嘘を交えながら説得することにした。タヌキはその言葉の意味を素直に受け取ったのか抗議を止めて、こちらを仰いだ。


 最初に鍬を持たせた3人が同時に予定地点に立つ。どうやら、どうせ交代制なら競争をしようとクマが言い始めたようだ。部下のやりがいを奪うのは良くないし、1列もいかないうちに疲労でどうでもよくなるだろうと予想し、やる気がある部下にいいぞと了承しておいた。キツネが楽しそうにスタートの合図をする。力自慢の3人が一気に鍬を使って畝を作り始めた。最初の勢いはクマが優勢であったが半列程に差し掛かったところで腕が止まる。柔らかめの土とはいえダイレクトに腕に振動が来るこの作業は想像するよりもかなりハードだ。特に腕橈骨筋への負担が半端ないのがこの作業だ。ダラダラでも半日続けていれば腕がパンパンになり握力が物凄く低下する。剣を普段振っているクマがスタートダッシュで優位に立てたのがこの筋肉のアドバンテージがあったからなのだろう。だが、もうすでにイノシシに追い抜かれかけているのを見るに持久力はイノシシに軍配が上がるようだ。シカは、マイペースに畝を作っているところを見るに元々乗り気ではなかったのだろう。イノシシやクマから大きく離されている。だが、上手く鍬の刃を垂直に入れ体で引くことで筋肉に負荷を与えない動きは正に手本通りといった感じだ。クマやイノシシとは違う意味で体のバランスが良いのかもしれない。

 

「それでユキト殿。今回は芋を植えると言っておったが、どういうふうに植えるのかな?」

 

 競争するということで視線がそちらに向いていたのを教授がコホンと咳払いをして次の指示を仰いだ。


「うお!……すまん。3人の耕す速度が予想以上に早かったから、つい見入ってしまった。」

 

 俺は自分のやるべきことを忘れかけていたことを軽く謝罪した。それから芽出しをしたジャガイモとクルメを20cm間隔で一個ずつ芋が完全に隠れるほどの深さに植えていく。この時芽が出たほうを上に向けて植えると育成が上手くいくらしい。植えるときに芽の数が3つになるように取り除いておくと後で芽掻き作業の手間が省ける。別に食べるだけなら芽掻きをする必要はないのだが、皮を剥く作業が増えるよりは芽掻き作業のほうが楽だからな。そしてこの作業を部下に教えて、やらせてみるとタヌキが一番早く上手く植えられていた。やはり屈伸運動は腰にくるからな。教授のほうに視線を向けると今までに見たことのない険しい顔で腰をさすっていた。ゾンビの見た目年齢侮りがたし……。もっと教授の体は労わってやろうと思った。

 

 最初の3人が畝を作り終えた。次の3人として俺とイヌとキツネが鍬を受け取った。このペースでいけば次のメンバーが半分程耕した頃に夕暮れになるだろう。そういう予想を立てて畝作り作業に取り掛かる。芋植え作業にも部下たちは馴れてきたのか、畝作り班が折り返して半周してきたころに、ぽつぽつと雨粒が俺の頬に当たる。


「雨が降ってきたっスね。雨宿りでもして通り過ぎるの待つっスか?」


 キツネが空を見上げて鍬を振るのを止める。俺は、頭に今現在流れている情報を口に出した。


「せめてこの一列は終わらせるべきだ!皆も急いで出来上がった畝に芋を植えてくれ!あとで理由は話す!」


 鍬を振りながら強めの声で指示を飛ばす。皆が不思議そうにこちらに視線を向けているが、それよりも急がないといけない。俺が鍬を急いで振っている様子をみた部下たちは言いたいことを飲み込んだのか作業に戻った。それから雨の勢いが少しずつ強まっていった。急いで耕したので少してきとうになってしまったが40分程度の時間で畝を作り芋を植え終える。俺たちの服はびしょびしょになり、体のラインにぴったりくっついている。髪は風呂上りに近い状態になった。こんなことなら狩猟班時代の外套だけでも用意するべきだったかな。俺たちは、作業が終わり次第ダンジョンへと走り出した。足に着いた泥は重かった。

 ダンジョン一階層に走りこんだ俺達はまず服を着替えることにする。長靴も用意してなかったため履いてる靴はドロドロだ。これは水で洗わないといけないな。俺たちがいる廊下はこの前刈り取った雑草が床を覆うように敷き詰められている。泥汚れを気にする必要はなさそうだなと、内心安堵した。俺はドロドロになった靴を床の雑草でこすり落とすように歩くと部下たちはそれを真似て付いてきた。雑草が敷き詰められていない床までたどりつくと靴を脱いで部下たちに指示を出す。


「とりあえずここで一旦解散だ。更衣を済ませたのちに、いつもの食堂にまた集まってくれ」

 

 そう言うと俺は自分の部屋へと向かった。

 

 ***

 

 30分程したのちに、俺は食堂に向かう。部屋に入ると既に部下たちがテーブルに座って談笑をしていた。仲が良いのは良いことだと思いつつ。近くの椅子に座る。部下たちが談笑を止めてこちらを向いたので、皆が不思議に思ったであろう理由を切り出した。


「それじゃあ、雨が降ってきたときに何故作業を止めなかったのかを説明させてもらう」


 部下たちは同じ様に相槌を打つ。


「雨が降ったのでこれから二日半か三日は畑仕事は出来ない。皆も先ほど耕して貰ったから分かると思うが、ここの土地は若干粘土質な傾向にある。裏を返せば肥沃ではあるのだが、それだけ土が水を保持するということだ。そして粘土状になった土を耕すと解れるどころか空気の通り道を塞いでしまう。芋は特に湿り気に弱いから空気の穴がない状態で植えると確実に腐る」


 俺は雨が農業の味方なだけではないことを力説した。


「なるほど、それで先ほどは慌ててキリのいい場所まで作業を進めていたのですな。」


 「そういうことだ」

 

 教授がうんうんと理解したことを表した。他の皆もなるほどねとかそういうことかなどの返しで理解を示した。

 わがままだが必要なタイミングで必要な量を必要な時間だけ降らしてほしいというのが農家の総評だろう。ずっと降ると作業は中断されるし、降らないとそもそも作物が育たないというジレンマが農業にはある。そうなるとやはり食料確保安定化のためにも技術革新は進めるべきなのか?でもポリ塩化ビニールの作り方なんて分からないよな……



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