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第5話

 それは、とても気温が高い日だった。


 カイラは出かけていていない。その隙にユキは服を脱いでほぼ下着の姿になった。


「暑い。氷もらってもいいかな」


 ユキの住んでいた街では高級品扱いされている氷だが、水の魔法も氷冷の魔法もお手の物の大魔法使いカイラにとっては、氷は高級品でもなんでもないらしく、好きなときに勝手につかえと言われている。


 保冷庫から氷を取り出して、口に含むと気持ちいい。


 ユキは、下着姿のまま、ダラダラと氷を味わっていた、その時だった。


「ずいぶんと優雅なものだな」


「カ、カイラ様!お、おかえりなさい……。結構早いお帰りで……」


 カイラに下着姿をみられたユキは、真っ赤になって慌てて服を拾い上げた。


「ふん、恥ずかしがらなくてもいい。俺は貴様のような小娘の体なんぞに欲情しない」


 カイラは鼻で笑う。


「こう見えて俺は女には困っていないんだ。色々色気のある女共と経験している。貴様の肌着姿なんぞ、赤子の裸体のようなものだ」


 そこまで言われると、ユキも少し傷ついてしまう。

 カイラは、凹んだ様子のユキを見て、言い過ぎたかと少しだけ反省したようで、顔をそらしてすぐに話を変えた。


「ところで。喜べユキ。土産を持ってきてやった」


「お土産?」


 キョトンとするユキの前になり、カイラは以前渡したのと同じような赤い眼鏡を取り出した。


「魔法具のプロの知人に頼んでな、前の眼鏡を改良してもらった。かなり強い魔法も防ぐから、今度こそ大丈夫だ」


「わあ、ありがとうございます!」


 ユキは早速眼鏡をつける。


「早速、カイラ様と目を合わせてみてもいいですか?」


「ああ、今度こそ大丈夫だ」


 ドヤ顔のカイラの目を、ユキは思いっきり見つめた。


 一、二、三秒……。

 どれだけ見つめても、カイラの意識は保ったままだ。


「はは、どうだ小娘が!!貴様の呪いなんぞ、俺にかかればこんなもんさ」

 高笑いするカイラに、ユキは嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます。これで、上を向いて歩けます」


「おう。ま、根本解決ではないから、なるべく眼鏡は外すなよ」


 カイラの注意に、ユキは頷いた。

「絶対に外しません」


 ※※※


 それから数日後。


 ユキはその日、庭の手入れをして泥だらけで汗だくになっていた。

 カイラは泥だらけになった状態で家の中に入られるのを嫌がるので、庭の泉で少しだけ泥を落とすことにした。


 人が付近にいないことを確認してから、服を脱ぎ、下着を脱ぎ、そして、カイラから決して外すなと言われたメガネも外す。

 そして泉に手を突っ込んで、少しずつ水浴びを始めた。


 泉の水は冷たいが気持ちよく、ユキはのんびりと水浴びを楽しんでいた。


 その時だった。


「おい、ユキ、こんなところで何をして……?」


 泉の近くの木の陰から、カイラが顔を出した。裸体のユキは慌てて服をかき集めた。しかし、ほんの少し遅かったようだ。


「あっ」


 顔を出したカイラと、メガネを外したユキの目が完全に合ってしまった。


 ――

 ――――

 ―――――


「いいか、本来俺は女の裸を見たくらいで鼻血を出して倒れるようなガキじゃないんだ」


「はい。わかっています」


「この俺が、貴様のような小娘の裸体に興奮するわけがないだろう」


「はい、わかっています」


「これは事故だ」


「はい、わかっています」


 鼻に布を突っ込んで鼻血の止血中のカイラが、言い訳のようにグダグダ言っているのを、ユキは大人しく頷きながら聞いていた。


 そう、あの時ユキと目のあったカイラは、誘惑にかかった瞬間、ユキの裸体を見て鼻血を噴射し、そして倒れてしまったのだ。


「カイラ様、お鼻の布がまた赤くなってきたので取り替えましょう」


「いらない!自分でやる!!」

 カイラは不貞腐れてユキの手を振り払うと、キッとした顔で言った。


「いいか!次から裸になるなら風呂場へ行け!あんな外なんかで無防備にしているところを誰かに見られたら、呪いだの誘惑だの関係なく襲われるぞ!」


「……小娘の赤子みたいな身体なのに?」

 ユキがそう聞くと、カイラはフン、と顔をそらした。

「まあ、それは言いすぎた」

 それだけ言うと、カイラはそのまま自分の部屋に戻っていった。



「鼻血、すごかったな」

 ユキはボソリと呟いた。



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