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第4話

 カイラはいつも忙しい。


 ユキの呪いだけでなく、様々な解呪の依頼を受けているカイラは、ちょくちょく外出しては、大金を持ってドヤ顔で帰って来る。


 今日も呪いを受けた偉い貴族のところへ行き、大金を手に戻ってきたのだが。


「カイラ様、何か良くないことでもありましたか」


「は?良くないことだと?そんなものはない。見ろ、この成功報酬を」

 カイラはテーブルに金貨を積み上げた。


 しかしユキは首を振った。

「いえ、その。カイラ様の顔色が悪い気がしたので」


 ユキの言葉に、カイラはチッと舌打ちをした。


 ユキは近づいて、カイラの手に触る。勿論目は合わせないように。


「おい、勝手にさわるな」


「熱い……!」

 ユキは困惑しながら言った。


「少し触れただけでこんなに熱い。体調悪いのでは?」


「ふん、大したことはない」


 カイラは、どかっと椅子に座った。


「まあ二、三日前から身体に違和感はあったが。まあ仕事も入ってたしな」


「もう仕事は無いですよね?ゆっくりと休んだほうが」

 ユキが心配して言うと、カイラは鼻で笑う。


「こんなもの大した事ない。仕事は無いが、貴様の解呪はまだ見通しが立っていないからな。あとでまた研究に……」


「寝てください」


 いつもカイラに素直に従うユキが、厳しい口調で言った。


「私のは後ででも大丈夫です。二、三日前から調子が悪かったなんて……。今しっかり休まないと悪化します」


「おい、勘違いするな。貴様のためじゃない。早く貴様の呪いを解決しないと、俺の沽券に関わるんだ」


 そう言ってカイラは立ち上がろうとしたが、その瞬間、ふらつき、倒れそうになった。

 ユキは慌ててカイラを支える。


「駄目です。寝ましょう」


「この俺に命令するな」 


 カイラはユキを振り払って再度立ち上がろうとした。


 ユキは大きなため息をつくと、仕方ありません、と呟いて、カイラの顔を掴んで自分の方へ向けさせた。そして目を合わせたのだ。


 一瞬のことにカイラは抵抗できず、すぐにふらりと意識を失った。


「大丈夫ですか?すみません、強硬手段を取ってしまいました」

 ユキはカイラを抱き起こす。


「ユキちゃん……苦しいよぉ。頭痛いし、喉も痛いしクラクラするし……」


「そうですか。ずっと我慢してたんですね」


 カイラ甘えるようにユキに近づく。


 ユキは必死で考えていた。

 誘惑を利用して足止めしたものの、カイラは十分ほどで我に返ってしまう。十分で寝かしつけるのは難しいだろうし、ならばせめてこの間に薬でも……。


「カイラ様、栄養あるものを食べましょう。そしてお薬。お薬はどこにありますか?」


 ユキの問いに、カイラは嫌そうな顔をした。


「ある程度の病ならすぐに直せる魔法薬がある。……んだけど……あれすごく苦いから飲みたくない」

 不貞腐れ顔のカイラ。

 もしかして薬を飲みたくないから無理してたんだろうか、と思い、ユキは少し呆れた。


「私はカイラ様に元気になってもらいたいので、ぜひ頑張ってお薬を飲んでください。お薬どこですか?」


 ユキに言われて、渋々、ふらふらとカイラは魔法薬の保管庫に行き、真っ黒な小さな瓶を持ってきた。

 そして、ユキの前に座り込むと、上目遣いで恥ずかしそうに言った。


「……ユキちゃんが、キスしてくれたら頑張って飲むけど」


「ほへっ!?」


 突然のカイラの上目遣いのおねだりに、ユキは真っ赤になった。カイラまで真っ赤になっている。


「だめ?」


「えっと、その」

 ユキは一瞬戸惑ったが、悩んでいる暇はなかった。カイラが我に返る前になんとかしなければならないのだ。


「い、いいですよ。でも、ほっぺですよ!ほっぺ!」


「うん!いいよ!ほっぺでも!」


 ニコニコのカイラに近寄って、ユキはその熱で熱い頬に口づけをした。


 するとカイラはデヘヘ、と笑い、そして約束どおり黒い瓶の薬を飲み干した。


「オエエエッマズっ!!」


 カイラはそう言いながら倒れ込んだ。


「大丈夫ですか!?」

 ユキは慌てて近寄る。


「……貴様……許さねえぞ……」


「あ、もとに戻っちゃいましたか」


「もとに戻っちゃいましたか、じゃない!!貴様とうとう本性を現したか!わざと俺に誘惑魔法をかけやがって!!」


 薬の苦みで我に返ったカイラが、ユキに詰め寄る。ユキは首をすくめた。


「すみません……でも、顔色はすっかり良くなったようで……」


「ああん!?」


 カイラは、ユキの言葉で、自分の体調がすっかり良くなっていることに気がついた。

「ふん、治癒薬か」

 カイラは空になった瓶を持ち上げる。


「確かに効くが、ドブ臭い上に最強に苦くて、我慢強いはずの騎士でも飲めないクソみたいな薬だ。よく俺はこんなもの飲んだな」


「そ、そんなにヤバい薬だったんですね……」

 ユキは啞然とした。


 そして、思わず、カイラの頭に手を乗せた。

「よく飲めましたね。偉いです」


「はあっ!?貴様何をしている!」


「はっ!つい!ごめんなさい!」


「つい、じゃない!大体な、次にわざと誘惑をかけたらこの家から叩き出してやるからな!!」


 激怒するカイラに、ユキは慌てて手を離して頭を下げる。


 ――だって、つい。キス一つでそんな苦い薬を飲み干したカイラ様が可愛く思えてしまって。


 ユキは、頭を下げたまま、あのニコニコのカイラを思い出してニヤついてしまった。








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