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剽窃の皇位  作者: 56号
第一章 蒼穹の月
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第六話 見えない敵


令和7年10月17日 午後11時47分

警視庁公安部庁舎・神谷警部補執務室

北畠晴臣の死から1ヶ月。

山科の襲撃事件から3日。

今、この国の中枢で“起きてはならない連続”が起きている――その予感は、皮膚の下でずっと疼いていた。

神谷は机上に広げられた二つのファイルを交互に睨んでいた。


一つは北畠晴臣の死亡報告書。死因は「階段からの転落死」。だが、後頭部の傷は鋭角な打撲、目撃者なし。


もう一つは山科襲撃事件の現場写真。焼け焦げた松明跡、犯行声明の象徴である“逆菊の刃”。


直感が告げていた。

これは連続事件だ。ターゲットは、尊陽親王“個人”ではない。

これは――**“血の系譜を葬るための戦争”**だ。


神谷の内面独白:

「俺はずっと、公安で“見えない敵”と戦ってきた。過激派、カルト、外国スパイ。

だが今回は違う。

奴らは、日本という“国の記憶”を敵に回している。」


《回想:北畠晴臣との会話》

3年前。民俗学研究会の非公開講演にて。

終了後、神谷は晴臣に声をかけた。

神谷「“影の皇統”って、本当に実在するんですか?」

北畠「制度の中に姿を現すのは“表の権威”です。

でも、目に見えないところで、人々の中に“続いているもの”がある。それが本当の皇統かもしれませんね。」

あの時は笑って聞き流した。

だが今、あの言葉が不気味な現実味を持って蘇る。


《捜査の壁》

神谷は内閣情報調査室に照会をかけていたが、回答はこうだった:

「旧“桜十字会”関連団体の監視は現在解除済。

“神皇会”は国内団体法令上の問題なし。」

そして、上層部の態度は明確だった。

「……神谷、お前も分かってるだろ。これは“政治案件”だ。動くな。」

だが、神谷は封を開けてしまっていた。

“昭和の親書”の存在を裏付ける内部証言、偽装計画の兆候、そして尊陽親王襲撃の現場証拠。

すべてが示していた。

何者かが「皇統の統合」を潰しにかかっている。

手段は問わない――殺し、隠し、歴史を上書きする。


その夜、神谷は机にノートを一冊置き、こう書き記した。


【機密記録第7号】

◆被疑対象:原理派工作組織「神皇会」

◆推定責任者:二階 栄之進

◆目的:尊陽親王の暗殺もしくは存在否定、統合阻止

◆計画名:C計画(親王死亡報道偽装・幽宮破壊)

※この記録が私の死後に発見された場合、真相解明の起点となることを期待する。

国家とは記憶である。

その記憶を奪うものは、“敵”である。

神谷 諒一(公安部警部補)


命令に背くリスクを承知の上で、神谷は極秘に藤代議員の私邸へと向かう。

目的は一つ。

「親王を護るために、“民の側”から動く者と連携を取る」。

これまで敵視してきた政治家。

だが、今必要なのは“法の正しさ”ではない。

“歴史を守るための動き”だった。



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